オートマ操作▲自動で変速してくれる装置……という意味なら、現在では様々なタイプが存在するオートマ車。オートマについて改めて学んでみよう

オートマ(AT)車とマニュアル(MT)車の違いとは

クラッチやシフトレバーを頻繁に操作しなければいけないマニュアル車に対して、誰でも簡単に運転できるイメージのあるオートマ車。

「オートマ」が変速を自動で行ってくれる装置……ということは知っていても、根本的な違いを知らない人もいるのでは?

ここでは「オートマ」と、「マニュアル」など他のトランスミッションとの違いを明らかにするとともに、オートマ車を運転するうえでのコツなどを解説していく。
 

日産 セレナ ▲一昨年発売された6代目セレナのATセレクターはなんとプッシュボタン式だ
 

オートマ(AT)車とは? マニュアル(MT)車との違いは?

今や圧倒的マジョリティーといえるオートマ車。カーセンサーに掲載されている中古車でも、全掲載台数の実に93%以上がAT/CVT車(2024年1月10日現在)だ。

まずは用語の説明から始めよう。「オートマ」は「Automatic Transmission=自動変速機」の略で、頭文字から「AT」とも呼ばれている。

エンジンは大きなトルクやパワーを出せる回転数の領域が限られており、どんな速度でもエンジン回転数を適切に維持するためにはトランスミッションで変速する必要がある。その操作を自動で行ってくれるのが「オートマ」だ。

シフトレバーとクラッチペダルを操作して変速するマニュアル車と違い、オートマ車はエンジン回転数や車の速度、アクセル開度などに応じて自動で変速される。最近のモデルは変速ショックが少ないので意識しにくいが、オートマ車もマニュアル車と同じように変速されている。
 

ATカットモデル ▲トルクコンバーターと遊星歯車が組み合わされたオートマチック・トランスミッションの内部。油圧回路が迷路のように入り組んでいる

変速機をロックして車を動かないようにする「P(パーキング)」や後退するときに使う「R(リバース)」、エンジンブレーキを利かせたいときに使う「1~3速」への操作はオートマ車であっても必要。ちなみに、「N(ニュートラル)」は駆動系を切り離してフリーにするためのレンジで、けん引時などに使う。

・オートマ車の構造について

「オートマ」の構造はタイプによって異なるが、最もオーソドックスなのは遊星歯車による変速機構とトルクコンバーターを組み合わせたもの。トルクコンバーター(トルコン)はエンジンのトルクを液体の流速に換えて駆動系へと伝達する機構のことで、変速時の回転差を吸収するとともに、トルクを増幅する作用もあるのが特徴だ。

変速の段数は遊星歯車の数によって異なり、新しいモデルほど多段化する傾向にある。現代では軽・小型車で3~4速、普通車で5~6速、高級車やスポーツカーなどで7~10速が一般的。ただ、最近は後述するCVTを採用する車種も増えてきた。

「マニュアル」との最も大きな違いは、駆動系が直接的につながっているか否かだ。マニュアル車の場合、変速機内の部品はすべて直接つながっているが、オートマ車は前述のようにトルコン内で液体を介している。それがオートマ車とマニュアル車の運転感覚や動力性能、燃費などに違いをもたらしているのだ。
 

マニュアルモード ▲最近のATは多段化していることもあり、1~3速の代わりにマニュアルモードを設けている車種も多い

ちなみに、オートマ車の一部に採用されている「マニュアルモード」は変速をドライバーが任意に行うためのものであり、マニュアル車のように駆動系がダイレクトにつながるわけではない。
 

 

CVT、DCT、AMTとは?

最近では「オートマ(AT)」と「マニュアル(MT)」以外にも、様々なトランスミッションが登場してきた。ここでは、代表的なものを解説する。

・CVT

「CVT」は「Continuously Variable Transmission=連続可変変速機」の略で、変速比を無段階に変えられる機構のこと。

構造は様々だが、一般的な「スチールベルト」式では隙間の間隔が変化する2個のプーリーを金属製ベルトでつなげ、駆動力を伝達する。オートマと違って変速ショックがないこと、トルコンによる伝達ロスがないために燃費性能に優れることが利点。

現在、軽自動車やコンパクト車ではオーソドックスな遊星歯車+トルコン式オートマより、CVTを採用するモデルが多くなっている。

スバル レガシィ(5代目) ▲「リニアトロニック」という独自のCVTを搭載した、スバルの5代目レガシィ。ベルト式CVTはそれまでトルクの低い小型車にしか採用できなかったが、金属製チェーンを用いることで大出力エンジンに対応させた

・DCT

「DCT」は「Dual Clutch Transmission(デュアルクラッチ・トランスミッション)」の略。奇数のギアと偶数のギアそれぞれにクラッチを設け、交互につなぐことで滑らかな変速を実現する。

