「微妙に古い輸入車」こそMT仕様を選びたい理由
2014/11/18
最近のATはある意味MTいらず。でもちょっと古い輸入車のATは……
過日、所用によりルノー カングーZENの6MTモデルで都内各所を放浪した。素晴らしかった。フルモデルチェンジによって初代と比べて巨大化したのにエンジン出力はさほど向上しなかった現行カングーは、筆者にとっては「なんだかモッサリした車」という印象でしかなかった。しかしMT版のそれは、まったくもってモッサリではなかった。さすがに巨体だけに「キビキビ」という感じではないが、「うむ、なかなか速いじゃないかカングー!」と唸らせるには十分な動きを示したのだった。率直に言って少々驚いた。
しかし、この例だけをもってして「やはりMTは素晴らしい! 車を買うならMTに限りますな!」とブチ上げるのは早計に過ぎるだろう。なぜならば、確かにMT車というのはそもそも素晴らしく楽しいものだが、最近ではAT車であってもかなり楽しく運転できるモデルは増えているからだ。例えば、カングーZENと同じ日に筆者が乗っていた現行M・ベンツC250 Sportsである。
こちらの日本仕様にはMT車の設定がなく、それどころか近年流行りのDCT(ダブル・クラッチ・トランスミッション)ですらない。古式ゆかしいトルコン式のATである。
しかしそれがめっぽういいのだ。
新開発のトルクコンバータなど数々の新技術を搭載した電子制御7速AT「7G-TRONIC PLUS」は、まるでバレリーナのように軽やかに、そしてDCTもかくやというほどの素早さで変速を完了させる。DCTと比べるとほんの少々のトルコン・スリップを感じなくもないが、そこが逆に変速時のまろやかさとなり、ややカクカクとしたニュアンスも感じる一般的なDCTよりも、筆者としてはかえって好印象であった。「ていうかコレがあればDCTはいらないんじゃないですか!?」というのが正直な感想だ。
「でも、いくらATが進化しようがオレは絶対MT派!」とおっしゃる人もいるだろう。それはそれで一つの意見であり、筆者も、個人的にはそれに近い意見を持っている。しかしハッキリしていることは、近年の車におけるマニュアル・トランスミッションとは「車をより効率的に走らせるためのもの」ではなく、「一つの趣味として選ぶべきもの」になったということだ。速いとか速くないとか、効率が良いとか良くないは一切関係なく、ただただ「それが好きだから」という理由で選ぶべきものなのだ。
……というのは「近年の一般的な車」について言えることであって、そこに当てはまらない車種に関してはMTの意味合いも変わってくる。例えば冒頭のルノー カングーZENは紛うことなき「最近の車」ではあるのだが、デカすぎる図体とやや非力すぎるエンジンという点から、MTが妙に利いてしまうわけだ。
またそれ以外に「ちょっと古い輸入車のATモデル」も、MTが利くジャンルの一つである。
それこそ現行Cのクラスの7速ATはトルコン・スリップなどゼロにも等しいが(※もちろん実際にはゼロではない。スリップがゼロだとトルクが増幅されない)、2世代ほど前のBMWはトルコンのスリップ量が妙に大きく、当時のAT版BMWには乗るたびにしみじみしてしまったものだ。
しかし、あなたがもしもそういった年代の輸入車を欲しいと思った場合でも、「MT」を選びさえすれば、あらかたの不満は解消される。余計な(?)流体クラッチを介していないゆえのダイレクトな動きを楽しむことができ、そしてそれに付随する結果として、同モデルのAT版と比べれば燃費も良好。そして、今やある種の特殊技能でもある「MT車を運転できるのだ!」という誇りのようなものも、大いに感じられることだろう。
何をもって「ちょっと古い」と判定するかは微妙なところだが、筆者の経験からするとおおむね2000年以前の輸入車のトルコン式ATは、そのスリップ量などに不満を覚える場合が多い。モデルによりけりなので本当は画一的なラインを引くことはできないのだが、さしあたってここでは「もしも1999年以前の輸入車をお買いになるなら、そしてその車にMT仕様が設定されていたならば、MTの方も前向きに検討してみては?」と言っておきたい。
ということで今回のわたくしからのオススメは「1999年式以前のMT版輸入車」だ。