▲2015年3月にTNGAの取り組み状況が発表された際に公開された次世代プラットフォーム。一見すると新しい技術が入っていないようにもみえるが…… ▲2015年3月にTNGAの取り組み状況が発表された際に公開された次世代プラットフォーム。一見すると新しい技術が入っていないようにもみえるが……

TNGAが掲げる5つのポイント

TNGAとは「トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー」の頭文字に由来しており、プラットフォームそのものの名称ではなく、車づくりや仕事の進め方の方針を示している。TNGA企画部が設立された際に掲げられた取り組みのポイントは次の5つだ。

(1)商品力の向上
車の骨格を変えて低フード化&低重心化を図り、視界や運動性能を高める。2015年発売の車から導入していく。パワートレインも刷新する。

(2)グルーピング開発による効率化
中長期の商品ラインナップを決め、搭載ユニットやドラポジを「アーキテクチャー」として定める。それに基づいてグルーピング開発を行い、部品の共用化を進めて効率をアップする。

(3)ものづくり改革
仕入先、調達部門、生産技術部門、技術部門が一体となり、シンプルで作りやすいユニットを実現する。

(4)グローバル標準への取り組み
トヨタ専用規格から他メーカーも採用しているグローバル標準規格に対応する。

(5)TNGAと連動した調達戦略
車種、地域、時間をまたぎ、複数車種のユニットをまとめてグローバルに発注することで競争力を確保する。

周知のとおり、これらを踏まえて次世代モデルは開発が進められている。トヨタの発表によると、新しいプラットフォーム(上記画像)は、骨格の見直しによってボディ剛性が従来モデルより30~65%高められるという。

このプラットフォーム戦略は、2015年にデビューするFF系ミディアム車(次期プリウスであることは、もはや“公然の秘密”だろう)から採用され、コンパクトカーやラージ系、FR車にも順次取り入れられていく予定だ。2020年にはグローバル販売台数の約半分をTNGAプラットフォーム採用車が占める見込みだ。

▲次世代プラットフォームのリアからのショット ▲次世代プラットフォームのリアからのショット
▲次世代プラットフォームのサイドビュー ▲次世代プラットフォームのサイドビュー

伸縮できる汎用性が強み

さて、TNGAプラットフォームのどこが新しいのか。ステアリング配置、サイドシルや衝突安全性を大きく左右するAピラー下方の三角形部分などに、変化は見られない。開発に参画した関係者が「別に新しいことはやっていない」と言い放つように、TNGAの一環でプラットフォームは刷新されるものの、構造は従来と変わらないわけだ。

ただし、大きな成果として熱マネジメントの見直しが挙げられるであろう。いまどきの車は、ノーズ内に詰め込まなければならないものが増え、熱対策も昔と比べて大変になった。TNGAでは低フード化でエンジンルームが狭くなるが、フロントから吸い込んだ空気をうまく流して熱を逃がす構造が取り入れられる。

構造は変わらなくても、TNGAプラットフォームを介してトヨタが狙っている改善ポイントは確実にある。ここではスクープ班が予想する3つのポイントに沿って話を進めていきたい。

1つはコストダウンだ。前述した調達戦略と並んで、プラットフォーム刷新によるコストダウン効果にも期待が高まっている。新プラットフォームは、パワートレインが収まるエンジンコンパートメント、フロントフロア、リアフロアの3つの部分に分かれており、伸縮に自由度のある設計となっている。汎用性が高まれば1台あたりのコストが下がることは想像に難くない。

ただし、フォルクスワーゲンのMQBや、日産のCMF(コモンモジュールファミリー)と比べると、TNGAプラットフォームは自由度が低い。せいぜい前後オーバーハング、ホイールベース、室内高が変えられる程度だろうか。これは新旧、様々な工場が世界中に点在しており、生産設備に左右されることなく、組み立てられることを前提にした設計がされているからだと思われる。

▲フォルクスワーゲンが2012年に発表したMQBは、前輪からアクセルペダルの間隔を固定している以外、自由に変えられる構造となっている ▲フォルクスワーゲンが2012年に発表したMQBは、前輪からアクセルペダルの間隔を固定している以外、自由に変えられる構造となっている

改善ポイントの2点目は、電子プラットフォームの刷新だ。電子制御のカタマリと化した今日の車において、電子プラットフォームは欠かせない存在。ユニット類の協調制御を取り持つ重要な役割を果たす。この電子プラットフォームを動かすプログラムは、エンジン✕トランスミッションに加え、仕向け地の数だけ組み合わせが必要で、言うまでもなくプログラミングに要する工数はとてつもない。

TNGAでは、ベースとなる基本プログラムを作ったうえで、仕向け地ごとに異なる条件や機能をパッチのように加えることで対応。これによってプログラム作成の工数は大幅に省けるはずだ。

残る3点目の狙いは軽量化だ。車本体が軽くなれば運動性能や燃費が向上することは、他メーカーの取り組み(例えば最近の軽自動車)で実証済み。結果として、運転して楽しく、かつ経済的な良い車に至る図式だ。

豊田章男社長が目指す「もっといいクルマ」が市場でどんな反響を得られるか、いまから楽しみだ。

text/マガジンX編集部 Photo/トヨタ