▲Boseさん(左)はホンダのプレリュードをはじめとした車に大興奮。渡辺社長(右)と車談議で盛り上がりました ▲Boseさん(左)はホンダのプレリュードをはじめとした車に大興奮。渡辺社長(右)と車談議で盛り上がりました

実はハコスカの大ファンだった!?

日本のヒップホップシーン最前線でフレッシュな名曲を作り続けているスチャダラパーのMC、Bose。中古車情報誌『カーセンサー』にて彼がお届けする人気連載「Bosensor」。カーセンサー本誌で収録しきれなかった、プレリュードを中心とした80年代~90年代前半までのホンダ車専門店『クラインクラフト』の渡辺社長とのDEEPでUNDERGROUNDな話をお届けっ!!

Bose:渡辺社長、よろしくお願いします!

編集部ペリー(以下、ペリー):そういえばBoseさん。前回僕が社長にビビっていたら「僕と同じ感性だから楽しみ」って言ってたじゃないですか。あれ、なんだったんですか?

Bose:あれね。僕と社長を見て気付かない?

ペリー:なんだろう。さっぱりわかんないッス……。

Bose:観察力、ないなあ。ほら、足もとを見てよ。社長、僕と同じアディダス・スタンスミスを履いているの。それで社長もきっと“シンプルで変わらないもの”が好きなんだと感じたんだ。

渡辺社長:私もBoseさんと会ってすぐに気付きました。「色違いだ」って(笑)。

Bose:さて社長、この時代のホンダ車を専門店として扱うのは数が少ないだけに大変だと思うけれど、どういういきさつでスタートしたんですか?

渡辺社長:驚かないでくださいよ。実は私、ハコスカのファンなんです

Bose:へっ? ハコスカって……メーカーはもちろん、時代も形もまったく違うよ……。

渡辺社長:だから驚かないでって言ったじゃないですか(笑)。ハコスカは私が子供の頃からの憧れ。雲の上のような存在でポスターを部屋に貼ったりしていたんです。一方でうちで扱うホンダ車は私が運転免許を取得した頃の車。当時はリアルな憧れでした。

Bose:社長、おいくつですか?

渡辺社長:49歳です。

Bose:なるほど。バブル謳歌組だ。

渡辺社長:免許を取った後、20代前半でホンダのN360の不動車を手に入れて自分で直し始めたんです。これ、憧れのハコスカに乗るために車を覚えようという魂胆。ちなみにN360は知り合いに譲ってもらったんです。1500円のおせんべいと交換で(笑)。

ペリー:おせんべい? 今、N360はいい値段しますよ。

渡辺社長:ですよね。でも当時はそんなものでした。で、その車で筑波の耐久レースに出て、乗っているうちに「これ、ハコスカより面白いぞ」と。

Bose:ミイラ取りがミイラパターン。ちなみにハコスカは乗ったんですか?

渡辺社長:一度も乗っていません(笑)。ミニカーとプラモデルだけ。

Bose:じゃあ比べようないじゃん(笑)。でも面白ければいいのか。

ペリー:でも軽自動車のN360とスペシャリティカーのプレリュードじゃ、ずいぶん違いますよね。

渡辺社長:当時、プレリュードは我々にとって高嶺の花でした。でも、中古車相場が下がってきたら、今度はなかなか良いものがない。一時期は自分の頭の中から忘れ去っていましたね。

▲なんとBoseさん(左)と渡辺社長(右)の靴はアディダス・スタンスミスの色違い!どうりで意気投合したわけです ▲なんとBoseさん(左)と渡辺社長(右)の靴はアディダス・スタンスミスの色違い!どうりで意気投合したわけです

改造は“当時仕様”まで? そのこだわりの理由

Bose:ちょっと待って。その頃、社長は中古車の販売をしていたんですか?

渡辺社長:私が販売店を始めたのは10年くらい前です。それまでは普通の会社員。コンピュータ関連の会社で経理をしていました。そして独立したての頃は需要のある軽自動車の専門店だったんです。車検も入ってくるし、いいお客さんも多かったのですが、仕事としては面白みを感じられなくて。そんな時、空いた時間に550cc時代の軽ターボを買って趣味でいじり出したんです。面白いもので店の片隅に置いておくと、自分と同じ価値観の人が「売ってください」と来るんです。

Bose:だって趣味とはいえお店に置いてあるんだもん。売り物だと思うよね(笑)。

渡辺社長: 私も創業したてでお金がないから「仕上げにこれくらいかかったので●●万円なら……」と。すると「いいんですか!買います」となり、今度はその人が同じ価値観の友達を連れて来てくれて。

