▲昨今の大量生産車と違い、手作り感あふれる往年の英国車。写真は66年式MG-B ▲昨今の大量生産車と違い、手作り感あふれる往年の英国車。写真は66年式MG-B

シャンプーも車も「バックヤードビルダー」に惹かれるお年頃

子供の頃や若い時分は、スーパーで売っている量産品のシャンプーを何も考えずに使っていた。しかし抜け毛に敏感なお年頃になってからは、いわゆる「サロン用シャンプー」を通販で購入し使っている。また私事で恐縮だが筆者はエレキギター演奏が趣味で、それに用いるエフェクター(足で踏んで音質を変えたりする機械)も若い時分はメジャーな大量生産品を使っていたが、最近では「ブティック系エフェクター」と呼ばれる、ごく小規模な工房が作ったタイプを愛用している。

なぜならば、大量生産品が一概に悪いわけではないのだが、こだわりを持って少量生産しているもののほうが「何となくいいんじゃないか」と思い、そして実際使ってみても何となくいいような気がするからだ。

まあ両者を科学的に比較した場合どうなるのかは知らないが、少なくとも「ブティック系」のプロダクツはジャンルを問わず、使っていて非常に気分が良い。少量生産品ならではのステキなこだわりのようなものが、細部に見て取れるからである。

▲筆者が使っているいわゆるサロン用シャンプー。成分にも、そして細部のデザインなどにも満足している ▲筆者が使っているいわゆるサロン用シャンプー。成分にも、そして細部のデザインなどにも満足している

それと同様に車も、できれば「ブティック系」の何かに乗りたいと思っているのだが、実際はなかなかそうもいかない。なぜならば、自動車を開発するにはシャンプーやエフェクターとはケタ違いの開発費がかかり、「1車種あたり数百億円」ともいわれる開発予算を投じることができるのは世界的規模の大企業に限られるからだ。

ということで遺憾ながら(?)世界的大企業がマス生産した車に乗る毎日ではあるが、そんな毎日にもしも飽き飽きするときが来たとしたら、その際に選ぶべきは「バックヤードビルダーの香りがする車」なのかもしれない。

カーセンサーEDGE.net読者であるあなたには今さら説明不要だろうが、バックヤードビルダーとは「自宅の裏庭で車を作る人」や、さすがに実際裏庭やガレージで作るわけではないまでも、ごく小規模な自動車メーカーのことだ。黎明期のロータスがまさにそれであり、現在でも(特に英国では)結構な数のバックヤードビルダーが小規模に活躍している。

▲写真は車ではなくギター用のブティック系エフェクターだが、車で言うところのバックヤードビルダーのような小規模工房が作るエフェクターが昨今の流行り。そして実際、音質もやはり素晴らしい(と思う) ▲写真は車ではなくギター用のブティック系エフェクターだが、車で言うところのバックヤードビルダーのような小規模工房が作るエフェクターが昨今の流行り。そして実際、音質もやはり素晴らしい(と思う)

今回わたくしがオススメしたいのは、そういった純バックヤードビルダーが作った車という意味ではなく、「バックヤードビルダーっぽい車」、つまり「好きな人が自分の信念に基づき、好き勝手に作った」という、まるでサロン用シャンプーかブティック系エフェクターのような雰囲気がただよう車のことだ。

ただ、そういった「ブティック系の車」というのはスーパーカー方面を買おうとすると金額的に大変なことになるので(グンベルトアポロの約6000万円とか)、一般的には「英国旧車」を狙うのが無難なアクションとなるだろう。あくまで例えばだが、70年代のMG ミジェットとか。

▲写真は79年式MG ミジェット1500。いわゆる「5マイルバンパー」が付いた年式は、昔はさほど人気がなかったが、今にしてみるとこの黒いバンパーもかなりシブい気がする ▲写真は79年式MG ミジェット1500。いわゆる「5マイルバンパー」が付いた年式は、昔はさほど人気がなかったが、今にしてみるとこの黒いバンパーもかなりシブい気がする

MGをバックヤードビルダーと呼ぶことには異論反論もありそうだが、筆者が言っているのは堅苦しい定義の問題ではなく「なんとなくの大まかな分類」なので、細かい点はご容赦いただきたい。

で、こういったMGやバンデンプラ・プリンセス、あるいは70年代のトライアンフ各モデルなどは、現代の大企業CARとはずいぶん異なる手作り感が濃厚であるため、画一的なプロダクトに慣れている人にはかなり新鮮に感じられるというか、最初はとまどいもあるかもしれない。

しかし、これは筆者のオリジナルではなく某専門店のご主人が言っておられたことだが、「こういう年代の英国車はね、最初は乗りづらいんですよ、何かと。でもね、それがちょっとずつ自分の身体や心になじんでいったり、またなじむようにいろいろと調整していくのは本当に楽しいことですから、ぜひ体験してみてほしいですね」というように、最初のとまどいも、少々の時間をかければ必ずや快感に変わる。それゆえ、もしも興味があるのならぜひともトライしてほしいと思うのである。

▲「自分仕様にしていく歓び」も、こういった年代の車の楽しみ。写真は60年代のトライアンフ TR5 ▲「自分仕様にしていく歓び」も、こういった年代の車の楽しみ。写真は60年代のトライアンフ TR5

幸いにしてこの種の車というのは日本でも専門店が多いため、修理や整備のノウハウは十分に蓄積されている。そして整備に必要な部品も、海外から比較的安く引っ張ってくることができる。もちろん新車のプリウスを維持することに比べれば100倍ぐらい大変かもしれないが、戦前の本格的なクラシックカーとかを維持することに比べれば100倍ぐらい楽勝なのだ。

ということで、万人にオススメしたいわけではないのだが、ある種の人への今回のオススメはずばり「英国旧車」だ。

text/伊達軍曹