構造的にはマニュアル車の一種と見なすことができるが、クラッチや変速操作は一般的なオートマと同様、自動で行われる。トルクコンバーターを介さないため、マニュアル車同様のダイレクトな加速感を味わえるのが魅力だ。

なお、DCT車はクラッチ操作がないので「AT限定免許」でも運転することができる。
 

ホンダ フリード ハイブリッド(2代目) ▲スポーツカーや欧州車に採用の多いDCT。写真は国産コンパクト車でありながらDCTを採用するホンダ フリードのハイブリッド

・AMT

「AMT」は「Automated Manual Transmission(オートメイテッド・マニュアル・トランスミション)」の略。文字どおり、マニュアル・トランスミッションのクラッチ操作・変速操作を自動化したものだ。

フルオートマチックの場合、クラッチや変速操作は一般的なオートマと同様に自動で行われる。メーカーによって呼称は異なり、トヨタは「SMT(シーケンシャル・マニュアル・トランスミッション)」、スズキは「AGS(オート・ギア・シフト)」と呼んでいる。

こちらも「AT限定免許」で運転することが可能だ。
 

トヨタ MR-S(初代) ▲マニュアルの他に、5速(2002年8月MC以降では6速)SMTを設定していたトヨタ MR-S。ダイレクト感のある加速が魅力だった
 

オートマ(AT)車のメリット・デメリット、オススメな人

ここからは、オートマ(AT)のメリット・デメリットや、どんな人にオススメできるか解説していこう。

・オートマ車のメリット

オートマ車のメリットは何といっても操作が楽なことに尽きるだろう。アクセルペダルを踏むだけで加速してくれ、巡航中のシフト操作はほぼ必要ない。ドライバーはステアリング操作だけに集中できる。

また前述したトルコンの作用により、大きなトルクを引き出せるのも長所のひとつ。小排気量車での登坂、オフロード走行などではマニュアル車よりオートマ車の方がストレスなく走れる場合もある。

ちなみに、ブレーキペダルから足を離すだけで車が少し前進する「クリープ現象」は、トルコンを備えたオートマ車だけに起きるもの(CVT車などで擬似的にクリープを発生させている車もある)。駐車時など微速走行時に重宝する。
 

ペダル ▲ATの登場により、繊細かつ頻繁な操作を要求する変速からドライバーが解放されたことで自家用車の市場は一気に拡大した

・オートマ車のデメリット

駆動系の伝達経路に液体を介しているため、スリップ=伝達ロスが発生しやすい。そのためマニュアルとオートマの両方を用意する車種では、一般的にオートマの方が燃費や加速性能は悪くなる。

ただし、最近のオートマ車には状況に合わせて駆動系を直接つなぐロックアップという機構が搭載されており、燃費の面ではマニュアル車にかなり近づいてきた。

またクラッチをつなぐ必要なく、アクセルペダルを踏んだだけで前進してしまうため、ペダルの踏み間違えによる誤発進を起こしやすいこともデメリット。しかし、この問題も誤発進抑制装置の普及で解決されつつある。
 

レクサスIS-F(初代) ▲2007年に登場したレクサスIS Fには全域ロックアップする8速AT、スーパーダイレクトシフトが搭載された

・こんな人にはオートマ車がオススメ!

ロックアップ機構や誤発進抑制装置の付いた最近のオートマ車においてはほぼ弱点なし! ということで、ほぼすべての人にオススメできる。マニュアルモード付きのオートマならスポーツドライビングも十分に楽しめる。
 

 

マニュアル(MT)車のメリット・デメリット、オススメな人

続いては、マニュアル(MT)車のメリット・デメリットと、オススメできる人について解説していこう。

・マニュアル車のメリット

ダイレクトな加速感が味わえること、燃費性能に優れること、意のままに操れることがマニュアル車のメリット。繊細なマシンコントロールが要求されるモータースポーツなどでは、今なおマニュアル車もしくはDCT車、AMT車が多数派だ。

・マニュアル車のデメリット

オートマ車に比べると、ストップ&ゴーの多い都市部での運転、渋滞時などの運転で疲れるのは致し方ないところ。またクラッチは消耗品であり、10万km走行程度で交換が必要なことも注意しておきたいポイント。

ただし、構造が複雑なオートマ車は故障したときの修理代が高くなる傾向があり、メンテナンスコストの有利不利は一概に言えない。

そして最大の難点と言っても良いのは、新型車でマニュアルを設定している車種が少ないことだ。中古車を視野に入れれば選択肢は格段に増えるものの、圧倒的に少ない。
 

MAZDA2(初代) ▲MAZDA2(旧デミオ)は現在でも一部のグレードにMTを用意する希少な国産コンパクトだ

・マニュアル車はこんな人にオススメ!

