プロボックス▲トヨタ プロボックスを実際に購入し、ロングドライブに適した「GT仕様」へとカスタムする体験記。プレーンな商用車だからこそ「いじりがい」があるのかもしれません。

熊本から東京まで、初にして超がつくロングドライブ

長年フォルクスワーゲン ゴルフ2を愛用してきた筆者は、コロナ禍にあって「いつでも、どこまでも気がねなく」車移動するため、ついに30年選手だったゴルフ2の乗り替えを決意。さまざまな条件を課して理想の車を探していった結果、トヨタ プロボックスの購入に至った。後編ではいよいよカスタムを施していく。


実車の確認もせずに、はるか九州は熊本にあった2008年式のトヨタ プロボックスを購入したこと自体が冒険ではあったけど、その冒険はさらに続く……。

購入を決め車両代金を支払った昨年8月、飛行機で熊本まで行ってプロボックスを受け取り、そのまま熊本から東京まで、約1250㎞の道のりを自走で帰京することにしたのだ。

初めて対面した、わがプロボックスは、というと……

じつは、オーナーさんが「自分で走らせるために整備してある」とおっしゃっていたこのプロボックスは、正確には「サーキットを自分で走らせるために整備されていた」のだった。

車高調でローダウンされ、タイヤは極太のスポーツタイプ、エンジンルームにはタワーバーが輝き、茶筒のようなマフラーに、シートは真っ赤なフルバケット…… つまり、ガチガチのサーキット仕様だったのである。
 

プロボックス▲プロボックスはサーキット仕様のカスタムも根強い人気がある

僕としても、ニューノーマルの時代にノーマルのままの車に乗るつもりはなく、いずれにせよタイヤやシートは替えようと考えていたので、そうしたカスタマイズも、ある意味望むところではあった。

ただ、こちらの目的は「サーキットをとことん」ではなく「どこまでも気がねなく」走ることなわけで、さて、この状態からどう自分仕様にカスタマイズしていくか。それを見極めるためにも、熊本から東京までの初にして超がつくロングドライブはいい機会と考えた。

プロボックス

ちなみにプロボックスの荷室は、リアシートをたためば奥行きが1800mm以上もある。つまり車中泊もできてしまうのだ。ガソリンは満タンで50L入り、燃費は高速道路なら15km/L以上走るから航続距離は800km近くにもなる。

荷物をたくさん積んで、できるだけ経済的に長く走り続けることを前提に作られたプロボックスは、じつはロングドライブにも向いている。むろん商用車は商用車なので、乗り心地や静粛性といった改善点はあるにせよ、だ。
 

プロボックス

世界に1台だけのGT仕様にカスタマイズ

熊本から東京までの、サーキット仕様のプロボックスによる1250㎞のロングドライブは、当然ではあるが快適とは言い難かった。

だけど、荷室の広さや航続距離の長さ、商用車ならではの見切りの良さによる運転のしやすさ、MTによる運転の楽しさなど、わがプロボックスが新たな相棒としてふさわしい素養を備えていることは確認できた。

ゴルフ2にも通じる、無意味な装飾を排した内外装のシンプルなデザインも気に入った。なによりも働く車としての潔さがいい。

僕はこのダークブルーのプロボックスを、流行りのアウトドア仕様や走り屋仕様ではなく、世界に1台だけのGT(グランドツーリスモ)仕様に仕上げようと決めた。
 

プロボックス

カスタマイズのテーマは、日常使いからロングドライブまで心地よく楽しく走れること。もちろん、見た目のかっこよさも抜かりなく。プロボックスGT化計画のスタートである。

まずは乗り心地を改善するために、タイヤをYOKOHAMAの「ADVAN dB」に交換。もともと履いていたのがハードなスポーツタイヤだったこともあって、静粛性と快適性が劇的に向上した。商用車にプレミアムタイヤ? とショップでは驚かれたけど、ここは奮発して正解だった。
 

