▲軽自動車からスーパーカーまでジャンルを問わず大好物だと公言する演出家のテリー伊藤さんが、輸入中古車ショップをめぐり気になる車について語りつくすカーセンサーエッジの人気企画「実車見聞録」。誌面では語りつくせなかった濃い話をお届けします!▲軽自動車からスーパーカーまでジャンルを問わず大好物だと公言する演出家のテリー伊藤さんが、輸入中古車ショップをめぐり気になる車について語りつくすカーセンサーエッジの人気企画「実車見聞録」。誌面では語りつくせなかった濃い話をお届けします!

車バカは最高の褒め言葉!

今回は、「コレツィオーネ(COLLEZIONE)」で出合ったアルファロメオ アルファSZについて、テリー伊藤さんに語りつくしてもらいました。

~語り:テリー伊藤~

不良っぽさを醸し出すスポーツカー。大別すると僕は2種類あると思っています。

ひとつは古いアメ車のように窓に肘をかけながら片手で運転できるもの。カリフォルニアとかフロリダ半島など、海の香りが漂うモデルでもあります。

もうひとつはこれとは真逆で、サイドのラインが高く、窓から運転している顔がようやく覗けるくらいのもの。快適性ではなくデザインに重きを置いた車ですね。

アルファSZ(Photo:大子香山)
▲すべてが直線的で不良っぽいデザイン ▲すべてが直線的で不良っぽいデザイン

SZは典型的な後者の不良っぽさを感じます。

前から見ても異様でしょう。この楔形のシルエットを初めて見たときは驚きました。こんな車、アリなんだ……ってね。まるでカスタムカーじゃないですか。

SZが登場したのは1989年。初めて見たときに「欲しい!」と思いました。でもすぐに「絶対に買わないだろう」とも感じたのを覚えています。

▲ザガートが手掛けたデザインはアルファロメオの中でかなり異質です ▲ザガートが手掛けたデザインはアルファロメオの中でかなり異質です

もしGT-Rにオープンモデルが出たらそれだけで凄いことですが、きっとファンは誰も買おうとしないでしょう。

なぜならオープンになった瞬間、レースには出ないから。SZに感じる異質さはそれと同じものがあると思います。

残念ながらSZは助手席に女性を乗せてドライブを楽しむようなモデルではありません。

見るからに女性にモテなさそうな雰囲気です。もしこれでデートしようとしたら、一発で嫌われるのは間違いない。「あんた、峠攻める気でしょう…!」ってね(笑)。

これは昔の三菱 ランサーエボリューションやスバル インプレッサSTI、あるいは、日産 スカイラインGT-Rも持っている雰囲気。

女性にモテないと言うと聞こえが悪いと感じるかもしれませんが、言葉を変えるなら……世間に媚びていないんです。

今はこういう硬派な車が少なくなりました。わかりやすいカッコよさではありませんが、僕は今乗るのはおもしろいと思いますよ。

ただし、世間からは「車オタク」「車バカ」と思われるでしょう。でもコレ、SZ乗りにとっては最高の褒め言葉じゃないですか!

アルファSZ(Photo:大子香山)
▲この車に乗ったら一発で女性から嫌われる。でも、それを美学と感じないと! ▲この車に乗ったら一発で女性から嫌われる。でも、それを美学と感じないと!

テリー伊藤なら、こう乗る!

アルファSZ(Photo:大子香山)

それでもやっぱり僕はSZが気になります。

SZはアルファロメオの中では明らかに本流から外れたモデル。BMWのZ8やZ3クーペのような、唯一無二だからこそ時代の中で風化しない独創的な雰囲気があります。

当時の時代背景もあり、デザイナーが好きなものを作り、メーカーもそれを許せたのでしょう。BMWのZ1も、SZと同じにおいがありました。

SZやZ1には「未来の車はこうなってほしい」という思いが込められているのではないでしょうか。

現代の車は、この頃のデザイナーが思い描いたものとは違う形に進化しました。

今は、SUVやミニバンなど家族で楽しむモデルが主流です。だからこそ、この車は一切手を加えず、自分1人で当時のアルファロメオらしさを楽しむのがカッコいいと思います。

インテリアもまるで戦闘機のコックピットです。すべての計器がドライバーの方に向いている。助手席なんか関係ないんですよ。きっとナビすら似合わないでしょう。

アルファSZ(Photo:大子香山)
▲リアにはこのような形でスペアタイヤが収まります ▲リアにはこのような形でスペアタイヤが収まります

今回久しぶりにSZを見て、僕もいつか手に入れてみたいと感じました。

ただ、あえて我儘を言うなら……僕はSZの後に登場したRZに乗りたい。あえて不良っぽくなりすぎないオープンでこの雰囲気を楽しみたいですね。

デビューから25年以上経過していますから、幌の状態もかなり厳しくなっているでしょう。雨漏りも覚悟しないといけない。機関系だって、ある程度壊れることを覚悟しないといけないはずです。

コレツィオーネの社長も「SZやRZは壊れないとは言えない」と話していました。

それでも硬派な車好きとして、すべてを背負ってこの車に乗る。カッコいいじゃないですか!

もしあなたが経営者でSZに乗るとしたら、会社が倒産したらSZで逃げてほしい。すべてを失っても最後まで守るのは自分の愛車。

「パソコンはオフィスに置いていったけれど、車だけは持っていった。SZで中央道を走って行ったぞ!」……そんな伝説を作ってほしいですね。

▲異質さを醸し出すモデルは、家族のことを気にせず乗りたいですね ▲異質さを醸し出すモデルは、家族のことを気にせず乗りたいですね

アルファロメオ アルファSZ

独特な風貌から「il Mostoro(怪物)」という異名をもつSZ。1985年に登場した75をベースに1989年から1991年の間にわずか1036台だけ生産された。

SZとはSprint Zagato(スプリント・ザガート)の略。その名が示すとおり、イタリアのカロッツェリアであるザガートが手掛けたモデル。その希少性から近年、相場が上昇傾向にある。



■ テリー伊藤(演出家)
1949年12月27日生まれ。東京都中央区築地出身。これまで数々のテレビ番組やCMの演出を手掛ける。現在『ビビット』(TBS系/毎週木曜金曜8:00~)、『サンデー・ジャポン』(TBS系/毎週日曜9:54~)に出演中。単行本『オレとテレビと片腕少女』(角川書店)が発売中。現在は多忙な仕事の合間に慶應義塾大学院で人間心理を学んでいる。

text/高橋満(BRIDGE MAN)
photo/大子香山