スクリーンを飾ったあの名車、少ししか映らなかったけれど忘れがたい車…
そんな映画に登場した“気になる車”をカーセンサーnetで見つけよう!

事件の真相に思いをめぐらせ、観る者もグラグラと“ゆれる”

ゆれる|映画の名車
(C)2006『ゆれる』製作委員会
2006年度に公開された日本映画でもっとも評価の高かったのが、『蛇イチゴ』の西川美和がメガホンをとった『ゆれる』だ。テレビ局主導のメディアミックス作品ばかりがクローズアップされる日本映画界にあって、『ゆれる』のようなオリジナル脚本で勝負する人間ドラマが各映画賞を総なめにしたのは、痛快な出来事だった。

新進気鋭のカメラマンとして活躍する猛(オダギリジョー)は、母の一周忌のために愛車のフォード ファルコンを飛ばして帰郷した。東京からそれほど離れてはいないが、小さな片田舎で、住人は顔なじみばかりだ。途中、兄の稔(香川照之)が店長を務めるガソリンスタンドで給油をすると、そこには幼なじみの智恵子(真木よう子)が働いていた。久しぶりの再開に、言葉をかわさずとも意識しあう2人。

翌日、山間の美しい渓谷へ遊びに出かけた稔、猛、智恵子。そこには古い吊り橋が架かっていた。カメラ片手に吊り橋を渡った猛の姿を追いかける智恵子。その智恵子をさらに背後から追いかける稔。先に吊り橋を渡った猛が目撃した光景は、谷底へ姿を消した智恵子と、呆然としゃがみこむ稔の姿だった…。

果たして稔は彼女を突き飛ばした殺人犯なのか? それとも不慮の事故だったのか? 真相はハッキリと明かされないまま、物語は法廷へと舞台を移す。兄のために裁判費用を捻出し、なんとか助けようとする猛。そんな弟に、積年の心情をぶちまけてしまう稔。固い信頼で結ばれていたはずだった兄弟の絆は、吊り橋のようにグラグラとゆれ始める。オダギリジョーのクールさと、香川照之のドロ臭さで陰と陽のコントラストを見事に描きつつ、ベタなカタルシスに落とさないクライマックスを用意した西川美和監督(撮影当時、弱冠31歳)の手腕に感服しきりだ。

ゆれる|映画の名車
(C)2006『ゆれる』製作委員会
DVD『ゆれる』好評発売中! 06年・日本 監督=西川美和 出演=オダギリジョー 、香川照之、伊武雅刀、新井浩文、真木よう子、木村祐一、ピエール瀧、田山涼成、河原さぶ、田口トモロヲ、蟹江敬三ほか 販売元:バンダイビジュアル 3,990円(税込)

+++映画に登場する車たち+++

フォード ファルコン(1964年式)

映画の冒頭、オダギリジョー演じる猛が帰郷のために乗り込んだ愛車が、フォード ファルコン。時折り映るベンチシート&コラムシフトのシンプルなインテリアが実にシブい。フォード ファルコンは1960年に初登場。当時のコンパクトカーブームを牽引した人気者だ(コンパクトカーといっても現在のそれとは趣が異なり、6人乗りのアメリカンスタイル)。オダギリジョーが駆るのは、1964年式のステーションワゴン。典型的な日本の田舎町に40年前のアメ車が突如現れる違和感が、その後の出来事を暗示するかのようなスパイスとして効いている。
Text/伊熊恒介