プロボックス

次いでシートを、フルバケットからRECAROのセミバケットタイプ(中古)に交換。腰がしっくりと収まって、その後のロングドライブが楽になった。タイヤとシートの交換は、特に商用車の場合、乗り心地という点ではいちばん手っ取り早く、最も効果がわかりやすいように思う。

タイヤの交換と併せて、ハードに締め上げられていた車高調の減衰力を調整。タイヤとシートの交換、サスペンションの調整によって、サーキット仕様だったプロボックスの乗り味は、ずいぶんまろやかで快適になった。

さらに、ステアリングを握りのいい大径のNARDIに、ヘッドライトをLEDに交換するなど、細やかなカスタマイズを施しながら、プロボックスのGT化を進めた。
 

プロボックス

結果として快適になっただけでなく、今のところは同じような仕様のプロボックスとすれ違ったことがないので、どうやら最初に掲げた条件⑤(自分の価値観やオリジナリティを表現できる車であること)もクリアできたようだ。他の車とかぶらないオリジナリティこそが、じつはなによりも満足度の高いポイントだったりする。

もちろん、これで完成というわけではなく、今後は走りに関わるチューンナップなど「プロボックスGT化計画」をさらに進めていくつもりでいる。まだまだ、お楽しみは続くのだ。
 

プロボックス▲ホイールとマフラーは前オーナーのカスタムを引き継ぐことにした

車がはたす役割はますます大きくなっていく

プロボックスのGT化に伴って、これまで飛行機を使っていた熊本への帰省を車での自走に切り替えた。すでに8月の片道を併せて、東京~熊本間を3.5往復。満タンでの航続距離が長く、車中泊もできるので、超のつくロングドライブものんびりと気ままに楽しむことができている。

また、もともと商用車だけあって、ノートPCが置けるミニテーブルやA4バインダーが納められるトレイなど車内のユーティリティが実用的なのもうれしい(ペン立てまである!)。プロボックスは、コロナ禍にあって便利な“モビリティオフィス”としても機能する。
 

プロボックス

荷室には寝袋を常備し、旅の途中の「寝床」として、日々の「仕事場」として、まさに“寝職”をともにしながら、わがプロボックスGTの走行距離は購入後4ヵ月で、すでに1万kmを超えた。

4ヵ月で1万km超えと言うと多くの人は驚くが、もしかしたらこれが車本来の使い方なのではないか、とも思う。車は走って楽しんでなんぼ、なのだ。
 

プロボックス

もちろん、車の楽しみ方は人それぞれ。僕の場合は、それをグラントツーリングに求めたが、車高を上げてオフロードを楽しむもよし、この車の前オーナーのようにサーキットを攻めるのも楽しいだろう。

どんな楽しみ方をするにしても、商用車ならではのシンプルさとタフネスさを兼ね備えたプロボックスなら、自分のアイデア次第でどのようにもカスタマイズしていけるのではないかと思う。

これからの暮らしの中で、あるいは人生において、車がはたす役割はますます大きくなっていくに違いない。だからこそ、大切な相棒選びにはこだわりたいし、なによりも車との関係性を楽しみたい。

いつでも、どこまでも。僕にとってのGo Toとは、つまりGTなのだ。

注意すべきは、渋滞という車の密かな。
 

プロボックス▲往年のトヨタロゴやクラウン「オーナーデラックス」のバッジもちょい足し。雰囲気づくりに一役買っている

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トヨタ プロボックス/サクシード(現行型・5ナンバー)×全国
文/夢野忠則 写真/阿部昌也、柳田由人、カーセンサー
 
夢野忠則

ライター

夢野忠則

自他ともに認める車馬鹿であり、「座右の銘は、夢のタダ乗り」と語る謎のエッセイスト兼自動車ロマン文筆家。 現在の愛車は2008年式トヨタ プロボックスのGT仕様と、数台の国産ヴィンテージバイク(自転車)。