これから価値が上がっていくだろうネオクラシックカーの魅力に迫るカーセンサーEDGEの企画【名車への道】
クラシックカー予備軍たちの登場背景や歴史的価値、製法や素材の素晴らしさを自動車テクノロジーライター・松本英雄さんと探っていく!
自動車テクノロジーライター。かつて自動車メーカー系のワークスチームで、競技車両の開発・製作に携わっていたことから技術分野に造詣が深く、現在も多くの新型車に試乗する。「クルマは50万円以下で買いなさい」など著書も多数。趣味は乗馬。
XKを盤石の地位へ導いたオープンスポーツの最終進化版
——松本さんの独断と偏見でセレクトしている当企画ですが、今回紹介したいモデルは見つかりましたか?
松本 ふと通りがかったお店で「こんな貴重な車が! 」なんていう奇跡的な出会いというのもあるけれど、お世話になっているお店のストックリストを見せていただくと、そこに紹介したい車が潜んでいることも多いんだよ。そうやって見つけた車も今までたくさんあったしね。
——店頭でバッタリ出会う意外すぎるモデルでもまったく問題ありませんよ(笑)。ところで、「ジャガーのXKが見つかるといいね」って、以前おっしゃっていましたよね?
松本 それは年がら年中言っているねえ(笑)。ジャガー XKは過去に何台か紹介してきたしね。
——確かにそうでしたね。
松本 XKといえば、Eタイプをイメージする人も多いよね。でも、初めてXKというモデル名となったのは1948年に登場したXK120からなんだよ。この車、知ってるかなあ? これを知らないと話が進まないんだよね。XK120はジャガーというブランドを一気に世界に知らしめたモデル、と言ってもいいんじゃないかなぁ。
——なるほど。今回はXK120 ではないんですけど……。XK150というモデルを、いつもお世話になっているBINGO SPORTSさんの店内で見つけたんです。
松本 撮影させてもらえるようなXK150があるの? 素晴らしいね。それにBINGO SPORTSさんなら素晴らしいコンディションだろうね。紹介する個体は品質・コンディションも重要だからね。XK150はジャガーのスポーツモデルの座を、Eタイプへとバトンタッチしたモデルでね。ジャガーが作り出したXKという高品質なスポーツモデルは、XK120からXK140、そしてXK150へと進化することでその地位を盤石なものにしているんだよ。
——では、そのXKについて、まず教えてください。
松本 ジャガーを創設したウィリアム・ライオンズは当時、アストンマーティンをはじめとするスポーツカーやスポーツサルーンメーカーと同等かそれ以上の性能を有しつつも価格を抑えることで、XKを人気モデルとしたんだ。しかも、ウィリアム・ライオンズはデザイン力に秀でた人物で、ロングノーズ&ショートデッキにこだわって車作りを続けた。XK120は、空力的に優れたフォルムに伸びやかなシェイプを備えたデザインで絶大な支持を得たんだ。
——なるほど。メカニズムについてはどうですか?
松本 もちろん、パワーユニットも素晴らしい。伝説のユニットとして知られているXKエンジンが搭載されたんだ。このエンジンはDOHCの直列6気筒ユニットで、1949年から1992年まで43年間にわたって作り続けられた名機なんだ。しかも、基本的には量産ユニットなのにル・マン24時間レースを5度も制している。とにかく基本性能が高い素晴らしいエンジンなんだよ。アストンマーティンのエンジンと似た形式ではあるんだけど、価格と性能、耐久性はXKエンジンの方が優れていたんじゃないかな。ユニットにはアルミ合金製のシリンダーヘッドと鋳鉄製のブロックが用いられているんだけど、レーシングエンジンの設計者と燃焼室のスペシャリストを迎えて設計されているから、フラットなトルクに加えて出力を上げる余力がある構造だった。ちなみに、シリンダーヘッドにはRR55と呼ばれる、ロールス・ロイス社が作った戦闘機用エンジンに使用したアルミ合金が用いられていた。高い性能を発揮しつつ信頼性も高めるために高価な素材を使っているんだ。そして、年代や性能によってエンジンブロックの色を変えていた。一目見れば分かるようにね。彼らしい工夫だと思うよ。
——では、今回のXK150はどんなモデルなんでしょうか?
松本 初めにも話したけど、XK120が始まりでその最終形がXK150という系譜なんだけど、そのXK120はロードスターから始まっているんだ。当時、ロードスターはスポーツカーの証だからね。デザインはレーシングカーのBMW 328MMや、エレガントなデザインが得意なフランスのカロッツェリア、フィゴーニ&ファラシの雰囲気が上手く組み合わせてある。これは有名な話だけど、車名の“120”は時速120マイル(190km/h)以上という最高速度のことなんだ。そのロジックでいくと、XK150の最高速度は時速150マイル(240km/h)以上ということになるんだけど、居住性やスタビリティの向上など様々な部分に近代化技術が施されたことによる車重の増加などもあって、実際の最高速度はおよそ215km/h前後といわれている。でも、当時のスポーツサルーンとしたら十分すぎる性能なんじゃないかな。
——具体的にはどういったモデルだったんですか?
松本 まず、モノコックボディではないから、フットスペースやキャビンサイドを広げることが容易にできたんだ。先代のXK140に比べてキャビンスペースが10cmも広がっているから、まさにスポーツサルーンに相応しい室内空間といえる。この撮影車両はXK150 OTSだね。 XK150は当初、FHC(フィックスヘッドクーペ)とDHC(ドロップヘッドクーペ)の2種類だったんだけど、市場からの要望でOTS(オープン2シーター)が生まれたんだよ。OTSはXK150の中で最も生産台数が少ないんだ。FHCは旅行などにも便利なサルーンで、DHCはカブリオレのようなフルウェザーモデルなので軽快なスポーツカーというよりはサルーン寄りのモデルかな。スタビリティと軽快さを兼ね備えたXKらしい走りを持っているのは、このOTSなのかもしれないね。いずれにしても、生産台数たった2265台といわれるこのオープン2シーターは、貴重な名車であることに間違いはないけどね。
ジャガー XK150
ジャガーの名声を確立させたXK120、XK140の後継となるFRスポーツカー。居住性などグランドツアラーとしての快適性は高い。1957年にクーペとドロップヘッドクーペが登場、遅れて2シーターオープンが追加された。1枚ガラスのフロントウインドウや、ディスクブレーキが採用されている。1960年10月に生産を終了しEタイプへとその座を譲った。
※カーセンサーEDGE 2024年7月号(2024年5月27日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています
文/松本英雄、写真/岡村昌宏
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