エムズワークス ▲黒いガルバリウムのサイディングに、白い庇がアクセント。写真左手の道路が緩やかに上る傾斜地にあるが、このわずかな傾斜が、半地下のガレージを作るのに好都合だったと建築家の松永さん

気づくとガレージに長居する、家の中で一番好きな“部屋”

「もしガレージを作れないなら家は建てていなかった」と施主のMさんはいう。今でも父親が20年ほど前に建てた家に住み続けていた、と。

横浜市の丘の上の住宅街。敷地は約30坪。周囲の家々も同じようなサイズで、車があっても小さなカーポートを設けるのがほとんどなのでガレージは難しいと思っていた。

「カーポートだったら、家を建てようとは思わなかったです」とMさん。

欲しかったのは車を止めるスペースではなく、高校生の頃から憧れていたガレージハウス。ある日、たまたま知人が建築家の松永さんを紹介してくれて、とりあえず自宅を見てもらうことになった。

松永さんは、傾斜地を生かせば半地下のガレージが作れると気づき、あっという間に頭の中に家の構想が浮かんだ。

ガレージの上に重ねるリビングダイニングは、玄関よりも少し高い位置に。この各階の段差を少しずつずらしたスキップフロアがいい。空間を仕切るのは扉や壁ではなく、フロアの段差。それなら土地の面積以上に開放感のある広い空間も作れるし、吹き抜けのリビングダイニングに大きな梁や耐力壁を使えば、柱のないリビングができる。

「ここならガレージを作れますよ」と松永さん。

それを聞いたMさんが「だったらこんなガレージがいい」「インテリアは……」。こんなふうに2人のキャッチボールが始まった。
 

エムズワークス ▲玄関フロアからガレージへ下りる階段は、無垢材が使われている。今でもここを下りるときは、自然とワクワクすると施主のMさんは言う
エムズワークス ▲ガレージのあるフロアは完全な地下ではなく、半地下構造となっている。そのため換気しやすく、湿気がこもりにくいというメリットがある
エムズワークス ▲玄関の炭モルタルの色、玄関ホールのタイル、階段部分の無垢材、壁の色など施主と相談しながら色を変えつつも統一感を出している
エムズワークス ▲玄関の反対側にも大きな庇が設けられているが、実は庇も建物を支える役割を担っている。その分、室内に構造体を張り出さずにすんでいる

ガレージと居住空間が繋がる、居心地のよい空間。

2人でショールームまで出掛けて壁材を選ぶなど、インテリアにはこだわった。だからリビングはMさんのお気に入りの場所。

だが「ガレージにいる時間が一番好き」という。

ガレージハウスを好きになったきっかけというものはなく、気づいたらガレージハウスの雑誌をよく手にするようになっていたそうだ。

「雑誌や映画など、当時のカルチャーの影響でしょうね」

多感な中高生時代は90年代。いわゆるアメカジブームで、街にはヒップホップやR&Bといった音楽が流れ、スケボーやBMXが人気だった。こうしたアメリカンカルチャーにガレージは付きもの。そんなアメリカのガレージライフが、恐らく自然と様々な映像や写真に映り込んでいたのだろう。

「ガレージで何かをしたいわけでなく、そこにいることが好きなんです」

ふとタバコを吸いに行くこともあれば、晴れた日には車を表に出して洗車したくなることもある。ガレージ内のシンクを起点に庭に水を撒いたり、草むしりをするガレージライフ。

大学生の頃、欲しかったけれどつい買いそびれてしまった車があるそうだ。サニーのトラック、いわゆるサニトラだ。

「当時は安かったし、いつでも買えると思っていたら……」

旧車ブームのあおりで価格が高騰。今ではちょっと手を出しづらいという。しかしMさんのガレージライフには、確かにピッタリな1台だ。
 

エムズワークス ▲ガレージの目の前は公園の緑が広がる。公園より少し高い位置にあるので、ガレージでくつろいでいても、通りすがりの人に覗かれるようなことはない
エムズワークス ▲写真左の階段は書斎へ、写真中央の階段は寝室へと続く。テレビ裏の壁は、スライスされた本物の木が貼られた壁材を選んだ
エムズワークス ▲お気に入りのソファが置かれたリビング。幅450mm以上という大きな梁が上下に2本走ることで、柱のない広い空間を支えている
エムズワークス ▲玄関を境に左右でフロアの高さが異なるのを生かし、庇に段差を作り、玄関回りの無垢材のドアと壁とともに外観のアクセントにしている

■所在地:神奈川県横浜市
■主要用途:専用住宅
■構造:木造(ガレージはRC造)
■敷地面積:100.26 ㎡
■建築面積:44.71 ㎡
■延床面積:98.16 ㎡
■設計・監理:松永 基(エムズワークス)
■TEL:045-680-5339

※カーセンサーEDGE 2020年12月号(2020年10月27日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています
 

文/籠島康弘、写真/茂呂幸正