▲「魂動」デザインとは「生命力あふれる動きの表現」。ボディに映りこんだ景色が、まるで生き物のように移り変わっていく。ハガキ1枚、0.2mmの差の作り込みで印象は大きく変化するという ▲「魂動」デザインとは「生命力あふれる動きの表現」。ボディに映りこんだ景色が、まるで生き物のように移り変わっていく。ハガキ1枚、0.2mmの差の作り込みで印象は大きく変化するという

シャシーレイアウトよりプロポーションが先

ぴえいる(以下、ぴ)  Aくん、マツダ ロードスターのデザインについてインタビューに行くんだって? 正直、ロードスターより大好きな石原さとみちゃんの美しさの方が気になるんだけど、仕方がないから、私も一緒に行ってあげてもいいよ
編集部員A(以下、A) あ、大丈夫ですよ、ボク1人で(キッパリ)
 まぁ、石原さとみちゃんに美しさの秘密を聞いても「特に何もしてません」って言われるのがオチだからさ。今日は、石原さとみちゃんでも長澤まさみちゃんでもなく、マツダのおじさんの話でも聞いてあげるとするよ
A 本当は聞きたいんでしょ? ロードスターの話
 私、もう48歳だからね。いつまでも20代のお尻を追いかけて、さとみちゃん、まさみちゃんとか言ってる歳じゃないんじゃないかなって。ほら、私って先の読める男だから(ドヤ)
A よく48年も無事に生きて来られましたね……

というわけで、2人はマツダでデザイン本部長を務める前田育男氏のもとを訪れた。同社のデザインテーマである「魂動」をけん引する人物だ。CX-5、アテンザ、アクセラ、デミオに次いで、2015年に発売されるロードスターにも「魂動デザイン」が息づいているのだが、果たしてロードスターはどのようにデザインされたのか聞いてみた。

▲「クレイモデルを作っている時は、あと0.2㎜くらいラインを上げようとか、無茶ばかり言ってました」とマツダ デザイン本部長 前田育男氏 ▲「クレイモデルを作っている時は、あと0.2㎜くらいラインを上げようとか、無茶ばかり言ってました」とマツダ デザイン本部長 前田育男氏

A 歴代のロードスターのデザインとは、どんなところが違いますか?
前田 スポーツカーはシャシーやパッケージなどエンジニアリング面が重要です。しかし、新しいロードスター(ND)は、まずプロポーションを描くことから始めました
 え? シャシーやパッケージのレイアウトが先で、それからデザインをかぶせる感じじゃないんですか?
前田 そうやってしまうと、みな似た車になってしまうんですよ
A 考えてみれば理想のパッケージとか重量配分って、車の大きさが同じなら大差は無いはずですものね
前田 だからと言って、シャシーなどを無視してデザインをするわけではないんです。特に走りの性能を損なうようなプロポーション造りは、マツダは絶対にやりません。まず我々がエンジニアにプロポーションを見せて、彼らと一緒に作っていくという作業を重ねました。彼らにも譲れない部分がありますからね
 エンジンの位置が1cm動くだけで、重量配分がかなり変わりますものね
前田 エンジニアは「デザインがそう来るなら、知恵を使わないとなぁ」とか何とか言いながらやっていました。一方で、エンジニアが頑として譲らない部分もあるので、それに対しては我々デザイナーが汗をかくという感じでしたね。安全基準などをクリアしたうえで、自由で自然に見えるデザインを生み出すんです。それこそコンマ数ミリの世界で
 コンマ数ミリ!?
前田 えぇ、クレイモデルを作る時なんかは面白いですよ。20mくらい離れたところから車全体を見て、そこから指示するんです。もう0.2mm削ってみよう……とか、0.5mmはやり過ぎちゃったな……とかって
 0.2mmって、ハガキ1枚分とかですよ? 失礼ですが、マツダの開発陣はみんなドMなのですねwww
前田 そうかもしれませんwww 私も追い込まれるほど燃える性格なので! ただ、このハガキ1枚の厚さが大きく印象を変えるんですよ! だからこそこだわるんです。針の穴に糸を通すより繊細に
A でも、そうやって創意工夫することで、よりよいエンジニアリングとデザインができるというわけですね
前田 追い込まれたところからブレークスルーが生まれる。ブレークスルー=新しい技術なりデザインですから
A 置きやすい位置にエンジンを置いて、という具合に始めていったら、斬新なプロポーションも革新的な技術も生まれないですものね
前田 見た目だけでなく、ステアリングの握りやシフトノブのタッチなど、操作系については試作車で走り込んでデザインしました
 え? 走りながらデザインしたってことですか?
前田 開発陣はボクも含めて、相当の走り屋ですから(笑)。ちなみに9月6日に行われたメディア対抗ロードスター4時間耐久レースには開発担当主査の山本たちと一緒に出場したのですが、私はその際の予選アタッカーです
A 筑波サーキットで1分10秒台! プロ並み(笑)
前田 悩んだらとにかく走ってみました。特にスポーツカーのインテリアは、あまりスタイリングコンシャスじゃなく、運転に集中できる空間にしたかったんです。アクセルやブレーキの位置、ハンドルの位置、目線……。納得できるまで何度も走り込みました。ロードスターを作ったヤツらはスポーツカーを知ってる連中なんだなとわかってもらえるような空間にしたかったんです
 マツダの開発陣がいかに車が好きなのか、そして……ドMなのかがよくわかりました(笑)。ありがとうございました!

▲歴代で最も全長が短くなったが、狙ってやったわけではなく、ムダな部分をそぎ落としていった結果だそう ▲歴代で最も全長が短くなったが、狙ってやったわけではなく、ムダな部分をそぎ落としていった結果だそう
▲ドアトリム上部をボディと同色にし、外側の景色と車内の景色を区切らないオープンカーだからこそのデザインを心がけたという ▲ドアトリム上部をボディと同色にし、外側の景色と車内の景色を区切らないオープンカーだからこそのデザインを心がけたという

A ロードスターがなぜ美しいかは、開発者みんなが車好きだったことに起因していそうですね
 う~ん、もし石原さとみちゃんもM…
A あ、その話、もういいです。それよりせっかく素敵な話を聞いてきたんだから早く原稿書いてくださいね!
 うぅ……

text/ぴえいる