トヨタ 86 ▲ついワイドフェンダーに目が奪われてしまう86だが、エンジンルームの中にこそ秘密が隠されている

直6ターボ搭載で異次元の走りに

2020年1月10日~12日まで千葉県にある幕張メッセ行われていたチューニングカーの祭典『東京オートサロン2020』。展示車両の中で「あっ!」と驚くようなカスタムが施された車両にフォーカスしレポートする。

今回の東京オートサロン2020でも相変わらずの大人気だった86/BRZベースのチューニングカー。

こちら横浜市の「WORKS」が手がけた86もグッと車高を落とし、ワイドなフェンダーを装着したスタンダードな仕様なのかな……と思ったら、トンでもなかった! エンジンフードの下には、なんと直列6気筒2500ccターボの1JZ-GTE型エンジンが収まっているのだ。

1JZ-GTE型エンジンといえば、8&9代目マークⅡや3代目ソアラ、11代目クラウンアスリートなどに搭載されていた、かつての名機。

しかし、なぜ現代の86に1JZ-GTE型をコンバートした?
 

トヨタ 86▲直6エンジンを前軸の真上近くにマウントすることで、良好な前後重量バランスを確保することができたそう

「トヨタ86のFA20型も悪くないエンジンですが、パワーがもの足りない、耐久性が今ひとつ足りない、音に迫力がない……といった声もよく聞かれます。それならば、いっそのこと、排気量が大きいターボエンジンに載せ替えてしまおう、という発想です」

そう語るのはWORKS代表の藤ヶ崎友裕氏。

エンジン本体にあえてチューニングは施していないとのことだが、最高出力280ps(205.9kW)/6200rpmというスペックを出している。

「3速でアクセルを踏み込むとリアが流れるほどパワフル。体感的にはノーマルの倍くらいあるように感じますよ」という。

それにしても、直列6気筒の長いエンジンがよく86のエンジンルーム内に収まったもの。ノーマルは水平対向4気筒だから、4気筒分も長いことになる。

「86のエンジンルームは意外に余裕があるんですよ。それに車両重量もノーマル比80kg弱アップの1318kgに収めることができました。FA20型エンジンは結構重いんです」

確かに車重は少々増えているが、激的なパワーアップを前にすれば取るに足らないレベル。

しかもエンジンは前軸の真上付近にマウントされ、前後重量配分は6対4程度となって、ノーマルと同等、もしくはそれ以上にバランスが良く感じられるという。

ちなみにトランスミッションも1JZ-GTE用の5速MT(R154)にコンバート。

エンジンが長いだけにシフトレバーの位置が後方にズレてしまいそうだが、R154ミッション本体の長さがノーマルよりも短いため、フロアトンネルの加工をすることなく収まっているそうだ。
 

トヨタ 86▲MTのシフトレバーは純正と同じ位置に。今後、AT仕様も開発していきたいそうだ

公認取得間近の実用的なチューニングカー

このチューニングマシン、単なるショーカーではない。

公道走行を大前提として強度計算を行い、構造変更できることをすでに確認済み。

排ガス規制公認検査についてはまだこれからだが、近日取得予定とのこと。

「オートサロン用に公認を取れない車両を作っても、当店としては全く意味をなしませんから」と藤ヶ崎氏は言う。

統合制御された電装品など現代の新しいシステムが採用されている86に、世代の古いエンジンである1JZ-GTE型を組み込むのは、難関だったそう。

純正メーターをノーマルと同じように動作させるため、CAN解析まで行った、というのだから驚かされる。
 

トヨタ 86▲統合制御されたメーター、エアコンなどを純正と同じように動作させるのは、苦労した点のひとつとのこと

開発期間は実に3年。そのうち1年をCAN解析に、2年近くを排ガス対策に費やした。

エンジンを載せ替えることよりも、普通に乗れる実用的なマシンに仕上げることに時間が費やされたのである。

アクセルは電子スロットルではなく、1JZ-GTE型のワイヤー式を採用、一方でパワステは信頼性の高い86の電動パワステを採用するなど、良いとこ取りのハイブリッドとなった。

部品の調達については1JZ-GTE型が搭載されている中古車両ごと入手し、車からエンジンを降ろしたうえでオーバーホール。とてつもない手間がかけられている。

今後、排ガス検査をクリアした後に一般販売される予定だ。費用はエンジン、トランスミッションのコンバート、構造変更書類も付けたうえでおよそ200万円前後とのこと。

一般的に、エンジンのオーバーホールだけでも数十万円はかかる。

ノーマルとは比較にならないパワーとダイクレクト感のある走り、コンディションの良いエンジンが手に入って、しかも気負いなく乗れるというのだから決して高くない。

ベースになりそうな86を探すのも、WORKSがサポートしてくれるそうだ。
 

トヨタ 86▲ホイールはWORK MEISTER、タイヤはNANKANG NS-20 215/35-18(F)・245/35-18(R)を履く
トヨタ 86▲フェンダーには「Rocket Bunny オーバーフェンダーキット ver2」を装着。ネガキャンはあくまでショー用とのこと

- 車両スペック -
■エンジン系
型式:1JZ-GTE
排気量:2500cc
出力:280ps(205.9kW)/6200rpm
トルク:38.5kg(377.6Nm)/2400rpm

■排気系
マフラー:WORKS
EXマニホールド:純正

■伝動系
ミッション:R154
クラッチ:純正
デフ:KAAZ2way

■外装関係
エアロキット名:Rocket Bunny ver.2
ボディカラー:オレンジ

■内装関係
シート:GOODGUN RACING
ステアリング:GOODGUN RACING
メーター:Defi
オーディオ:Pioneer

■サスペンション
サスキット名:BLITZ
ショック:BLITZ
スプリング:Swift+AirLIFT-CUP
ブレーキ:ENDLESS

■ホイール
ホイールメーカー・名称:WORK
サイズ(F):S1R10J
サイズ(R):S1R11J

■タイヤ
タイヤメーカー・名称 NANKANG
サイズ(F):215/35-18
サイズ(R):245/35-18

■その他チューニング
Megan Racing Suspension Parts公認

文/田端邦彦、写真/稲葉 真

田端邦彦(たばたくにひこ)

自動車ライター

田端邦彦

自動車専門誌で編集長を経験後、住宅、コミュニティ、ライフスタイル、サイエンスなど様々なジャンルでライターとして活動。車が大好きだけどメカオタクにあらず。車と生活の楽しいカンケーを日々探求している。プライベートでは公園で、オフィスで、自宅でキャンプしちゃうプロジェクトの運営にも参加。