【海外試乗】新型 フェラーリ 12チリンドリ スパイダー|ふりそそぐV12サウンドの中、上質で快感なドライブフィールが堪能できるスーパーオープンカー!
カテゴリー: フェラーリの試乗レポート
タグ: フェラーリ / オープンカー / FR / 12チリンドリ スパイダー / EDGEが効いている / 西川淳
2025/03/24

V12を積んだ“最もフェラーリらしい”ロードカーのオープン版
12(ドーディチ)チリンドリはブランドの核心をなすロードカーだ。2024年5月にクーペとスパイダーを同時に発表。クーペはそろそろ日本へのデリバリーも始まるが、遅れてスパイダーの生産も立ち上がった。
スパイダーにはクーペと同様に、812コンペティツィオーネ用のF140HB型に改良を加えたF140HD型のV12エンジンがフロントミッドに積まれている。このことが最も重要だ。なぜならそれがフェラーリの伝統というものだから。
完全フロントミッドを実現するために8速DCTはリアアクスルに置く(=トランスアクスル)。エンジンのスペックもクーペと変わらず。Vバンク角65度に排気量6.5L、最高出力830psという数値こそHB型からそのまま受け継いだが、最高許容回転数を9250rpmから9500rpmまで引き上げたことがHD型のポイント。排気ガス規制に対応すべく最大トルクを678N・mと少し落としたが、低回転域におけるトルク特性を見直したうえ、アスピレーテッド・トルク・シェイピング(ATS)という秘密兵器を採用したことで、落としたトルク数値などまるで気にならなかったことはすでにクーペの試乗で確認済み。
リアセクション全体のデザインを含むルーフオープン機構や各所の補強(Bピラーとロールバーの間にアルミニウムの連結材を挿入など)といったスパイダー的な変更点以外に、マラネッロの開発陣が手をつけた部分は、シャシーセッティングを含め、ほとんどなかった。裏を返せば、それだけ手慣れていたということ。すでにこのプラットフォーム世代となって3モデル目(F12→812→12チリンドリ)で、クーペとスパイダーのセットも812で経験済み。2021年に始まった12チリンドリの開発においては、その当初から反映できた知見が大いにあったことだろう。
ちなみに、重量増を抑えることは今回も最重要課題だった。クーペからは+60kg、先代に当たる812GTSからは+35kgというリーズナブルな体重増に収めている。


精緻なV12は滑らかすぎるほどのスムーズさ
2月。テストの日は幸運にも朝から快晴で、やや肌寒かったとはいえ、オープンエアモータリングを楽しむには絶好の日和だった。しかも、ところはポルトガルのオーシャンリゾート。これから海岸沿いをドライブする。エンジンをかけ、ためらうことなくルーフを開けた。
青空をすっかり手に入れるまでおよそ14秒。ちなみに、走行中でも時速45km/h以下であれば開閉操作できる。クーペではどこか離れたところでさりげなく唸っているように聞こえたV12エンジンのサウンドも、ルーフを開けることではっきりと耳に届くような気がした。

オープンにしても記憶にあるクーペの剛性感と変わらぬドライブフィールを得た。舗装は少々荒れ気味だったけれど、それでも強いボディに支えられたアシは自分の仕事をしっかりとやり遂げる。無粋な揺れやきしみでドライバーを不安にさせることもない。
乗り心地そのものはクーペと同等か、もしくは少し良いようにも感じた。とはいえ、“オープンにすると肩の力が抜けて良い”というようなレベルではない。あくまでも足元がしなやかに動くゆえの“良い”で、そういう意味ではクーペと変わらないと思った方がいい。
心地よいV12サウンドが空からふりそそぐ。ワインディングロードに差し掛かったので、速度を落としてルーフを閉じた。そしてリアの垂直ウインドウだけを開けるカリフォルニアモードに。こうすればV12の素晴らしいサウンドだけを室内に招き入れることができる。V12と8DCTによる加速フィールは相変わらず素晴らしいものだ。エンジンも9000回転以上まで一気に駆け上がる。決して苦しむことなく、ほとんど振動も見せずに精緻に回っている。そのスムーズさには驚嘆する他ない。あまりに滑らかすぎて、まるで電気モーターのよう。
ショートホイールベース化と後輪操舵の影響は大きく、制御を信じてコーナリングすれば、タイトベントでも見事に、そして驚くほど速く駆け抜けることができる。そのうえ制動フィールもまた素晴らしい。よく利くし、そもそも減速をコントロールする自体が気持ち良い。ブレーキングが楽しくなれば、アクセラレーションはさらに楽しいもの。
ブランドの核心を担う、つまりスポーツカーとグランドツーリングカーのど真ん中を狙うモデルゆえ、そのドライブフィールは全域にわたり上質で快感であった。





自動車評論家
西川淳
大学で機械工学を学んだ後、リクルートに入社。カーセンサー関東版副編集長を経てフリーランスへ。現在は京都を本拠に、車趣味を追求し続ける自動車評論家。カーセンサーEDGEにも多くの寄稿がある。
先代モデルとなるフェラーリ 812GTSの中古車市場は?

2019年に登場した、フラッグシップとなるV12を搭載した2シーターFR「812」のオープンモデル。リトラクタブルハードルーフを採用する。限定モデルを除くと、1969年に登場した365GTS4以来のV12をフロントに搭載するオープンモデルであった。
2025年3月中旬時点で、中古車市場には40台程度が流通。支払総額の価格帯は6000万~7800万円となる。