▲軽自動車からスーパーカーまでジャンルを問わず大好物だと公言する演出家のテリー伊藤さんが、輸入中古車ショップをめぐり気になる車について語りつくすカーセンサーエッジの人気企画「実車見聞録」。誌面では語りつくせなかった濃い話をお届けします!▲軽自動車からスーパーカーまでジャンルを問わず大好物だと公言する演出家のテリー伊藤さんが、輸入中古車ショップをめぐり気になる車について語りつくすカーセンサーエッジの人気企画「実車見聞録」。誌面では語りつくせなかった濃い話をお届けします!

チープさが、逆に良い

今回は、「原工房」で出合ったプジョー 106について、テリー伊藤さんに語りつくしてもらいました。

~語り:テリー伊藤~

1991年にフランスで登場したプジョー 106。正規輸入された前期型のXSiと後期型S16は、ホットハッチファンから支持されたモデルです。

でも当時の僕は、106に乗っている人たちを「根性無しだな」と思っていました。

なぜなら僕は、フォルクスワーゲン ゴルフから、ごく少数が並行輸入されたこの前期型106ラリーに乗り替えたからです。

……この感覚、わかりますか?

当時は、並行輸入車にはそれなりのリスクが伴いました。あえてそれを選んだことが僕のこだわりでした。

▲ライトまわりに貼られたテープが106ラリーの証し▲ライトまわりに貼られたテープが106ラリーの証し
106(Photo:柳田由人)
106(Photo:柳田由人)

ゴルフに比べて、106は内装がチープ。わざわざ輸入車を買ったのに、なんだかファミリアっぽいんですよ。

でもそこがいい。例えば高級な洋服をそのまま着ても普通だし、一歩間違えれば見えを張っているようでカッコ悪い。

でもあえてドレスダウンすると途端にオシャレになる。106を選ぶこと自体が、僕にとってドレスダウンだったんですね。

20年ぶりに運転席に座ってみて驚いたのは、クラッチの重さ。当時の僕はこれを苦もなく乗っていたのですから。こういうところで老いを感じます。

もう一度こういう楽しい車に乗るためにも、体力をつけておきたいですね。

テリー伊藤なら、こう乗る!

今回お邪魔した原工房には、S16とXSiも置いてありました。

でも、僕があえて今106を買うなら、やっぱりこの前期型ラリーです。

排気量が大きくなった分、S16の方が速さは圧倒的に上だそうです。でも僕は街でしか乗るつもりがありません。高速道路でかっ飛ぶこともないでしょう。

だったら、1.3Lならではの軽さを優先した方が絶対に楽しいはずです。

それにS16は今でもカーセンサーで見かけるけれど、テンサンラリーはめったに出合うことがない。

だったらリスクを冒してでもそっちに飛びつきます。

▲1.3Lならではの軽さがいいんですよ! 正規輸入車では味わえない感覚です▲1.3Lならではの軽さがいいんですよ! 正規輸入車では味わえない感覚です

電子制御でガチガチに固められていない106は、おそらく機械を操る楽しさを存分に味わえる最後の世代でしょう。

しかも、この前期型ラリーは圧倒的に軽くて走りがいい。正規輸入された106でも得ることができない楽しさがあります。

少し話はそれますが、新しいジムニーが大人気ですよね。

これまでジムニーには目もくれなかったようなオシャレな若者もジムニーに飛びつき、“ジムニー女子”という言葉まで生まれています。

でも、彼女たちはジムニーがある暮らしや、ジムニーと自分たちが好きなアウトドアファッションとのコーディネイトを楽しんでいる。

当然、選んでいるのはジムニーのATモデル。MTでデコボコした林道を走破するジムニーマニアとは別の次元でジムニーを見ているわけです。

生粋のジムニーファンからすると、自分たちの聖域に入ってきたナンパな存在に感じるかもしれません。

でも僕は、ひとつの車に様々な楽しみ方をする人がいるのは素敵なことだと思います。

本当なら106もジムニーと同じように、今の若い人たちにも味わってほしいですが……おそらく難しいでしょうね。

なぜなら、若い人たちの多くはAT限定免許しかもっていない。彼らにとっては「車を走らせること」よりも、夜景やスイーツなどの「走った先にある楽しさ」こそが最大の目的だから。

▲やっぱりマニュアル車はハードルが高い。若い人たちに勧めづらいですよね……▲やっぱりマニュアル車はハードルが高い。若い人たちに勧めづらいですよね……

仮にMTが運転できるとしても、わざわざクラッチが重くて運転が大変な車に乗ろうとは思わないでしょう。そんなことをしたら、目的を達成する前に疲れてしまいます。

残念ですが、106のようなホットハッチは、現在のジムニーのような多くの若者からも愛されるポジションには行けないでしょう。

だったらいっそのこと、若い頃に弾いていたギターをもう一度手に取るように、おじさんたちで存分に楽しんじゃいましょう!

製造から25年前後経過した車なだけに、維持も苦労するかもしれません。

不具合が出たときは、頼れるショップに「大丈夫だと思っていたのに調子悪くなったよ」と言いながら修理を依頼する。

そこまで含めて楽しむのが、この年代の車に乗る醍醐味であり、車に愛着をもって接することができるポイントだと思います。

ますます若い人たちには理解できない世界ですね……(笑)。でもそれでいいんですよ!

106(Photo:柳田由人)
▲こういう車は購入後の苦労も含めて楽しみたい。手のかかる子はかわいいものです ▲こういう車は購入後の苦労も含めて楽しみたい。手のかかる子はかわいいものです

プジョー106

1991年に登場したプジョーのベーシックラインで、シトロエン サクソと基本骨格を共用していた106。日本には1995年に1.6L SOHCエンジン搭載のXSiが輸入され、その後、マイナーチェンジを受けた1.6L DOHCエンジン搭載のS16が輸入されている。今回取材したのは1.3L SOHCを搭載する、通称テンサンラリー。最高出力100ps、最大トルク11.2kg-mとスペック的には非力に感じるものだが、車両重量が810kgと超軽量なため、エンジンを高回転まで回すことにより鋭い走りを楽しめる。競技のベースモデルということもあり、パワーウインドウはもちろん、エアコンも装備されていない。日本に正規輸入されていないため、流通量はごくわずか。

text/高橋満(BRIDGE MAN)
photo/柳田由人

■テリー伊藤(演出家)
1949年12月27日生まれ。東京都中央区築地出身。これまで数々のテレビ番組やCMの演出を手掛ける。現在『ビビット』(TBS系/毎週木曜8:00~)、『サンデー・ジャポン』(TBS系/毎週日曜9:54~)に出演中。単行本『オレとテレビと片腕少女』(角川書店)が発売中。現在は多忙な仕事の合間に慶應義塾大学院で人間心理を学んでいる。