アバルト 695 トリブート・フェラーリ

■これから価値が上がっていくだろうネオクラシックカーの魅力に迫るカーセンサーEDGEの企画【名車への道】
クラシックカー予備軍モデルたちの登場背景、歴史的価値、製法や素材の素晴らしさを自動車テクノロジーライター・松本英雄さんと探っていく!

松本英雄(まつもとひでお)

自動車テクノロジーライター

松本英雄

自動車テクノロジーライター。かつて自動車メーカー系のワークスチームで、競技車両の開発・製作に携わっていたことから技術分野に造詣が深く、現在も多くの新型車に試乗する。『クルマは50万円以下で買いなさい』など著書も多数。趣味は乗馬。

最高峰スーパーカーブランドとのコラボを実現させた、名チューナーの志を受け継ぐ1台

——今回は松本さんも乗っていたことがある名チューニングブランドの車にしてみました。

松本 ということは、アバルト 500 かな? いいんじゃないかな。僕が乗っていたのは1955年のフィアット600プリマセリエだったんだけど、簡素にして頑丈な作りの骨格が今の500と似ているね。

——それのアバルトに乗ってたんでしたっけ?

松本 当時のアバルトのキットを手に入れて、エンジンOHを機に取り付けたんだよ。ギア比のファイナルも変更して最高速を高めたんだ。懐かしいなぁ。

——昔からそんなことしてたのか……。

松本 ピストンやリングギア、ボルト類にABARTHの刻印が打ってあってね。マニア心をそそるんだよ。創設者のカルロ・アバルトは「チューニングの魔術師」って呼ばれてたんだけど、MARMITTA ABARTH(アバルトのマフラー)の音はその名前にピッタリでね。750㏄とは思えない音色を奏でたもんだよ。いまのアバルト 500、現在だと595だけど、これも別にキットを販売しているんだ。マフラーを装着しただけのモデルに乗ったことあるけど市販されているアバルト 500とは全然違う雰囲気でたまらないんだよ。こう、蠍座生まれの志を受け継いでるって感じだね。

 

アバルト 695 トリブート・フェラーリ
アバルト 695 トリブート・フェラーリ

——アバルトって意外と深く知らない人が多いですよね。ボクもですけど。基本から教えてくださいよ。あ、今回の車両はこちらですね。お馴染み、コレツィオーネさんで見つけました。

松本 少しオーナーがカスタムしてるけど、いいねぇ。まずこのアバルト 695 トリブート・フェラーリだけど、3年間の間で1700台弱が生産されたんだ。

——資料を見たら1695台ですね。

松本 2007年に登場した現行型のフィアット 500 がベースだけど、とにかく作りがいいんだよ。1955年のフィアット 600のように骨格が丈夫なんだよね。言ってみればフィアットが製造するプラットフォームの中で、最も精度が高くて、クオリティも最高のモデルをベースにしているってわけ。このプラットフォームはフィアットがドイツフォードと共同で作ったんだけど、これはフィアットにとってすごく良い結果になったんだよね。ここ最近のフィアットにはなかった、現在の車に必要な精度とクオリティがこのプラットフォームによって確保できたんだ。

 

アバルト 695 トリブート・フェラーリ

——でもフェラーリとのコラボなんてずいぶんと思い切ったことをしましたよね。

松本 世界のマニアがかろうじて手に入りそうな台数にして、名車としてプレミアム感が高まるいい生産台数だと思うね。発売当初はフェラーリのディーラーだけで販売したあたりも、バリューを目いっぱい高める方法として大正解だと思う。もちろん、シリアル番号が付けられてるし。

——生産台数が少ないっていうのは、名車としては欠かせない要素ですもんね。

松本 このモデル「アバルト 695 トリブート・フェラーリ」は泣く子も黙るフェラーリとのコラボだからね。フィアットのコンペティションモデルを支えたアバルトと同グループの最高峰に位置する弩級スポーツカーブランド、フェラーリをコラボさせてフィアット 500のブランドを強化して底上げをする。これはとても素晴らしい戦略だと思うな。でも、エンツォがご存命だったら実現は難しかっただろうね。

——エンジン出力がベースより上がっていて、装備も特別なのはなんとなく知ってますけど、松本さん的に刺さるのはどの辺なんですか?

松本 イェーガー製のメーターを使っているところとか、いいよね。このイェーガーってJaegerっていうスペルだけど、昔の高級車の計器類はイェーガー製だったんだよ。中身は時計メーカーが作ったように精巧な作りになっているんだよ。 僕は以前、このイェーガーのクロノメトリックという精度が高い方式の機械式タコメーターを持っていたんだけど、壊れたときに中身を恐る恐る開けてみたんだ。前々から興味があったからね。それで中身を見たら機械式の時計と設計が類似していてね。その作りの素晴らしさにとても感激したよ。こういった細かいパーツもしっかりとこだわって作っているところも名車となるエッセンスだろうね。

——細かいところまで見てますねぇ。

松本 そうそう、この車のマフラーは最初に話したけど、当時のMARMITTA ABARTH の面影を残して作られたタイプが装着されてるのがいいね。ちなみに生産はトリノにあるミラフィオリ工場なんだけど、ここはマセラティ レヴァンテの製造もしているんだ。しかも戦前からある歴史的な工場で、その前はイタリアの王家であるサボイ家のお城があった場所なんだよ。歴史的にも由緒正しいところというわけ。そしてアバルトの本社もこのミラフィオリ工場にある。つまりアバルト 695 トリブート・フェラーリは本社からデリバリーされている車なんだ。いま本社があるところから出てくる車ってそうそうないよ。
 

アバルト 695 トリブート・フェラーリ

世界限定1695台、アバルト 500ベースのフェラーリコラボモデル。430スクーデリアと同デザインのストライプや、フェラーリのカタログカラーなどを採用。カンピオーネ・デルモンドの意匠を用いた専用バッジも備え、価格は569万5000円(ロッソ・コルサ)だった。 


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アバルト 695 トリブート・フェラーリ

※カーセンサーEDGE 2021年6月号(2021年4月27日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています

文/松本英雄、写真/岡村昌宏