これから価値が上がっていくだろうネオクラシックカーの魅力に迫るカーセンサーEDGEの企画【名車への道】
クラシックカー予備軍たちの登場背景や歴史的価値、製法や素材の素晴らしさを自動車テクノロジーライター・松本英雄さんと探っていく!
自動車テクノロジーライター。かつて自動車メーカー系のワークスチームで、競技車両の開発・製作に携わっていたことから技術分野に造詣が深く、現在も多くの新型車に試乗する。「クルマは50万円以下で買いなさい」など著書も多数。趣味は乗馬。
素材から磨かれた“勝つためのテクノロジー”
——今回はすでに名車として有名な車を紹介したいんですよ。よく、中古車との出会いは一期一会なんて言いますけど、この企画で取り上げるモデルもそうだと思うんですよね。
松本 のっけからストレートだねえ。いいと思うよ、何事もそういった機会は大切だからね。ということは、とっておきのモデルを見つけたんだよね? どのくらいレアな車なのかなあ。
——松本さんもよくご存じのモデルだと思います。イタリア車です。松本さんから所有していたとは聞いたことがありませんが、乗ったことは絶対にあると思うんですよね。年代的には、松本さんが生まれた頃じゃないかなあ。なかなかお目にかかれるモデルじゃないですよ。
松本 なんだろう? 僕は自分が生まれた年代のモデルも何台か所有していたことがあるからなあ。フェラーリかそれともアルファ ロメオ?
——さすが鋭いですね(笑) 。アルファ ロメオです。1965年式の“ジュリア スプリント GTA”です!
松本 おお、それはすごいね! 今ではなかなか目にすることができない、超貴重なモデルなんじゃないかな。生産台数はわずか500台とか501台とかいわれているからね。それもストラダーレとコルサを合わせた台数だからね。
——この企画でもお世話になっているBINGO SPORTSさんが、素晴らしいコンディションの個体をお持ちでしたので。
松本 GTAはプロだけでなくアマチュアも含めて、ほとんどがレーシングフィールドで活躍していたんじゃないかな。1965年のアムステルダムショーでローンチされているんだけど、デリバリー開始直後からレーシングフィールドで活躍。ヨーロッパツーリングカー選手権では、1966年から3年連続チャンピオンを獲得した実績があるんだよ。それもあるから、珍重されて当たり前なんだけどね。
——これは有名な話だと思うんですけど、ボディはアルミ製なんですよね?
松本 ああ、車好きにはかなり有名な話だよね(笑)。GTAの“A”はイタリア語で「Alleggerita」のことで、軽量を意味しているんだよ。
——なるほど。それで、どこにアルミを使っているんですか? 車体のすべてとか?
松本 メインプラットフォームはジュリアスプリント GTと同様のマテリアルが使われているんだけど、GTAはボディが違うんだよ。それと、君はアルミ、アルミって言っているけれど、アルミ合金製ね。正確には“ペラルマン25”という、専門的にいうとAl-Mg系のアルミ合金で、現在のアルミ合金でいうと5000番台というところかな。もっと専門的にいうと、Mg(マグネシウム)の含有量が多いので、軽量かつ強度が高い素材で耐食性も高い。これは航空機にも使われているアルミ合金で、イタリアではペラルマンと呼ばれているんだけど、1960年代のレーシングカーやスペシャルボディのモデルに使われていたんだよ。伝説のロードゴーイングカー「ティーポ33ストラダーレ」もこの素材を使っていた。僕が知る限りでは、ランチアのフルビア スポルト ザガートもこの素材を使っているんだよ。アルミ合金ながら、スチール製のようなシャープで張りのあるフォルムにすることが可能らしい。そういえば、もう25年ほど前になるけれど、ミラノにあるカロッツェリア、ザガートを訪問した時に、GTAをレストアするのに必要な素材として見せていただいたことがあったなあ。
——相変わらずマニアックですねえ……。それで、GTAのどの部分がアルミ合金なんですか?
松本 ロッカーパネルを除いたボディすべてといっていいね。メインボディ、ドア、トランク、トランクインナーパネル、ボンネット、センタークラスターブラケットパネル、オイルクーラーブラケット、ナンバー灯などなど。これによってノーマルモデルのジュリアスプリント GTと比べ205kgも軽量化しているんだよ。素材の厚みは1mmから1.2mmで、メインフレームとの接合はリベット留めというのが簡単にGTAを見分ける方法だね。それとフロントグリルもアンチモン製から薄いステンレスに変更されている。グリルは“餅網仕様”という、実にスパルタンな出で立ちなんだ。細かいところだと、通常のセンターグリルはボディにはめ込んだスタイルなんだけど、GTAはボディにははめ込まずにセンターのラジエターグリルの開口部にはめた感じで、簡略化した雰囲気が実にスペシャルだったね。それと、さっきも話したけどGTAはスチールとアルミ合金をリベットで接合しているので電位差が生じてしまうことから、ある意味腐食しやすいといえるだろうね。
——なるほど。難しいですね……。
松本 内装は、ヘレボーレ製のステアリングホイールがいいね。これは標準タイプよりも軽量で、運転した時の剛性感は少し低いと感じたけど、雰囲気はいいよね。インテリアのドアパネルも簡素化してあってカッコイイなあ。
——これ、エンジンも違うんですよね?
松本 全然違うよ! 出力こそ115hpだから少々高めという感じだけど、ポテンシャルがまったく違う。まずエンジンパーツにマグネシウムを使って軽量化してあるんだ。アルミの比重は2.7で鉄は7.9、マグネシウムは1.7 だからね。いかに軽くなるか分かるよね。しかも、マグネシウムは放熱性と減衰性能が高い素材なんだ。第2次世界大戦時には軍用機にも使われていた材質だから、当時軍用機のエンジンを作っていたアルファ ロメオは扱いが得意だったんじゃないかな。シリンダーヘッドもまったく違う。見れば分かるけれど、1気筒に2つのスパークプラグが付いているのが有名だよね。さらに、バルブの挟み角も違いがあって、標準が90度の挟み角のところを80度にしている。とにかくたくさんの燃料と空気を燃焼室に入れて、燃焼速度を早めようとしたスペックなんだよね。まさに、特別な部分を挙げればきりがないくらいの一台なんだ。
——やっぱりGTAは特別なモデルなんですね。
松本 価値あるモデルはマスモデルに比べ、とにかくコストと手間がかかっている。GTAも、現在ではありえないほど考え抜かれた“勝つためのテクノロジー”が盛り込まれたモデル。見かけに大きな違いがなくても別物、というのが本物の証だよね。
アルファ ロメオ ジュリア スプリント GTA
ベルトーネに在籍していたジウジアーロがデザインを手掛けた、2ドア4シータークーペのジュリア スプリントをベースとした高性能モデル。ボディパネルなどにアルミを採用、遮音材を簡素化することで大幅な軽量化が図られている。圧縮比アップやキャブレターの大径化など様々な改良を受けたエンジンを搭載。レーシング仕様のコルサを含め、生産台数は500台程度となる。
※カーセンサーEDGE 2024年8月号(2024年6月27日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています
文/松本英雄、写真/岡村昌宏
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