Q.販売店に前所有者の不幸を告知する義務はないんですか?

車を購入したところ、たまたま友人が前所有者を知っていました。友人によると前所有者は病気で亡くなったらしく、家族が不必要になった車を処分したのだろうということでした。車自体に欠陥はないのですが、気になるので返品したいと思っています。これは可能でしょうか?

A.車に関係しない場合は、告知する義務はないでしょう

結論から言うと、前所有者がただ亡くなったというだけでは返品の対象にはならないでしょう。しかも今回は病が元で亡くなっているということなので、車とは直接関係がありませんこういったケースの場合は、販売店に不利益事実の不告知にもあたらないと考えられます。自動車公正取引協議会によって告知義務が定められているのは、修復歴がある場合など。残念ながら、前所有者の生死はそこには含まれていません。どうしても我慢ができない場合は、裁判になると思いますが、そこでは一般的に我慢できるのはどの程度かといった受忍限度を中心に話がされると思います。

とはいえ「車で事故を起こして亡くなった」「車内で自殺した」などのケースでは、車と密接に関係することなので、受忍限度からいってもやはり事前に説明が必要でしょう。ただ、オークションなどで仕入れた場合には、販売店自身もそこまで把握するのは難しいのも事実です。その場合は、残念ながらどうしようもありません。

当然のことですが、販売店もビジネスでやっているので、法律的にもすべての不利な部分を伝えなければいけないわけではありません。例えば、コンパクトデジカメを検討している人に、一眼レフと比べて不利な点は説明しません。基本的にはコンパクトデジカメの利点を説明するはずです。中古車販売も同じで、必ずしも悪い点ばかりを伝えていては商売になりません。そのため、気になることは自分から質問するという姿勢をもつことが重要です。

第77回:前所有者が亡くなったという事実を知ったら!?|渋滞ができる法律相談所
illustration/もりいくすお

■ワンポイント法律用語■

受忍限度(じゅにんげんど)
一般的な社会生活上、我慢をすべき限度。被った迷惑が社会的に見て我慢すべきと考えられる限度のこと
不利益事実の不告知(ふりえきじじつのふこくち)
ある重要事項またはそれに関連する事項について、事業者が消費者にとって利益となる旨を告げ、デメリットとなる部分を故意に消費者に説明しないこと。それによって誤認して結んだ契約は取り消すことができる