住人の手によって進化を続ける天然木のぬくもりがある家

いつまでも居たくなるような居心地のいい空間。クラシックミニとドゥカティが収められたi邸のガレージは、車と模型作りが堪能できるホビールームとなっている。

竣工=完成ではないi邸はまだまだ発展中

ガレージ内に一歩足を踏み入れると、外観からの第一印象が間違いではなかったことを確信した。インテリアは木の素材を剥き出しにしたログハウス風。天然木の素材がもたらす視覚的な柔らかさ、触感、香りなどは、人に安らぎを与えてくれる。これを小埜さんは〝生成りの家〟と表現していたが、iさんも「木の柔らかさが、季節を問わず素足での過ごしやすさをもたらしてくれます」と絶賛だ。

その居心地のいいガレージには、iさんの趣味スペースが設けられている。愛車ミニの奥は、模型作りと作品を展示する場所が確保されているのだが、ひと目見て「ここがいちばん居心地がよさそうだな」と思わせる素敵な空間だ。

ガレージの隣は、i夫人の夢が詰まった場所。現在は内装工事中だが、将来はケーキショップにするか喫茶店にするかは未定。壁や天井の塗装は、ご夫妻で時間をみつけてコツコツと仕上げているというから、まさに幸せの結晶といえる空間だ。手作業とはいえ、そこは自動車メーカーのデザイン部門に勤務するiさん。玄人はだしどころか、じつに精度の高い作業で着実に自邸を完成に近づけている。

「自分たちで手を加えることで、理想の家に仕上げていく喜びを味わっています」

そう語るiさん。たとえばガレージの配管はコストを抑えるために、剥き出しの塩ビ製パイプが天井を這っていたが、iさんがアルミパイプ風にテーピング処理を施すことで本物感を演出するなどカスタマイズを楽しんでいる。

「訪れるたびにどこかしらアレンジが加わっていますが、そんな変化を私はとても楽しみにしています。iさんのこだわりを表現するための工夫は、建築家として刺激されることもあります。私は、i夫妻の夢を実現するためのベース作りをした、という感じですね」と小埜さんもまんざらでもないご様子だ。

i夫妻や小埜さんからお話を伺い、実際に邸内を拝見していると、ここは"進化し続ける家"であるという印象をもった。建築家や施工者がキッチリと完成させるのではなく、あえて手を入れる要素を残すことで(小埜さんはそれを、曖昧さと表現されていた)住む人のこだわりや夢を実現できる。そのための手法として、木の素材を生かした建築はベストだったと思える。

ただし、このような作り方は、施主と建築家の間に十分な信頼関係が構築されていなければ実現は難しい。目指す姿をお互いが正確に把握していないと、必ずどこかに綻びが生じる。今回訪れた住宅は、両者の思いがピタリ一致した結果である。ちなみに小埜さんはiさんに影響され大型バイクを購入。今ではお互いの夫人を伴って、2台のタンデムでツーリングを楽しむという間柄までに発展しているという。

文・菊谷 聡 text / KIKUTANI Satoshi
写真・木村 博道 photos / KIMURA Hiromichi
構成・石井 隆 editorial / ISHII Takashi

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2階建てだがリビングの上にはロフトとは思えない広いスペースが確保されている。天井の低い、隠れ家のような空間は、不思議と落ち着ける場所となっている

木の優しい素材感とふんだんに光が注ぎ込むリビングスペースにいると、ゆっくりとした時間が流れる。ソファーに座れば、窓越しに隣接した公園が望める

生成りのビルトインガレージハウスⅠ
建築家:小埜勝久

アトリエラビリンス建築環境設計
tel.048-432-9987
http://www13.big.or.jp/~a-lab/

所在地:埼玉県坂戸市
主要用途:専用住宅
家族構成:夫婦、子供2人
構造:木造 規模:2階建
敷地面積:140㎡ 延床面積:108㎡
設計・監理:アトリエラビリンス建築環境設計/小埜勝久