シフトレバーやクラッチを操作すること、そのものに喜びを見いだせる人はマニュアル車を選ぶべき。単にスポーツドライビングを楽しみたいだけなら、DCT車やAMT車も選択肢のひとつだろう。
 

 

オートマ(AT)車を運転するコツ

難しい操作を必要としないことがオートマ車のメリットだが、安全に運転するために押さえておきたいポイントもいくつかある。

・エンジンブレーキを上手に使おう

下り坂や加減速が連続する場面では、「D」レンジのまま走行するよりも、シフトレバーを操作してシフトダウンし、エンジンブレーキを利かせた方が走りやすい。

また、フェード現象(ブレーキパッドが過熱して制動力が働かなくなる現象)やベーパーロック現象(ブレーキフルードが過熱し、気泡が発生することで制動力が伝わらなくなる現象)を予防するためにも、エンジンブレーキは積極的に使った方が良い。

もっとも最近のオートマは自動制御されており、車速やペダル操作に応じて自動的に最適なギアを選んでくれるものが多い。
 

下り坂 ▲ワインディング、特に下り坂では積極的にシフトダウンしてエンジンブレーキを利かせよう

・「P」レンジを過信しない

車を駐車するときに使用する「P(パーキング)」レンジは、トランスミッション内部の動きを固定し、駆動輪をロックするための装置。

しかし、坂道などでは内部のギアが荷重に耐えきれず、ロックが外れて車が動いてしまうことがある。またロックできるのは駆動輪のみで、非駆動輪(例えばFFの場合の後輪)はフリーである点にも注意が必要。「P」レンジに入れるときは、必ずパーキングブレーキを併用するようにしよう。

・トルコンの作用を上手く利用しよう

トルクコンバーターは、内部に充塡されたフルード(液体)で駆動力を伝える仕組み。フルードの流速が高まる(スリップ量が増える)ほどトルクは増幅されるが、逆に流速が低い状態では駆動力が伝わりにくい。

そのため大きな段差などでトルコンがスリップしてしまうときには、タイヤを段差に押しつけたままアクセルペダルを開け気味にしてエンジン回転数を上げると、乗り越えやすくなる。ただし、乗り越えた後に加速してしまわないよう、段差を越えたらすぐにアクセルペダルを戻そう。
 

 

オートマ(AT)限定免許とは

免許を取ってもマニュアル車は運転しないなら、「オートマチック限定免許」を取るのもアリ。普通自動車の運転免許にはマニュアル車もオートマ車も乗れる通常の免許の他に、「オートマチック限定免許」がある。

「オートマチック限定免許」は1991年11月に創設された制度で、現在では新たに免許を取る人の7割以上(警視庁「運転免許統計 令和4年版」)がこちらを選ぶまでになった。

教習所では通常の免許を取得する場合に比べて、教習時間が3レッスン分少なくて済み、教習費用も若干安くなる利点がある。ただし、「オートマチック限定免許」であっても学科試験ではマニュアル車の操作に関する問題が出題されるため、注意が必要だ。

ちなみに、「オートマチック限定免許」を取得した後でマニュアル車に乗る必要が生じた場合は、限定解除することが可能。教習所なら最短4時限の実技講習を受け、技能審査に合格すればOK。ややハードルは高いが、運転免許試験場で限定解除することも可能だ。
 

教習所 ▲普通自動車では第一種だけでなく第二種にもAT限定免許がある。そのためタクシー運転手がAT限定ということもあり得る
 

カーセンサーで中古車を探すときには

カーセンサーの「カタログ」から車種を選び、「モデル一覧」から世代を選択、さらに「マイナーチェンジ一覧」で年式とグレードを選択すると、その車に搭載されているトランスミッションの種類を知ることができる。

「ミッション」はトランスミッションの種類とギア数、「ミッション位置」はシフトレバーがどこに配置されているかを表している。記載例は下記のとおりだ。

・「6AT」……6速のオートマチック・トランスミッション(※DCTやAMTも「AT」で記載されている)
・「5MT」……5速のマニュアル・トランスミッション
・「インパネ」……シフトレバーがインパネにあるもの
・「フロア」……シフトレバーが床(通常は運転席と助手席の間)にあるもの
・「コラム」……シフトレバーがステアリングコラムにあるもの
・「AI-SHIFT」……AI(人工知能)が搭載されているオートマチック・トランスミッションのこと
・「マニュアルモード」……ドライバーが任意にシフトアップ、シフトダウンできる機構のこと


オートマ(AT)車といえども、様々な種類があるため、車選びの参考にしてほしい。
 

文/田端邦彦 写真/AdobeStock 、日産、スバル、ホンダ、マツダ、トヨタ、尾形和美、

※記事内の情報は2024年1月15日時点のものです。
 

田端邦彦(たばたくにひこ)

自動車ライター

田端邦彦

自動車専門誌で編集長を経験後、住宅、コミュニティ、ライフスタイル、サイエンスなど様々なジャンルでライターとして活動。車が大好きだけどメカオタクにあらず。車と生活の楽しいカンケーを日々探求している。プライベートでは公園で、オフィスで、自宅でキャンプしちゃうプロジェクトの運営にも参加。