三菱 ジープで西へ東へ、その距離10年で20万km! オフローダーを走らせ感じた「古い4WDの楽しさ」とは?
2025/02/07

【連載:どんなクルマと、どんな時間を。】
車の数だけ存在する「車を囲むオーナーのドラマ」を紹介するインタビュー連載。あなたは、どんなクルマと、どんな時間を?
全身で風を感じられるオフローダー
晩秋の山梨県河口湖で出合った三菱 ジープ。ウラルベージュの専用ボディカラーが施された最終生産記念車だった。オーナーの塩澤 海さんは現在28歳。18歳で運転免許を取得し、すぐにこのジープを購入。以来10年間、日常生活の足車として乗り続けているそうだ。購入時の走行距離は1.6万kmだったが、現在は21万kmまで走行距離が延びた。
「これしか車を持っていなかったから自然に距離が延びちゃって」と塩澤さんは笑うが、1950年代に設計された快適性とは無縁のモデル。端から見るとかなり大変そうだが……。

「でも、最近軽トラを手に入れたので、楽に移動したいときはそっちに乗っています」
軽トラとサラッと言うが、聞けば40年くらい前の三菱 ミニキャブトラックだという。「普通の車がないじゃん!」という編集部のツッコミを「いやいや、どっちも普通ですよ。大したことないです」とかわすのが頼もしい。
「三菱 ジープを知ったきっかけは思い出せないですが、中学生の頃から何となく免許を取ったらジープに乗りたいと思っていたんですよね。好きな理由はオープンにして走れること。屋根がないだけじゃなくてフロントウインドウも倒せるし、ドアもないから気持ちよさそうだなと思ったんです」

塩澤さんは子供の頃からアウトドアが好きで、ボーイスカウトにも参加していた。でもキャンプ以上に好きだったのは自転車。ペダルを思い切りこぐと全身に感じる風がとても気持ちよく、学校が終わるとすぐ自転車に乗ってあちこちを走り回っていたという。フロントウインドウも倒せるジープを選んだのは必然だったのかもしれない。
中古車の流通台数が決して多くはないジープだけに条件に合う中古車を探すのは苦労したのではないかと思ったが、10年前だとまだ台数がそこそこ残っていたので、見つけること自体はそこまで大変ではなかったそうだ。ただ、車の状態がピンキリで、それによって価格もかなり違う。免許を取り立てで車の機構にもそこまで詳しくなかったので、まずはフルノーマルで残っているものの中から価格などの条件が合うものを選ぶことにした。
「今はオフロードを走る楽しさを知ってしまったのでだいぶ使い込んじゃっていますが、当時はものすごくきれいだったんですよ。最初から理想の1台に出合ってしまった感じでした」

三菱ジープは移動が手段ではなく目的になる
18歳で憧れのジープを手に入れた塩澤さん。男友達はジープを運転する塩澤さんを見てバカウケ! 最高にカッコいいと大好評だった。逆に女子受けは最悪……。仲間と大勢で出かけても助手席に座ってくれる子はいなかったそうだ。
今の世の中はSUVブーム。新車販売台数の3割以上がSUVといわれている。どれも乗り心地がよくてスムーズに走る。もちろん故障することもめったにないだろう。
「実は僕、整備士をしているのですが、新しい車が入庫してくることも多いですよ。どれだけ進化しても車は機械。絶対に壊れないということはありません。そう考えるとジープは構造がシンプルだからどこが調子悪くなっているかがわかりやすいし、エンジンルームが広くて余裕があるから作業もしやすい。逆に便利で扱いやすい、よくできた車だと思います」

確かに今の車は様々な電子制御が組み込まれていて、不具合が出てもテスターにかけなければどこが調子悪いかすらわからないことも多い。一方で、ジープは10年間で大きなトラブルはほとんどないし、音や排ガスの色や運転したときの感触などから、不具合箇所がすぐにわかる。車と向き合い、対話を続けることで、いつまでも乗り続けることができるのが古い車の魅力だ。
「乗っていて大変でしょうと言われることは多いですが、本当にそう思ったことがないんですよ。先週も北海道まで一人旅をしてきましたし、鹿児島にも2回行きました。でも、疲れてヘトヘトになることもないし、どこまでも走っていける気がします。逆に僕にとっては新しい車の方が疲れますね。ジープと同じ感覚でハンドルを切ると思い切り曲がってしまうし、ブレーキも同じ感覚で踏むと急ブレーキになっちゃうから気をつかいます(笑)。ジープは見切りもいいのでとにかく運転が楽なんです」

10年間所有し、文字どおり日本全国を一緒に旅したジープ。もちろん手放すつもりなどなく、今後もずっとジープライフを楽しんでいくつもりだ。塩澤さんはこの楽しさを多くの人に知ってもらいたいという。
「もし人から『いい車ない?』と聞かれたら、迷わずジープを勧めます。10年間乗って感じるのは、ジープは移動自体を楽しめることです。目的地があって車という手段を使って移動するのではなく、ジープで走ること自体が目的になるんですよ」
鹿児島までのドライブは高速道路を使わずに下道を走り続けたという。走って楽しい車と言われたらまずスポーツカーが頭に浮かぶが、最新のハイスペックなモデルだとサーキットなどに行かないと性能をフルに使うことは難しい。でも、ジープは一般道を法定速度で走っているだけで、日常をアドベンチャーに変えてくれる。この感覚を味わえるのが古いSUVの魅力だと塩澤さんは話す。

そして旅に出ると、行く先々で多くの人から声をかけられる。「俺も若い頃に乗っていたんだよ」というおじさんから話しかけられることも多い。関西に住んでいた頃はジープでオフロードを楽しむおじさんと知り合い、一緒に走るようになった。SNSを通して地方にいる同世代のジープ乗りともつながることができたそうだ。
“快適さ”では新しい車に叶うわけがないが、“楽しさ”という面では無限の可能性を塩澤さんに教えてくれる三菱 ジープ。これからもジープを通じて新たな楽しさをもたらしてくれるはずだ。

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三菱 ジープ(初代)×全国
塩澤 海さんのマイカーレビュー
三菱 ジープ(初代)
●年間走行距離/2万km
●マイカーの好きなところ/運転していて楽しいところ
●マイカーの愛すべきダメなところ/快適装備がゼロ
●どんな人にオススメしたい?/移動自体を楽しみたい人

自動車ライター
高橋満(BRIDGE MAN)
求人誌編集部、カーセンサー編集部を経てエディター/ライターとして1999年に独立。独立後は自動車の他、音楽、アウトドアなどをテーマに執筆。得意としているのは人物インタビュー。著名人から一般の方まで、心の中に深く潜り込んでその人自身も気づいていなかった本音を引き出すことを心がけている。愛車はフィアット500C by DIESELとスズキ ジムニー