▲ハッキング(クラッキング)といえばパソコンを連想するのは昔の話。今ではネットワークカメラや医療機器、車、果てにはコーヒーメーカーまでハッキングされた事例があるのだとか ▲ハッキング(クラッキング)といえばパソコンを連想するのは昔の話。今ではネットワークカメラや医療機器、車、果てにはコーヒーメーカーまでハッキングされた事例があるのだとか

モノのインターネット「IOT」の普及で車が危ない!

リコールと言えば、電気系統や動力系統のトラブルが一般的だが、先日クライスラーから少し毛色の変わった発表があった。それは「ハッキング対策」のためのリコール。なんと、ハッカーが無線を通して車の操縦を乗っ取るといった事態を防ぐために、ソフトウエアを更新するのだという。

もちろん、これはクライスラーだけの事例にとどまらず、専用回線で通信するシステムを持つ多くの自動車メーカーに共通すること。様々な機器にセンサーを取り付けて、ネット回線を通じてリアルタイムで状況を把握する「IOT(Internet of things)」は“モノのインターネット”と呼ばれ、自動車ではその概念が他の分野よりも先行しているので、ハッキングのリスクが高い。さらに、BMW i3のように、スマホと車の連携が進めば、そこにもリスクが発生するだろう。

▲対象となったのはジープ グランドチェロキーやクライスラー 300など、専用回線「Uコネクト」に対応しており、8.4インチスクリーンを搭載している車種。写真はクライスラー 300 ▲対象となったのはジープ グランドチェロキーやクライスラー 300など、専用回線「Uコネクト」に対応しており、8.4インチスクリーンを搭載している車種。写真はクライスラー 300

自動運転中の車がハッキングされたら命に関わる事態にも

特に危惧されているのは、今後進化するであろう自動運転だ。GPSやカメラ、センサーで自車位置と外部環境を把握してコンピューターが判断、ECU(電子制御ユニット。ハンドル、アクセル、エアバッグなど様々な電子機器を制御する装置で複数搭載されている)に指令を出して走行をつかさどるのだが、コンピューターが演算やデータ参照の際に外部サーバーと通信することが考えられる。この通信をハッキングされたら、自動運転ができずに暴走したり、外部から運転を乗っ取られてしまう可能性が高い。まさに、命に関わる事態である。

すでにアメリカでは、著名ハッカーがクライスラー車をハッキングする実験を行っており、遠隔操舵でエンジンを切ったり、ハンドルを動かしたり、加減速させたりすることに成功している。前述のリコールは、この事態を受けての対策でもあった。

▲写真はGoogleの自動運転カー。カメラやセンサーから集めた情報をもとにコンピューターが状況を分析しながら走る ▲写真はGoogleの自動運転カー。カメラやセンサーから集めた情報をもとにコンピューターが状況を分析しながら走る

自動車メーカーや部品メーカーの対策はどうなってるの?

もちろん、そのような事態に陥らないように対策も進められている。トヨタIT開発センターと富士通が開発中の技術は、車に搭載された各ECU間と、ECUと外部のデータセンター間でやり取りする情報を暗号化してセキュリティーを強化している。また、パナソニックは走行を制御するECUがハッキングされないように、不審な動きを1秒以内で検知する技術を確立。2017年以降の実用化を目指しているという。

各メーカー個別の対策だけでなく、ECUのソフトウエア基盤や車内LANインターフェース規格の標準化を推進する「JASPAR」は、各社共通のルールを作成し、セキュリティー対策技術の標準化を進めている。

他にもMcAfeeなどのウイルス対策ソフト会社も、自動車向けのソフト開発に乗りだしているとのこと。ECUのハッキングは自動車にとっての新たなリスクだが、PCやスマホでウイルス対策が進化したように、車でも進化すると信じたい。

text/笹林司