スクリーンを飾ったあの名車、少ししか映らなかったけれど忘れがたい車…
そんな映画に登場した“気になる車”をカーセンサーnetで見つけよう!

壊れかけた家族の再生を描いたハートフルコメディ

リトル・ミス・サンシャイン|映画の名車
(C)2007 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.
DVD『リトル・ミス・サンシャイン』発売中 2006年・米 監督=ジョナサン・デイトン、ヴァレリー・ファリス 出演=アビゲイル・ブレスリン、グレッグ・キニア、ポール・ダノ、アラン・アーキン、トニ・コレットほか 販売元: 20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン ¥3,990(税込)
「笑って泣ける」映画は数あれど、「爆笑しながら大泣きできる」映画にはそうお目にかかれない。製作費800万ドルのインディタイトルながら、昨年のアカデミー賞で助演男優賞(アラン・アーキン)と脚本賞(マイケル・アーント)をW受賞した『リトル・ミス・サンシャイン』は、そんな希有な一本である。

ヒロインはニューメキシコ州のアルバカーキに住むフーヴァー家の長女・オリーヴ。ミスコンでの優勝を夢見るメガネのポッチャリキューティな7歳児だ。ある日、彼女に幸運が訪れる。6~7歳児を対象にした「リトル・ミス・サンシャイン・コンテスト」への出場資格がタナボタで転がり込んできたのだ。当然のように狂喜乱舞するオリーヴ。

一方、フーヴァー家の男たちはそれぞれに問題を抱えていた。パパは「9段階プログラムで人生の勝ち組になれる! 」という独自の成功理論を書籍化しようと躍起になって私財のほとんどをつぎ込み、ニーチェに傾倒するお兄ちゃんは世の中すべての人間を憎みつつ無言の行を貫く。老人ホームから出戻ってきたおじいちゃんは毒舌のヘロイン常習者のうえ、失恋して自殺未遂をしたゲイの伯父さんまでやってきた。収拾のつかない状況にママだけが良識を持って奮闘するも、むなしく空回りするだけ。目の届かないところで何をしでかすかわからないダメ男たちを置いて外泊することも叶わず、結局6人全員で「リトル・ミス・サンシャイン・コンテスト」開催地のカリフォルニアを目指すことになったのだが…。

オリーヴのミスコンはあくまで一つの目的であって、大きなテーマは家族の再生。家族同様ポンコツ寸前の黄色いワーゲンバス(正式名称はタイプII)で遠く離れた開催地のホテルまで出かける――その道程にスポットが当たる。父、祖父、兄、伯父、それぞれに次々と災厄が襲いかかるが、それでも健気にがんばるオリーヴの笑顔に男たちは癒され、優しい気持ちを取り戻していく。

果たして30年落ちの黄色いタイプIIは長距離ドライブに耐えられず、クラッチがいかれ、ついには押しがけでしかエンジンがかからなくなってしまう。渋々ながらも共同作業でワーゲンに命を吹き込むフーヴァー家の面々。大きなトラブルに直面しつつも、ゴールが見えてくるころには、何かが小さく変わり始めているのだ。

クライマックスはベタベタに甘いアメリカのお菓子のように胸の焼ける幼女のミスコンシーン。ゲテモノのバービー人形然とした12人の少女たちが歌い、踊る中、大トリに登場したオリーヴは、どんな演目で勝負するのだろうか? 想像を絶する展開に抱腹絶倒しながら、同時に涙腺が決壊すること必至だ。

映画に登場する車たち

フォルクスワーゲン タイプII

ビートルをベースにして1950年より生産された小型バスであるタイプIIは北米市場で大ヒット。ビートルベースなので空冷水平対向4気筒エンジン搭載。40年前の車ではあるが、ワンボックス特有の野暮ったさは皆無で、実に優雅な佇まい。日本にも多くの愛好家が存在するのもうなずける。フーヴァー家の面々は黄色いタイプIIに全員で乗り込み、一路西海岸を目指す。

だが、各人の置かれている状況や関係性を象徴するかのように、タイプIIの調子は悪化の一途。クラッチが壊れ、クラクションは鳴りっぱなしになり、しまいにはドアまで取れてしまう。それでも苦労させられる分だけ、一種の運命共同体として家族が機能し始め、忘れかけていた絆が戻ってくるのだ。
Text/伊熊恒介