車は単なる移動の道具ではなく、大切な人たちとの時間や自分の可能性を広げ、人生をより豊かにしてくれるもの。車の数だけ、車を囲むオーナーのドラマも存在する。この連載では、そんなオーナーたちが過ごす愛車との時間をご紹介。あなたは『どんなクルマと、どんな時間を。』?

▲見た目や居住空間がよそとはちょっと違う……というだけで「ファミリーカー」には違いなし。家族全員が満足していれば、何よりパパがイキイキしていれば、それで良いのだ!▲見た目や居住空間がよそとはちょっと違う……というだけで「ファミリーカー」には違いなし。家族全員が満足していれば、何よりパパがイキイキしていれば、それで良いのだ!

ゴリゴリ系のRX-8 タイプSが「ファミリーカー」

多くの場合、結婚して家族ができると、それまでスポーツタイプの車に乗っていた人でもいわゆる“ファミリーカー”に乗り替える場合が多い。

しかしよく考えてみれば「家族持ちがスポーツタイプの車に乗ってはいけない」という法律があるわけではない。それゆえ、そしてもしも家族的にOKであるのなら、いつまでもスポーツタイプの車に乗り続けたって構わないわけだ。

例えば、完全サーキット仕様のマツダ RX-8に乗る藤木さんご家族のように。

▲藤木家ならではの「常備アイテム」 ▲藤木家ならではの「常備アイテム」

ハンドリング性能の良さと、ロータリーエンジンならではの回転感覚と音にシビれた藤木パパが、マツダ RX-8 タイプSを中古車として購入したのは9年前。足回りその他をサーキット向けに改変し、筑波サーキットへ日参した。そして本気のタイムアタックを繰り返した。

が、そうこうするうちに結婚。

普通ならここでサーキット仕様のRX-8は手放し、ちょっと気の利いたミニバンか何かに買い替える人が多いのかもしれない。しかし藤木パパはRX-8 タイプS改に乗り続けた。

で、その後何が起こったかというと……別に何も起こらなかった。

ゴリゴリ系のRX-8 タイプSで藤木家の皆さんは買い物に行き、旅行へ行き、お墓参りに行く。ごく普通の家族の、ごく普通のファミリーカーとしての日常が、そこにはあった。車の見た目や居住空間の広さ(狭さ)が他の家族とはちょっと違う……というだけで。

さすがにママや息子の佑月くんを乗せるときは、自慢の競技用サスペンションのセッティングを一番マイルドにするという。そうすれば、ママからも佑月くんからもおおむね不満は出ない。そして“エイト”はご存じのとおり後席ドアが観音開きなので、ホームセンターなどで長尺モノを買っても、実は余裕で積載できる。本当に、何の問題もなかった。

▲家族の理解を得て、スポーツカーを所有。この幸せそうな画を見て「う、羨ましい……」と思うパパが全国にはたくさんいるだろう ▲家族の理解を得て、スポーツカーを所有。この幸せそうな画を見て「う、羨ましい……」と思うパパが全国にはたくさんいるだろう

ママは、「できればパパには普通の車に乗ってほしい」との思いがどうやらゼロではないようだが、基本的にはノークレーム。いやむしろ、自分の世界観に対して妥協することなく邁進しているパパの姿を好意的にとらえているフシすらある。

佑月くんにしてもそうだ。

パパのRX-8には若干の不満があるそうなのだが、それは乗り心地の悪さや排気音のデカさ、あるいは佑月くんの指定席である後部座席の狭さではなく、「色」だ。佑月くんの今のちょっとした夢は、パパのRX-8のボディ色を今現在のカラーから、スーパーカーみたいなオレンジに塗り替えること。

このRX-8のボディカラーがランボルギーニみたいなオレンジに変わるのが、いつになるのかはわからない。でもそれは、佑月くんの“夢”をニコニコと聞いているパパの顔を見る限り、そう遠い将来ではないのかもしれない。


~どんなクルマと?~
■マツダ RX-8(初代)
マツダ独自開発のロータリーエンジン「RENESIS(レネシス)」を搭載した4ドア・4シーターセダン。6MTのタイプSは、NAながら最高出力250psを発生する。その他は210psでミッションも5MTと4ATの設定となる。

▲最大の特徴はセンターピラーをなくした観音開きスタイルで、後席への乗降性を確保しつつ、クーペ風のスポーティなフォルムを実現している ▲最大の特徴はセンターピラーをなくした観音開きスタイルで、後席への乗降性を確保しつつ、クーペ風のスポーティなフォルムを実現している
text/伊達軍曹
photo/阿部昌也