フォルクスワーゲン トゥアレグ W12

■これから価値が上がるネオクラシックカーの魅力に迫る【名車への道】
クラシックカーになる直前の80、90年代の車たちにも、これから価値が上がる車、クラシックカー予備軍は多数存在する。そんな車たちの登場背景、歴史的価値、製法や素材の素晴らしさを自動車テクノロジーライター・松本英雄さんと探っていく企画「名車への道」。

松本英雄(まつもとひでお)

自動車テクノロジーライター

松本英雄

自動車テクノロジーライター。かつて自動車メーカー系のワークスチームで、競技車両の開発・製作に携わっていたことから技術分野に造詣が深く、現在も多くの新型車に試乗する。『クルマは50万円以下で買いなさい』など著書も多数。趣味は乗馬。

増え続けるSUVにも名車になっていくべき車が存在する

――さて、この企画も長いものでついに11年目に突入しましたよ。

松本 すごいね。数えたら130台以上だもんね。このコーナーって初めは、巨匠(故・徳大寺有恒氏)と古き良き時代の車を見ながらいろいろな話を聞いていくカタチでスタートしたんだよね。

――はい。その後、そのまま企画を継続しつつ、当初はビンテージカーだったのを、ここ数年で「名車予備軍」を取り上げるようになったんです。

松本 今も昔もセレクトがなかなか難しかったね。今では撮影が難しいモデルもあのときは結構まだあったんだよなぁ。

――振り返るとそうですね。

松本 値段も高騰はしていたけれど今ほどじゃないしね。初期の頃はミュージアム級のモデルも結構見に行ってたし。

――初回がランボルギーニ ミウラで、ディーノ、メルセデス・ベンツ 300SLとか僕なんか本でしか見たことない弩級のモデルを取り上げていましたからね。

松本 288GTOを見に行ったらマクラーレン メルセデスがあって、巨匠が「この車は本当に狙い目だぞ! どうだ?」って言ってたのを思い出したよ。あとはヴィンテージ湘南さんにメルセデス 300SCを見に行ったのも印象的だなぁ。

――ありましたねぇ。

松本 でも一番この企画で楽しかったのは徳大寺さんとお店のオーナーと僕で昔の写真を見ながら当時の話やカルチャーの話をしたときだね。これは忘れられない。写真見て「俺このときここにいたよ!」なんてまことしやかな話をして笑っていたね。

――あらためて巨匠のすごさを実感しましたよ。だって「巨匠、この車はどうですか?」って聞くと「これ乗ってたよ」ってすぐ言うんですもん(笑)。

松本 今もお付き合いがあるところも含めてお店も素敵なところばかりだよね。商売っ気がないというか……巨匠も「ああいうお店は儲からないんだよ。だから俺らはうれしいけど心配だよな」って言ってたもんね。

――カテゴリーもいろいろあって今人気のSUVなんかも結構扱ってるんですよね。

松本 そうだね。フォード ブロンコとかカイザー ワゴニアを探したよね。このあたりは今のSUV車の先駆けだからね。やっぱりアメリカって悔しいけどすごいよ。

ジープ カイザー ワゴニア▲ジープ カイザー ワゴニア。1962年にウィリス・モータースが発表したワゴンモデルがジープ ワゴニア。四輪駆動で自動変速機付き(3AT)というのはこれが世界初。また別に後輪駆動モデル、2ドア、4ドアモデルも用意されていた。本誌の撮影で紹介したのは希少な初期モデル

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ジープ ワゴニア(初代)×全国

松本 それを研究して日本はスバル アウトバックやトヨタ ハリアーを作り出したんだからね。AMCのイーグルもアウトバックの先駆けで、これを見てアウディはオールロードを作って、今ではメルセデス・ベンツも作ってる。基本はアメリカなんだよ、SUVは。

――歴史から様々な事が見えてきますね。

松本 歴代レンジローバーも見に行ったね。用賀のお店だった。

ランドローバー ディフェンダー▲ランドローバー ディフェンダー。フルモデルチェンジを果たし、まもなく新型が日本にもお目見えするディフェンダーの初期モデル。1948年から製造していた軍用車両をベースにして1983年から発売をスタート。最後は2018年に150台の限定車を生産して長い歴史に幕を閉じた

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ランドローバー ディフェンダー(初代)×全国
ランドローバー レンジローバー▲ランドローバー レンジローバー。徳大寺氏も新車で買って乗っていたということで企画初期の頃に撮影したクラシックレンジこと初代レンジローバー 。生産期間は非常に長く1970年から1996年まで発売された。全長4500mm以下、全幅1800mm以下というサイズが時代背景をよく表している

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ランドローバー レンジローバー(初代)×全国

松本 最近だと12気筒を搭載したトゥアレグか。

――松本さんがどうしても探してほしいってずっと言ってた車ですね。

松本 だってデザインはVWらしく際立っていないのに、W12エンジンだよ? VWという大衆ブランドを最高峰に持ち上げたかったっていう、願いがこもったSUVなんだと思うよ。だから取り上げたかったんだ。

――新しい世代の車にも、そういった哲学とかメーカーの思いが詰まっている車があるってことですよね。

松本 名車には希少性もさることながら、時代とは関係なく徐々に理解されていくモデルもあると思うんだ。一瞬の流行よりもエンジニアやデザイナーが一丸となって本当にいいと思って取り組んだ形跡が感じられるモデル。そうゆうのが名車と呼ばれるんだと思うな。

――まだまだ取り上げたい車種もありますしね。まだ10年はやれますね。

松本 そうなるといいねぇ。
 

フォルクスワーゲン トゥアレグ W12▲2002年から2010年まで発売された初代のトゥアレグ。ポルシェ カイエンと共同で開発された兄弟車であり、高いポテンシャルを備えていた。その中で名車予備軍として注目したのがW12エンジンを搭載したトップグレード。市場に出回る機会のかなり少ない希少車である

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フォルクスワーゲン トゥアレグ(初代) W12×全国

※カーセンサーEDGE 2020年7月号(2020年5月27日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています。

文/松本英雄、写真/岡村昌宏