島下泰久・石井昌道

モーター駆動車の本当の魅力を探る

11月20日発売のカーセンサー1月号では「いま一番、シビれるクルマ」と題し、EV(電気自動車)やハイブリッド車といったモーター駆動車の、エコや燃費だけじゃない魅力に迫る特集を展開しています。

ここでは、カーセンサー編集長・西村が、新旧様々な車を乗りつくしてきたモータージャーナリストの島下泰久氏、石井昌道氏にインタビュー。その魅力や今買えるオススメの車を聞いてきました。前編・後編に分けて、紙幅の都合で本誌には収録しきれなかった部分までお届けします!
 

島下泰久

モータージャーナリスト

島下泰久

走行性能だけでなく先進環境・安全技術、ブランド論等々車を取り巻くあらゆる事象を守備範囲に執筆。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)など著書多数。YouTubeチャンネル「RIDE NOW」主宰。

石井昌道

モータージャーナリスト

石井昌道

自動車専門誌の編集部を経てモータージャーナリストに。国産車、輸入車を問わない幅広い執筆活動の他、エコドライブの研究・普及活動も行う。

加速の強烈さは鉛バッテリーの頃から変わらない

カーセンサー編集長 西村(以下、西村): 大前提として、おふたりはモーター駆動の車って好きなんですか?

石井昌道さん(以下、石井):好きですよ。モーター自体の特性として「応答遅れ」がないから、エンジン車には絶対に存在しない種類の「ドライバビリティの良さ」があるんですよ。そういった意味で、エコうんぬんとは無関係に好きですねぇ。

西村:そのドライバビリティの良さって、モーター駆動車が出始めた20年ぐらい前からすでにあったものなのですか?

石井:それはもう「モーターという物の特性」の話ですから、基本的な部分では最初からそうですよ。

島下泰久さん(以下、島下):僕も初めてEVに乗ったときは「なんじゃこりゃ!? すげえ!!!!」って思わず叫んでしまったぐらいです。

西村:おふたりが最初に運転したEVって何だったんですか?

石井:僕は1994年頃、ジャーナリストの舘内 端さんがやってらっしゃる『日本EVクラブ』に取材に行って、そこで軽トラをEVに改造してみたり、電動のレーシングカートに乗ったりしたのが最初ですね。

島下:僕も電動レーシングカートが最初でしたね。シートの左右に鉛バッテリーを何個も積んだ原始的なものでしたが、レスポンスの鋭さはとにかく強烈で、本当に面白かった。まぁ鉛バッテリーなので、2周目からはさっそく遅くなっちゃうんですが(笑)。

石井:それが1990年代半ばの話で、2000年以降になってからは鉛バッテリーではなく、初代プリウスのニッケル水素電池をレーシングカートに積んでみたら、これがもう殺人的なまでに速くなってしまったという(笑)。

西村:そういえば石井さんって雑誌Tipoの編集部員時代、EVに改造したスーパーセブンで日本一周してませんでしたっけ?

石井:やりましたねぇ、鉛バッテリーのEVセブンで。といってもスーパーセブンにはバッテリーを置くスペースがほとんどなくて、仕方ないから車の後ろにリアカーを付けて(笑)、そこに鉛バッテリーとコントローラーを積んでました。

島下:あれって確か、Tipo読者の家の普通の100V電源で充電してましたよね?

石井:そうそう。だから充電に8時間かけて、50kmだけ進むという牛歩戦術で(笑)。それでもリアカーを外したEVのセブンでサーキットを走ると、もう異次元と言えるほどのレスポンスと速さでしたね。

EVセブン ▲石井さんがTipo編集者時代に日本縦断3000㎞を走破した、通称「EVセブン」。写真左奥のリアカーにバッテリーを積んでいる(提供:Tipo)


実はエンジン車より緻密に、様々な制御や味付けができる

西村:しかし、いわゆる電動車アレルギーの人は「エンジンと違ってモーターはどれも同じだからつまらない」と考えているかもしれません。そのあたり、実際はどうなんでしょうか?