Bose:意外なところから軌道に乗り始めたんだ。

渡辺社長:でも軽ターボだといろんなメーカーを扱うし、中には自分が好きじゃないものも出てきます。でも古い車は面倒を見ないわけにもいかない。そんなとき、かつて色気のあるプレリュードに憧れていたことを思い出して。プレリュードやクイントインテグラの状況を調べたら、日本中にほとんど残っていなくて絶滅寸前だと……。「これはいかん、良き日本車の産業遺産を保護しなければ!」と思い立ったんです。それが8年くらい前。

Bose:完全に使命感だね。普通、「車を保護する」なんて言わないもの(笑)。

ペリー:Boseさんは最初、こちらのワンダーシビックに食いついたんですよ。でもシビックはメインじゃないんですよね?

渡辺社長:はい。シビックは他にもやっているお店があること。あとは内装を全部剥がしてジャングルジムをロールバーのように入れた“環状線仕様”が多いんですよね。あれも当時の仕様ですが、私の趣味とはちょっと違う。

Bose:お店にある車を見ればわかりますよ。この白いプレリュードSiも外観は完全にノーマル。

渡辺社長:変な言い方ですが、生半可な人ほど部品供給状況や車体の現状をきちんと調べず、カッコで食いついてしまう。そうするとその後維持できなくなっちゃうんですよ。で、またお店に戻してまた売って……。そのときにノーマル部品を捨てちゃったりしてどんどん車の価値が落ちてしまう。私はちょっとそういうのは我慢できなくて。

Bose:だって社長は車を“保護”してるんだもん。実際、お客さんとはどう接しているんですか。僕がまず社長のところに電話してきたとして、その後は?

渡辺社長:基本的には私と波長が合う人としか付き合いたくないので、そこを見ます。そして車を大切に乗ってくれる人にお譲りしたいので、そのあたりをいろいろと話しますね。事務所の住所と電話番号は公開しているので連絡をいただくのですが、電話やメールで「見積もりを……」と言われても出すのが難しいことも多くて。なぜならお客さんがどんな状態で乗りたいか、何をどうしたいかで金額が大きく変わってしまうんです。なので、事務所に来てもらって説明しながら見積もりを作ることが多いですね。

Bose:まるで「委細面談」だ(笑)。

渡辺社長:そしてお客様に納得してもらえたら、こちらにきて車を見てもらいます。先ほど改造の話が出ましたが、私もすべての改造を否定しているわけではありません。お客さんには「当時仕様までにしてください」とお願いするだけ。例えば「無限のCF-48(注:当時流行したホイール)を入れてもいいですか…?」と言われたら「どうぞどうぞ」と。でも今どきの17インチを入れたいとか、車高調入れたいとかはやめてねって。

ホンダ以外に、ビートルやゴルフも好き!

Bose:ところで社長。プレリュードの向こう側でカバーがかかっているやつ、明らかにホンダ車とは違う背の高い車だけど、あれは?

渡辺社長:あれですか? あれはビートルです。私、ビートルも大好きでコツコツいじっているんですよ。その奥にはサニートラックもあります。サニトラはBHのレガシィランカスターとともに普段の足として使っています。

Bose:レガシィが今どきのじゃなくてBHっていうのがすでにひと癖ありそうな雰囲気を漂わせるよね。

渡辺社長:やっぱり1台4WDは持っておきたいんですよね。でもワイドボディのレガシィは興味ないので。しかもスバルは6気筒の滑らかな走りがいい。レガシィの前はオデッセイに乗っていたんですよ。すごく良い車なんですが、4WDで考えるとホンダのデュアルポンプはワンテンポ遅れる感じがあるので。

Bose:ホンダを心から愛しつつ、他の車にもきちんと愛情を注いでいるのが凄いよな。

渡辺社長:あとはゴルフIとゴルフIIがあります。

Bose:マジ!? さっきスニーカーの趣味を話したけれど、車の趣味も結局僕と同じだよ。これだから専門店巡りはやめられない。みんなもお店では見に行った車のこと以外にもいろんな話をしてみるといいよ。きっと思わぬ発見があるはずだから。

▲お店には渡辺社長が“保護”した車がずらり。Boseさん好みの車もたくさんありました ▲お店には渡辺社長が“保護”した車がずらり。Boseさん好みの車もたくさんありました
text/高橋満(BRIDGE MAN) photo/篠原晃一