職業体験とは、文部科学省が定めた学習活動。中学生が授業の一環として、地元のスーパーマーケットなど一般企業で働く体験活動だ。CSR活動(企業の社会的責任)に力を入れている埼玉県春日部市の中古車販売店が、昨年より職業体験生を受け入れている。そこで中学生の彼らが、地元の“車屋さん”で働く経験を通して何を思ったのか聞いてきた。

▲職業体験中の生徒が、店舗スタッフにノウハウを教わりながら一生懸命に車内清掃を行っていた。商用車のクリーニングは難易度が高い!▲職業体験中の生徒が、店舗スタッフにノウハウを教わりながら一生懸命に車内清掃を行っていた。商用車のクリーニングは難易度が高い!

“車屋さん”は大変だけれど必要な会社

お店に訪問したのは開店直後の10時過ぎだったが、すでに彼らは入庫したばかりという商用車(トヨタ プロボックス)の中で、社員と一緒に内装のクリーニング作業を行っていた。筆者に気づくと、姿勢を正して「いらっしゃいませ!」と迎えてくれた。やはり気持ちの良いあいさつをされると単純に“ここへ来て良かった”とうれしい気持ちになる。

取材に協力してくれたのは、職業体験2日目を迎えた越谷市立平方中学校の2年生男子生徒。彼らは、開店前の店舗内清掃、展示を控える車両の内外装クリーニング、お客さまの来店があれば出迎えから車両説明まで行っているそうだ。前日には3組の接客も経験したとのこと。

▲お客さまを整列して見送る生徒たち。誠実に元気よくあいさつをする生徒に、受け入れている販売店側もあらためて学ぶことが多いという ▲お客さまを整列して見送る生徒たち。誠実に元気よくあいさつをする生徒に、受け入れている販売店側もあらためて学ぶことが多いという


―車屋さんで仕事をしてみた感想を聞かせてもらえますか?
「実際やってみたら想像以上に大変な仕事です。でも、ものすごく大切で必要な仕事だということもわかりました」

―どんなところが大変だと思いましたか?
「車のクリーニングです。中古車は汚れを落とすのに時間もかかるし細かいところまでしっかり掃除する必要があるので」

―どうして大切な仕事だと感じたのですか?
「車を売る以外にもお客さまの知らないところでは車をきれいにしたり、修理したり、事務仕事をしたりと次に乗る人のために様々な事をしているからです」
「来店してくるお客さまがものすごく熱心に車を探していました。車を買うことの大変さと同時に、商品説明の難しさがわかったから」

―車屋さんとはどんな仕事だと思いますか?
「次に乗る人に気持ちよく使ってもらうために、車を直したりきれいにする仕事です」
「車を探すお客さまにわかりやすく説明をする仕事だと思います」
「エコとかリサイクルという必要な仕事だと思いました」

お話を伺った中学生の中に、お父さまが自動車の整備士をされているという生徒がいた。彼いわく、この体験を経て今まで以上に父親の仕事に興味を持てたとのこと。そして将来は、自動車関係の仕事に就きたいという気持ちが強まったそうだ。

▲職業体験を実施している今回の取材協力店、カーメイトサクセス春日部店 ▲職業体験を実施している今回の取材協力店、カーメイトサクセス春日部店

中古車販売店の未来は、地元貢献活動がキモになる!?

彼らと一緒に車内清掃に汗を流していた担当の白井さん。生徒たちに冗談を言いながら楽しそうにしていたが、実は真剣に中古車販売業の将来を危惧している。

「車は数年に一度の買い物だから、地域の人たちも我々が普段何をしているのかイメージがないかもしれません。それだけが原因ではないでしょうが、いまこの業界は後継者となる若手が減っています。各社従業員の募集をしていると思いますが、なかなか人が集まらないのが現状なのです。だから、このような地域活動を通じて、少しでも多くの人に我々の仕事を知ってもらうことも、大切なことだと思うんです」

店長の宇田川さんもこの活動に対する気持ちを語ってくれた。

「中学生の頃の記憶って誰でもありますよね。何をしたとか断片的なことでも。今は仕事の本質を理解できなかったとしても、地元の車屋さんで体験したことは、彼らが大人になっても覚えていてくれると思うんです。それが、彼らの将来に役立つならうれしいですし、当店の前を通ったとき『ここで働く経験したな。店長元気かな?』って身近に感じてもらえたらさらにうれしいですね(笑)」

この職業体験は互いに何を得ると思うか、白井さんに伺った。

「職業体験をした生徒は勉強の大切さに気づくのではないでしょうか。接客で使う言葉もそうですし、様々な人と接するにはやはり幅広い知識が必要となります。我々も生徒さんらから“一生懸命さ”を改めて学ぶ良い機会となっています(笑)」

いくら地元の“車屋さん”とはいえ、子供たちに限らず大人でさえ車を買うときくらいしか関わりのない業種なのだ。車は日常の生活になくてはならないモノであるにも関わらず、関連する会社やその仕事については、一般的には遠い世界と言っていいだろう。

「彼らが体験した“車屋さん”の仕事はほんの一部かもしれませんが、これを機に地元の企業への興味や将来の仕事について考える良いきっかけになっていると感じます。だからこそ、我々中古車販売店がこのような活動に積極的に参加することで、より身近になってもらうことが、この業界で働く人材確保につながることにもなると思うんです」

最後にこう語ってくれた白井さんは、このような活動に興味を持ち、参加する同業者が増えていくことは良いことだと考えている。だから、この活動で得た経験や申請方法を知りたい場合は遠慮なく相談してほしいそうだ。

▲カーメイトサクセス春日部店・職業体験担当者の白井さん(左)と店長の宇田川さん(右) ▲カーメイトサクセス春日部店・職業体験担当者の白井さん(左)と店長の宇田川さん(右)
text/編集部 大脇一成
photo/編集部、カーメイトサクセス春日部店