石井:「モーターはモーター」という意味では確かにそうなんですが、でもモーター駆動の方が、様々な制御や味付けは、実はエンジン車より緻密にできるものなんですよね。

島下:そうそう。だから面白いことに、ジャガーのIペイスに乗ると「ちゃんとジャガーっぽい」と感じるし、メルセデスのEQCは「ううむ、これぞベンツ!」としか言いようのない乗り味になってる。一度乗れば「モーター駆動車はどれも同じで没個性」だなんて、とても言えなくなりますよ。
 

iペイス ▲ジャガー初となるEV、Iペイス
EQC ▲同じくメルセデス・ベンツ初のEV、EQC


石井:先日僕らが試乗したマツダのプロトタイプEV、あれもすごかったですよ。

島下:確かに。今のマツダの車って「G-ベクタリング コントロール(GVC)」ってやつを採用してるじゃないですか? あれって要するに、ステア操作に対してエンジントルクが自動的に細かく制御されて、四輪の接地荷重が最適化されるというものですよね。

西村:はい。

島下:で、その制御はエンジン車でも十分すごいわけですが、そういった制御って、モーターの方が何倍も細かく緻密に、繊細に、制御できちゃうんですよ。

石井:なので、そのプロトタイプEVは空恐ろしいほど“限界”が高かった。

島下:僕がそのプロトタイプEVの試乗を終えて車を降りたら、目の前にGVC開発責任者の方がいらしたんですよ。「ね? いいでしょ?」みたいな顔でニヤニヤしながら。でね、僕はもうそのとき彼を抱きしめたくなりましたから。「本当に素晴らしかったです!!!!」って。抱きしめませんでしたけどね(笑)。

西村:一方で、そういった電子制御を嫌う人も多いじゃないですか? 「余計な介入しやがって」みたいな感じで。そういった方は、新世代のモーター駆動車についてどう感じると思いますか?

石井:うん。ひとりの車好きとして、もちろんそういった気持ちもわかります。

島下:でもね、あのプロトタイプに何も知らされないまま乗って、制御が介入されていることに気づく人って、おそらく少ないと思いますよ。ガソリン車で同じことをすると気持ち悪いと感じる人もいるかもしれませんが、EVの繊細な制御だと、「うわっ、本当に素晴らしい挙動だなぁ!」って、ただ感激するだけなんじゃないかなぁ。
 

EVプロト ▲外観がCX-30のプロトタイプEV「e-TPV」。この先、発売が予告されているEV版 MXー30(現在はマイルドハイブリッド仕様のみ販売)で、完成形を体感できるはずだ。

シャシー性能が高いという点がEVのキモ

石井:過日、テストコースでテスラ モデル3の「ダイナミック セーフティ テスト」というのをやりまして。要するに100km/hからウエット状態の急カーブにフルブレーキングしながら進入していき、どれぐらい姿勢が乱れるか、あるいは乱れないかを測定するテストなんですが。

西村:なるほど。

石井:そこで、テスラ モデル3は歴代最高クラスの成績を収めました。エンジンという重量物が車の先端や後端にある普通の車と違って、EVはバッテリーという重量物が車体中央の、しかも下部にあるじゃないですか? それゆえ、とにかくシャシー性能がめっぽう高いんですよ。僕はモーターよりもむしろ、シャシー性能が高いという点がEVのキモだと思ってます。

島下:そして、そのうえで制御が自在だという。

西村:ううむ、なるほどぉ……。まぁモーター駆動車全般に関しては、ガソリンのにおいまでを含めた「自動車が好きな人」にはまだ受け入れがたい部分もあるのでしょうが、「ドライビングな好きな人」であれば、モーター駆動車に注目しないのは“人生の損失”とすら言えそうなことが、よ~くわかりました!

>後編は近日公開予定!

モデル3 ▲自動車評論家の清水和夫氏が主宰 するメディア「StartYourEngines」が行っている「ダイナミック セーフティ テスト」の様子。テスラ モデル3は歴代最高レベルの制動力を示した。このテストの模様はYouTubeで見ることができる


文/伊達軍曹、写真/篠原晃一、Tipo、マツダ、StartYourEngines、柳田由人