鈴木正文


車で我々に夢を提供してくれている様々なスペシャリストたち。連載「スペシャリストのTea Time」は、そんなスペシャリストたちの休憩中に、一緒にお茶をしながらお話を伺うゆるふわ企画。

今回は、「NAVI」や「ENGINE」といった自動車誌をはじめ、「GQ JAPAN」など数々の雑誌の編集長を務めてきた鈴木正文さんとの“TeaTime”。
 

鈴木正文

語り

鈴木正文

すずき・まさふみ/1949年東京生まれ。編集者、ジャーナリスト。時代の精神を探るマルチプラットフォーム「ツァイトガイスト(ZG)」主宰。海運造船の業界英字紙記者を経て、1984年「NAVI」創刊に参加し、1989~1999年には編集長を務める。さらに、2000年8月~2011年6月には「ENGINE」、2012年1月~2021年12月には「GQ JAPAN」の編集長を務め、2022年よりフリーの編集者・ジャーナリストとして活動を開始。

28歳で取った自動車運転免許

僕が自動車免許を取ったのは28歳のとき。実はそれまで車にはまったく興味がなかった。

その頃息子が生まれたのだけど、体が弱くて夜中に熱を出すことがあった。でも病院に連れて行くすべがないから、困って救急車を呼んでいたんです。それが何度か続くと申し訳なくなって、免許を取ることにした。

仮免試験は緊張して4回も落ちたけど(笑)、なんとか取れましたね。

初のマイカーは中古のカローラ・2ドアセダン。辛子色のボディで4速コラムシフト。確か60万円ぐらいだったよ。

教習所に通っているとき、ふと『カーグラフィック』という雑誌を読んでみた。その頃僕は“日本の雑誌はくだらない”と思ってほとんど読んだことがなかったんだよね。

でも妻の従兄弟の大川悠さんが当時副編集長をしていたし、少し車のことを勉強してみようかと。

いざ読んでみたら、これがすごく面白い。車だけじゃなく、社会や経済のことも話題にしていて、海外の新聞や雑誌に通じるものを感じた。それからは毎月の発売日が楽しみになったよ。

そして車にもどんどん興味が湧いて、マイカーも何台か乗り替えた。当時、大川さんが乗っていたシトロエン 2CVを運転させてもらったときにはすごく驚いた。砂利道でもとても乗り心地がよくて。こんなヘンな格好なのにすごい車だな、と。ガイシャの魅力を知った瞬間だったね。

『NAVI』創刊号はまったく売れなかった

その頃大川さんは自動車雑誌『NAVI』の創刊準備を進めていて、ある時「一緒にやってみないか」と誘われた。僕は雑誌編集の経験はなかったけど、「毎日車に乗れるなら面白いか」と、受けることにしたんです。1983年、34歳のときだね。

創刊号は「ニューヨーク自動車生態系」という特集を組み、2号目は香港の自動車事情をとり上げ、3号目ではデトロイトに行って取材して、100ページぐらいの記事を書いたりもした。なかなか画期的な記事だと思ったけど、実際はまったく売れなかったね(笑)。

でも自動車評論家の徳大寺有恒さんや舘内端さん、作家の田中康夫さん、イラストレーターの渡辺和博さん、コラムニストの神足裕司さんなど、様々な人に記事を書いてもらい、「イッキ乗り」や「ナビトーク」といった企画が立ち上がって、だんだん売れるようになった。

89年からは編集長を務めることになり、それから 『ENGINE』、『GQ JAPAN』 と、気づけば40年近く雑誌の編集に勤しんできたんだよね。

政治家がクール・ビズなら、僕はネクタイを締める

趣味は? と聞かれたら、食事、酒、時計、そしてやはり車かな。所有してきたマイカーはこれまで50、60台にはなる。

いまは91年製のシトロエン 2CVと86年製のロールスロイスの2台。ロールスはわずか5000㎞しか走っていないという希少な車を見つけて、ベントレー コンチネンタルRから乗り替えたばかり。

古い車だからそれなりにトラブルはあるけれど、この組み合わせはとても気に入っているよ。

鈴木正文
鈴木正文▲「近場への移動はこの2CVを使っています。エアコンがないので、今の季節は大変だけどね(笑)」

僕は1949年製(笑)だけど、幸い快調で大きなトラブルはないね。ジム通いを20年近く続けていて、今も週に何度かミット打ちやスパーリングをやっている。

「いつも半ズボンをはいていますね」と言われるけど、これは十数年前、ファッションデザイナーのトム・ブラウンと出会ったのがきっかけ。

彼のコレクションでブレザーとバミューダショーツのコーディネートを見たとき、「銀座で“みゆき族”と呼ばれていた時代の格好と同じだな」と思った。子供のふりをした大人、スクールボーイ・コンセプトだよ。

一方で“クール・ビズ”なんて言って政治家のノータイ・ワイシャツ姿が増えた頃からは、常にネクタイは締めるようにした。体制の連中と同じ格好なのは趣味じゃないんだよ。

鈴木正文
文/河西啓介、写真/阿部昌也
※情報誌カーセンサー 2022年9月号(2022年7月20日発売)の記事「スペシャリストのTea Time」をWEB用に再構成して掲載しています
河西啓介

インタビュアー

河西啓介

1967年生まれ。自動車やバイク雑誌の編集長を務めたのち、現在も編集/ライターとして多くの媒体に携わっている。また、「モーターライフスタイリスト」としてラジオやテレビ、イベントなどで活躍。アラフィフの男たちが「武道館ライブを目指す」という目標を掲げ結成されたバンド「ROAD to BUDOKAN」のボーカルを担当。