Q.事故で形見の品物を壊したら
    言われるがまま支払う必要があるの?

軽い接触事故を起こしてしまい、被害者から「衝撃で落とした荷物のなかにあった時計が壊れてしまった」と言われました。しかも、その時計は身内の形見で「壊れたことで精神的苦痛がある。弁償するにしても単純に市場価格では割り切れない」とのこと。これって相手の言うままに払う必要はありますか?

A.弁償は発生しますが
    原則として物品に関して慰謝料は生じません

この場合、市場価格を上回る額の弁償は必要ないでしょう。例えば、クラシックカーなどで明らかに高額な車と事故を起こした場合は、プレミアム分を考慮した賠償が発生します。これは、予見可能な事実だからです。そう考えたときに、車の中に身内の形見の時計があることを予見することは、困難だと思われます。予見ができないことに関しては、過失は認められせん

予見可能かどうかは、一般的な常識に委ねられます。裁判では「事故でベンツの金メッキバンパーを壊した場合、修理にかかった全額を弁償する必要はない」という判例もあります。これは、バンパーに金メッキを施すことは無用に損害を大きくするといった判断です。そういった意味で、引越しなど特別な場合を除いた走行中に、形見の時計を車の中に荷物として置いておくのも一般的ではないでしょう。

また、精神的苦痛に関してですが、これに関しても支払う必要はありません。物損で慰謝料が認められるのは、被害者の愛情などが強く害された特別の事情がある場合だけです。単なる形見というだけでは慰謝料は請求できないでしょう。そういった意味で、慰謝料が認められやすいのがペットです。ペットは法律上、物として扱われます。しかし、死ぬことで飼い主の愛情が強く害された場合には、例外的に精神的苦痛に対する慰謝料を認める判決も出ています。

車での事故は、加害者、被害者の両方が嫌な思いをしてしまいます。みなさんも運転をするときは、くれぐれも注意するように心がけましょう

第43回:交通事故で相手の思い出の品を破損させてしまったら!?|渋滞ができる法律相談所
illustration/もりいくすお

■ワンポイント法律用語■

過失(かしつ)
予見可能な結果について、結果回避義務を行わないこと。予見が不可能な場合や、予見が可能であっても結果の回避が不可能な場合には過失を認めることができない