Q.事故のときに一筆書いて
    示談で済ませてしまったけれど大丈夫?

走行中に軽い事故を起こしてしまいました。被害者には「たいした事故ではないし、急いでいるので一筆書いてくれ」と言われました。そのときはパニックになっていたこともあり、つい「この事故にかかわる損害はすべて賠償します」と書きましたが、今後トラブルになる可能性はありませんか? また、その場合は被害者の言うがままに支払わなくてはならないのでしょうか?

A.トラブルになる可能性はありますが
    言われるがまま支払う必要はありません

あなたが心配しているのは「損害をすべて賠償する」と書いたことで、修理費、治療費、休業補償などを法外に要求されることだと思われます。確かに考えられる話ですし、そうなった場合は無駄な労力がかかってしまいます。

ただし、要求されても言われるがまま支払う必要はありません。事故の賠償の場合は、修理の見積書や診断書など客観的評価に基づいて支払う金額が決まります。被害者側は損害を被った実害を立証する責任があるので、いい加減な処理で金額を請求するわけにはいきません。相手の言い値で金額が決定するわけではないことは覚えておいてください。

それでは後日、法外な請求をされたらどうすればいいのでしょうか。その場合には警察に事故届けを出すことをオススメします。人身事故の場合、事故直後でなくても届け出を行えば実況見分が行われます。また、物損の場合でも事故証明書を発行してくれます。警察の実況見分を受ければ、一筆書いた内容は無効になると考えてよいと思われます。その後、事故証明証などをもって保険会社に相談しましょう。もちろん、基本的には事故は発生直後に警察に届けるのが運転者の義務です。これは道路交通法第72条にも明記されています。

しかし、一筆書くことにまったくデメリットがないわけではありません。注意したいのは物損事故。物損は警察が実況見分を行わないことがあります。きちんと調べると、自己の責任が9割になる場合でも「自分に全責任がある」と一筆書いたことで、100%責任を認めてしまうことになります。この場合は、後々の交渉で不利になることが考えられます。

ドラマや映画のように、一筆書いたからといって法外な金額を支払う必要があるわけではありません。しかし、示談交渉の段階で金額などでもめる可能性は高くなるでしょう。余計なトラブルを避けるためにも、事故現場で安易に責任を認めて、一筆書くなどの行動はとらないようにしましょう。また、どんなに軽い事故でも警察に届けることが大切です。
第41回 法律相談所
illustration/もりいくすお

■ワンポイント法律用語■

道路交通法(どうろこうつうほう)第72条
交通事故の場合の処置が記載されている。交通事故を起こした車両の運転者や乗務員は、ただちに車両の運転を停止して、負傷者を救護し、道路における危険を防止するなどの必要な措置を講じなければならない
事故証明書(じこしょうめいしょ)
警察に届け出がなされ、その事実が確認された交通事故について証明するもの。事故の発生日時、発生場所、当事者の住所・氏名等を記載してある。自賠責保険や任意保険を受けるのにも必要