▲新鮮な漬けマグロがトッピングされた牡丹の「まぐろ漬けラーメン」……うまし! ▲新鮮な漬けマグロがトッピングされた牡丹の「まぐろ漬けラーメン」……うまし!

「観光客らしい観光客」であることに飽きたら路地裏の名店へGO!

三浦半島の南端に位置する三崎港。横浜横須賀道路および三浦縦貫道路、そして一般道をひたすら進むとたどり着くそこは、青森県の大間と並ぶ日本屈指のマグロ漁港だ。東京界隈から日帰りで気軽に行ける観光地としても人気が高く、漁港付近には観光客向けのマグロ料理店が所狭しと軒を並べている。

それら観光客向け料理店でマグロをいただくのも決して悪くはないのだが(実際おいしいし)、三崎に行くのも数度目となると「もうちょっと、いかにも観光客然とした何かではない楽しみ方をしたいものだ……」と思うようにもなってくる。そう思い始めたあなたにぜひともオススメしたいのが、マニアックな細い商店街を入っていった先にある地元民御用達の中華料理店「牡丹」だ。

▲観光客向けのお店が並ぶ表通りをやり過ごし、細い一方通行の商店街を進むと…… ▲観光客向けのお店が並ぶ表通りをやり過ごし、細い一方通行の商店街を進むと……
▲右手に現れる「牡丹」。創業約70年の、地元民御用達の中華食堂だ ▲右手に現れる「牡丹」。創業約70年の、地元民御用達の中華食堂だ

戦後間もない約70年前にこの地に創業した牡丹は、現在は2代目と3代目が力を合わせて切り盛りしている小さなお店で、ビジュアル的には完全に「街の中華屋さん」といったニュアンス。というか実際街の中華屋さんそのものなのだが、何を頼んでもめっぽううまい隠れた名店だ。それゆえ、地元の人らが通いつめる。そして、そういった地元の人らの迷惑にならない範囲で、筆者のような非地元民も定期的に押しかけているのである。

▲店内は「ここが本当に名店なのか?」と思ってしまうだろう普通の中華屋さんテイスト ▲店内は「ここが本当に名店なのか?」と思ってしまうだろう普通の中華屋さんテイスト

名物は「三崎まぐろラーメン」および「まぐろ漬けラーメン」と「手作りジャンボ焼売」「炭火焼きチャーシュウ」だ。中でも三崎まぐろラーメンは町を挙げて取り組んでいるご当地グルメで、牡丹以外の中華料理店やラーメン屋さんでも頼むことはできる。が、牡丹がユニークなのは生のマグロ(漬けまぐろ)をトッピングした「まぐろ漬けラーメン」を用意していることだ。

では、腹も減ったのでさっそくまぐろラーメンをオーダーしよう。マグロのあんかけがトッピングされる「三崎まぐろラーメン」も捨てがたいが、今日のところは、他では食べることのできない「まぐろ漬けラーメン」を頼むことに。

▲「まぐろ漬けラーメン(税込み850円)」。他にあんかけタイプのまぐろラーメン(同850円)も ▲「まぐろ漬けラーメン(税込み850円)」。他にあんかけタイプのまぐろラーメン(同850円)も

オーダーから5分ほどで供されたそれは、いわゆる塩ラーメンの上に漬けまぐろと、歯ごたえよくシャキッと炒められた青菜、そしてネギがトッピングされたもの。麺は中細の縮れ。

まずはスープからいただこう……うむ、うまし! 野菜と鶏肉で毎日とっている店オリジナルのスープストックに、マグロでとったスープをブレンドさせたそれは、あえて極端に言うと「1日3回、朝昼晩と飲みたくなる味」だ。ラーメンのスープおよびタレというのは近年「こってり感のハイパーインフレ」を起こしていて、どこもかしこもスーパーこってり感を売りにしているわけだが、牡丹のスープはそれとは対極にあるやさしい味だ。2代目店主は語る。

「ちっちゃなお子さんからお年寄りまでが食べられる、そして当然お若い方にも喜んでいただける、そんなラーメンを作りたいと思ってますからね」

2代目の理念どおり、ひたすらやさしいが、やさしいだけではない滋味たっぷりの絶妙スープである。やや固めに茹で上げられた中細縮れ麺をスープに絡ませつついただき、そしてトッピングの漬けまぐろを食べる。……ラーメンにマグロを載せると生臭さが際立ちそうなものだが、それが一切ない。ただただ上質な漬けまぐろの味と香りが口いっぱいに広がる。

「やっぱ三崎ですからね、ラーメンに載せるマグロとはいえ、下手なものをお出しするわけにはいかない。ちゃんとしたやつを仕入れてますよ」

▲時間がたつにつれ、スープの熱で漬けマグロに徐々に火が通っていく。この味の変化もまた楽しい ▲時間がたつにつれ、スープの熱で漬けマグロに徐々に火が通っていく。この味の変化もまた楽しい

時間がたつにつれ、生だったマグロにゆっくりと熱が入っていき、半生のしゃぶしゃぶ状態になっていく。その変化を楽しみつつ1枚、2枚と口に入れていく。

「途中でね、テーブルの上にあるラー油を加えてみてください。それただのラー油じゃなくて、せがれ(3代目)が作った『まぐろラー油』なんです。まぐろラーメンに合うと思いますよ」

入れてみると、辛味より風味を優先させたそれは、クリスピーなまぐろフレークの香ばしさと相まって、まぐろ漬けラーメンの味わいがさらに1段階上がる感じに。なるほど、これは途中で絶対に足してみるべきオイルだろう。しかし逆にいえば、最初の段階ではぜひ上品なスープの味そのものを楽しみたい。それほど、滋味あふれるこのスープは絶品だ。

まぐろ漬けラーメンを完食しつつ、同じく大人気の「手作りジャンボ焼売」を注文する。メニューには「5個550円」と書かれているが、文字どおり、かなりジャンボなこちらのシュウマイを1人で5個食べきる自信はない(前回来たときは5個を2人でシェアした)。さてどうしたものか……と勘案していると、3代目の方から「ウチのはかなり大きいんで、3個ぐらいにしときましょうか?」と。シュウマイを注文する際の個数はフレキシブルに対応してくれるようだ。ありがたい。

▲メニュー表的には5個550円の「ジャンボ焼売」だが、この日は3個だけ注文して330円 ▲メニュー表的には5個550円の「ジャンボ焼売」だが、この日は3個だけ注文して330円

到着した「手作りジャンボ焼売」は、下味がしっかり付いているため醤油は付けず、そのままか、辛子だけ付けるのがオススメ。そして、これまたとにかくうまい! ジューシーな豚肉のなかに小口切りのネギがたくさん入っていて、それがかなり素敵なアクセントになっているのだ。

大満足して会計を済ませ、外に出る。観光地であり、自分もまさにドライブに来た観光客ではあるのだが、地元の人が愛している味を、地元民になったような感覚で食べることができる牡丹。正直あまり教えたくはないのだが、それと同時に多くの人に知ってほしいとも思う、三崎の名店である。

▲お店の向かい側に商店街の共同駐車場がある。ここが満車の場合は近隣の有料駐車場に ▲お店の向かい側に商店街の共同駐車場がある。ここが満車の場合は近隣の有料駐車場に

■牡丹
住所: 神奈川県三浦市三崎3-4-10
営業時間:[月~水]11:00~23:00 [金・土・日]11:00~翌2:00
定休日:木曜日
※2015年8月2日時点の情報です。上記は変更される可能性があります。ご了承ください

text/伊達軍曹