※徳大寺有恒氏は2014年11月7日に他界されました。日本の自動車業界へ多大な貢献をされた氏の功績を記録し、その知見を後世に伝えるべく、この記事は、約5年にわたり氏に監修いただいた連載「VINTAGE EDGE」をWEB用に再構成し掲載したものです。

▲1898年からイギリス、ベルギーにて自動車の製造を行ってきたヴァンデン・プラ(現在ブランドは南京汽車とフォードが所有)。同社は第二次世界大戦後に起きた大不況の影響でオースチンに吸収され、1952年にはそのオースチンも巨大自動車グループのBMCの一員に。当時、BMCの主力シリーズであったADO16の高級車バージョンを作る役割を与えられた。そうして1964年に生まれたのが、小さな高級車であるプリンセスだ。他のADO16とは違う高級な仕立てが高く評価され、人気を得る 1898年からイギリス、ベルギーにて自動車の製造を行ってきたヴァンデン・プラ(現在ブランドは南京汽車とフォードが所有)。同社は第二次世界大戦後に起きた大不況の影響でオースチンに吸収され、1952年にはそのオースチンも巨大自動車グループのBMCの一員に。当時、BMCの主力シリーズであったADO16の高級車バージョンを作る役割を与えられた。そうして1964年に生まれたのが、小さな高級車であるプリンセスだ。他のADO16とは違う高級な仕立てが高く評価され、人気を得る

家族のためのヴィンテージ辿り着いたのは小さな英国車

徳大寺 さて、今月はどんな車だい? 特集に関連した車選びをしてるんだよな?
松本 はい。今回は家族の車がお題です。
徳大寺 なるほど。君の年代ならいろいろと選べるが、僕の年代では難しそうだな。この企画は50~70年代の車がメインだからな。
松本 そうなんですよ。巨匠の年代で家族の車として幼い頃に乗ったとなると戦前のモデルになってしまいますからね(笑)。 
徳大寺 日本は戦後徐々にモータリゼーションが進んできたんだ。だからこそ今日では様々なクラシックカーも高級車もこうして見ることができる。でも当時、輸入車に乗ることができたのはまだ限られた人だけだからね。
松本 そこで企画に合った車を考えたんです。フォルクスワーゲンやメルセデスなのか、個性的な英国車勢なのかなと。
徳大寺 米車もあるけど今回は君の意見に従おう。メルセデスは弩級なモデルを含めていろいろとこの企画でも見てきたな。ビートルは大衆にも喜ばれたし、作りの良さを知った車だけど憧れるような華は、ちょっとな。そうなると君も所有している英国車なんじゃないか。
松本 やはりこの時代の英国車は雰囲気がいいですよね。日本人はあの木目にやられちゃうんじゃないかと思うんですよ。それでいてコンパクトなモデル。もうそこまで来たら一車種しかないと思うんですけどね。
徳大寺 そりゃADO16系だな。ヴァンプラなんかいんじゃないか。女優さんも乗ってたしな。洒落てるよ。しかも本物だ。あのコンパクトなボディで4人が乗れて、後部席のウォールナットで飾られたお茶用のテーブルがなんとも日本人の心をつかむんだな。
松本 以前にヴァンプラの4Lモデルは見に行きましたが、日本で人気のあったADO16のヴァンプラはまだ取り上げてなかったですよね。

名シリーズのADO16を高級仕立てにしたプリンセス

徳大寺 あのADO16のシリーズにはMGがあったけど、2ドアのあれはなかなか可愛いと思うよ。
松本 ADO16はヒットしたシリーズの1つですよね。イギリスの自動車メーカーも連合を組んで自動車産業を支えたわけですけど、その中の1つに巨匠がおっしゃったMGがあって、今回見に行くヴァンデン・プラ・プリンセスがあるわけです。そろそろお店に着く頃ですよ。巨匠の大好きな英国車屋さんです。
徳大寺 おー。ここを知らなくて古い英国車は語れないからね。白鳥さんのところか。あるある、あれだな。ここは日本で一番ヴァンプラを販売してるんじゃないか。良い佇まいだ。
松本 程度も素晴らしいですね。
徳大寺 ADO16の設計はイシゴニスさんだったんじゃないかな。ミニで培ったノウハウを利用しながら、タイヤを四隅に置いて、コンパクトだけどホイールベースがあるミニでは不十分だった快適性を、このADO16に託すことができたんだ。その中でもヴァンプラは一番高級なブランドとして堂々としたグリルやフォグランプを追加し、内装に至っては最上級とは言わないまでもコノリーレザーを使っていたり、高級車には不可欠なウィルトンカーペットも敷いてあるんだ。極めつけはロールスにも付けられていたウォールナットで架装された折りたたみ式のテーブルだろうな。
松本 ヴァンデン・プラの歴史は凄いですよ。元々はベルギーのコーチビルダーで19世紀の馬車の時代の創業ですからね。ブリュッセルからアントワープに製造拠点を移したりと当時としては大きかったそうですね。従業員も20世紀初頭には400人以上いたくらいですから、素晴らしい技術を持ったコーチワークビルダーだったのでしょう。
徳大寺 ヴァンプラといったら弩級の高級車のボディばかりを作っていたんだからね。ロールスをはじめ、ラゴンダやアルヴィスといったメーカーの仕事をしていたんだ。戦後間もなくオースチンの子会社になってオースチンのシャシーを架装して、その1つのモデルをエリザベス女王が購入したんだ。王室に相応しい雰囲気だったのがわかるな。
松本 その伝統あるセンスをもってミニロールスと言わしめるように架装することができたのでしょうね。
徳大寺 天才エンジニアのアレックス・イシゴニスさんが作って馬車の時代からのコーチワークを融合する。そうするとこういう小さくても高級なモデルができるんだ。この雰囲気は一日にしてはならないんだな。

VANDEN PLAS PRINCESS 1300V.P.  フロント
VANDEN PLAS PRINCESS 1300V.P.  シート
VANDEN PLAS PRINCESS 1300V.P.  エンジン
VANDEN PLAS PRINCESS 1300V.P.  運転席周り
VANDEN PLAS PRINCESS 1300V.P.  リア

【SPECIFICATIONS】
■全長×全幅×全高:3760×1530×1360(mm)
■ホイールベース:2510mm
■車両重量:930kg
■総排気量:1300cc

【ガレージ日英】
■所在地:東京都大田区蒲田2-11-19
■営業時間:10時~19時
■定休日:日祭日
■tel:03-3739-2606

text/松本英雄
photo/岡村昌宏


※カーセンサーEDGE 2014年8月号(2014年8月27日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています