遅い! 小さい! ショボい! でもそこが逆にステキな「逆スーパーカー」のすゝめ
2017/03/17
極端に遅い「逆スーパーカー」もある意味かなり刺激的
すべての自動車愛好家が……というわけでもないが、多くの自動車愛好家が憧れる存在、スーパーカー。それについての公式かつ明確な定義はないが、「スーパー」な「カー」というだけあって、その魅力の本質は「非日常性」にあるはずだ。現実離れした劇画のようなフォルム。いつどこで発揮するつもりなんだ? と言いたくなる異次元の動力性能。そして異次元の価格設定。それらすべてが、我々の日常の延長線上には決してないモノだからこそ、ある種の人間はスーパーカーに強く引かれるのだ。
で、その世界を真摯に追求するのも一つの人生ではあるが、本気で非日常を追求してしまうと、何かと差し障りも生じるのがこの浮世。500馬力や800馬力の車で全開をカマしていては免許証がいくつあっても足りず、そしてそもそも入手にはベラボーなお金が必要。フツーの感覚で生きている人間としては、そう簡単にできるものでもないのが「スーパーカー趣味」なのである。
そこで提案したいのが「逆スーパーカー」だ。
逆スーパーカーについても公式かつ明確な定義はないのだが、要するに「すべてが正統スーパーカーとは真逆な車」をイメージしていただければ、それが逆スーパーカーである。
現代の基準から見るとあり得ないほど遅かったり、あり得ないほど小さかったり、またあり得ないほど質素だったり……という車。それらは正統スーパーカーと真逆のベクトルではあるものの、広くとらえるならば同種類の「非日常性」を享受できるステキでスペシャルな存在だ。あちらが非日常ならこっちだって(ある意味)かなり非日常ですよ、ということである。
逆スーパーカーの化身(?)シトロエン 2CVはこんな感じ!
長い人生のある時期「逆スーパーカー」に乗ってみると、あなたはごくフツーの車に乗っていては絶対に経験しないはずのモロモロを、ひんぱんに経験することになる。そしてそれは正統スーパーカーに乗る人生と(ある意味)同種の驚きと歓びであったと、あとになって気づくのだ。
逆スーパーカー界最大のスターといえばシトロエン 2CVだろう。
筆者も数年前に乗っていたが、最高の逆スーパーカーである。なにせあり得ないほど遅い。そしてびっくりするほど鉄板が薄く、万一の際に果たしてドライバーのことをしっかり守ってくれるものなのか、そんな不安がよぎってしまうほど、はかないというかプリミティブな作りの車だ。
そこが逆に素晴らしい。
駐車場でエンジンを始動させ(寒い時期はチョークを引く)、当然パワステなど付いてないのでいわゆる重ステなのだが、車体が軽いのでタイヤがひと転がりさえすれば思いのほかサクサク回せるステアリングを操作しながら、幹線道路に出る。で、後ろの車に追突されないよう思いっきりアクセルを踏んでフル加速し、スピードに乗る。速度が乗るまでにちょっと時間はかかるが、少々の時間をかけさえすれば、現代の交通事情の下でもノープロブレムな巡航速度には達する。
が、何の考えもなしにカーブを曲がろうとするとなかなか曲がらないので、軽くアセったりもする。「あ、そういえば荷重移動だ!」と懐かしい単語を思い出し、カーブの手前でしっかり減速することで前輪に荷重をかけ、そしてスッとステアリングを切る。すると2CVは華奢なボディをたわませながら、意外とスポーティな身のこなしでシュッと向きを変えてくれる。
そんなこんなで気を良くして運転していても、やはり鉄板の薄さや華奢なボディのせいで、常にある種の不安に包まれた状態となる。四方八方に注意を払いながら、なるべくスムーズに、なるべく安全に、しかしなるべく活発に、心と身体すべてを使うイメージで2CVを走らせる。
……すると当然、目的地や自宅車庫に到着したときにはダーッと疲れるわけだが、その疲労はなかなか心地よいものだ「エベレストに無酸素で登頂しました」とかそんな大層なものではないが、「ケーブルカーには乗らず自分の足で高尾山に登りました」ぐらいの達成感と満足感は感じられるだろう。あ、ちなみに高尾山というのは東京のはずれにある標高599mの小さな山です。
2CV以外だと例えばこんな逆スーパーカーはいかが?
シトロエン 2CVについて長々と書いてしまったが、要するにこれが逆スーパカーの「非日常性」だ。まったくの逆方向ではあるものの、700馬力や800馬力の正統スーパーカーと(ある意味)同じ種類の「フツーじゃない刺激」が、そこには確実に存在するのである。
逆スーパーカー界最大のスターはシトロエン 2CVだと思う筆者だが、例えばミニもいいだろう。もちろんBMW製となった今のやつではなく、英国製の元祖の方だ。この(現代の感覚では)あり得ない小ささは紛れもなく逆スーパーカー的であり、唯一無二の刺激をあなたの人生に与えるだろう。
「あり得ない小ささ」という意味では、スマート フォーツーあるいはスマート ロードスターもなかなかの逆スーパーカーと言えるかもしれない。
正統スーパーカーといえばV12エンジンとかV8エンジンとかの爆音が特徴の一つだが、そういった意味では「ほぼ無音」となる電気自動車も逆スーパーカー的かもしれない。例えばBMW i3。
「これがスーパーカー?」と疑問に思うかもしれないが、フォルクスワーゲン up!からもほのかな逆スーパカー臭を感じる。気の利いた軽自動車にも劣る装備レベルは、ある意味衝撃的で独創的。しかし車そのものとしての機能はすこぶる優秀である。
……多くの人はこれを読んでも戯言か冗談としか思わず、そしてごく普通に3年落ちとか5年落ちとかの、装備充実な優秀中古実用車をカーセンサーnetを通じて購入するのだろう。それは仕方ないというか、むしろそちらが健全で当たり前の行為だ。
だがもしも「何らかの強烈な刺激を我が人生に与えたい!」と思っている人がいたならば、正統スーパーカーや強烈なスポーティカーもいいが、ぜひ「逆スーパーカー」にも注目していただきたいと、戯言ではなく意外と本気で思っている不肖筆者なのであった。
【関連リンク】
日刊カーセンサーの厳選情報をSNSで受け取る
あわせて読みたい
- 先代BMW 3シリーズ(F30型)を買うなら、総額150万円以下が狙い目だ!
- SUVじゃなくていいじゃない! この夏、「キャンピングGT」に乗ろう!【カーセンサー8月号】
- 5年落ち以内が車両本体価格200万円以下から狙える! スタイリッシュな輸入車SUV4選
- 【フェルディナント・ヤマグチ×編集長 時事放談】自動車業界と半導体について(中編)
- 【試乗】新型 フォルクスワーゲン T-Cross│「TさいSUV」はハッチバックよりもどこが欲張りか? 実際に乗って考えた
- 小沢コージが自動車界の勇者・救世主を探すべく「激レア変態車」の取引現場、白金の魔窟を直撃!【カーセンサーニッチ】
- 【名車への道】’14 BMW i8
- 4年連続エンジン・オブ・ザ・イヤー 1.0~1.4L部門受賞の「ピュアテックターボエンジン」を搭載した、狙い目モデル6選
- 本場ドイツの名門レース「DTM」が、再び注目を集めるワケ!【EDGE MOTORSPORTS】
- 残された時間はあとわずか!? 「大排気量エンジン×MT」という歓びを味わえるオススメモデル