▲自動車ライター伊達軍曹が、話題の新型車でもメーカーが保存しているバリもののレア車でもなく、個人的に気になった売り物の中古車にひたすら乗りに行き、素直な感想をシェアする企画。今回はマツダアンフィニ横浜西 三ツ沢店で出会ったNCロードスターRHTに試乗した▲自動車ライター伊達軍曹が、話題の新型車でもメーカーが保存しているバリもののレア車でもなく、個人的に気になった売り物の中古車にひたすら乗りに行き、素直な感想をシェアする企画。今回はマツダアンフィニ横浜西 三ツ沢店で出会ったNCロードスターRHTに試乗した

3代目ロードスターのRHTは「デブな若旦那仕様」なのか?

広報用の貸し出し車両があるニューモデルと違い、中古車の試乗記というのは読む機会が少ない。だが今回、幸運なことに「あの名車」の売り物に試乗する機会を得た。あの名車は新車当時ではなく「今」、果たしてどんな感じになっているのか? 余すことなくお伝えできればと思う。

名車の名前は、NCこと3代目マツダ ロードスターの「RHT」。基本的にはソフトトップを備える3代目のマツダ ロードスターに、電動の「パワーリトラクタブルハードトップ」を装着したモデルである。試乗車両の年式は2013年式で、走行距離は2.7万km。車両価格は195万円だ。トランスミッションは6ATではなく6MTである。

▲こちらが今回試乗させていただいたマツダ ロードスター(3代目・NC型) ▲こちらが今回試乗させていただいたマツダ ロードスター(3代目・NC型)
▲パワーリトラクタブルハードトップは驚くほどスムーズに、ものの数秒で開く。販売店の担当者いわく、発売当時は世界最速だったそうだ ▲パワーリトラクタブルハードトップは驚くほどスムーズに、ものの数秒で開く。販売店の担当者いわく、発売当時は世界最速だったそうだ

……空耳かもしれないが、今、これをお読みの全国一千万の皆さまから一斉に「微妙!」との声が上がったような気がする。

確かに、3代目ロードスターのRHTは「名車」と呼ぶには微妙なのかもしれない。

や、そもそもNCこと3代目ロードスター自体が「微妙」との説もある。

ご承知のとおり89年に登場した初代マツダ ロードスター(NA)は、軽量オープンスポーツにおける世界的模範であり、ほとんど「メートル原器」でもある。名車と呼んでまったく差し支えない存在で、その中古車相場は今なお上がり続けている。

98年に登場した2代目(NB)も、実質的にはフルモデルチェンジではなく「ビッグマイナーチェンジ」と言うべき改変であったため、まぁ名車と呼んでも大きな間違いではないはずだ(個人的には、名車と呼ぶにはデザインが弱いと思っているが)。

だが3代目の通称NCは登場時、さんざんな言われようだった。

「肥大化してしまった」「ロードスターのくせにデブである」「重い」「カッコ悪い」等々、けっこうネガティブな評価が目立っていたのだ。

3代目ロードスターは、やむを得ない事情によりマツダRX-8の車台をベースとしたため、先代と比べて全長・全幅はともに4cm拡大された。そしてエンジンも、それまでのタイトな1.6L/1.8Lから余裕のある2Lへと拡大された。

それをもって自動車愛好家らは「肥大化した」「面白みがなくなった」と評したのであり、かくいう筆者も、当時は「まぁそうだよね、残念ながらちょいデブになっちゃったよね」的に思っていた。

だが今回かなり久しぶりに「NC」に乗ってみたことで、その評価は変更せざるを得ないと強く感じたのだ。

Photo:稲葉真

他の車が肥大化した結果、NCは相対的に激ヤセした

2019年の今、NCこと3代目のマツダ ロードスターはまったくもって「デブ」ではなかった。そして電動ハードトップ仕様のRHTは通常のソフトトップ仕様と比べて60kgほど重いわけだが、その動きはまったくもって肥満児的ではなかった。「軽快そのもの!」であると、筆者には感じられたのだ。

なぜならば、3代目ロードスターのRHTが最初に登場した2006年からの約13年間で「その他の車たち」が圧倒的な肥大化を遂げたからだ。そしてそのことにより、3代目ロードスターおよびそのRHTが「相対的に」小さく・軽くなったからである。

もしも、非常に小ぶりでタイトだった初代や2代目のロードスターから直接3代目に乗り替えたならば、確かに「ちょいデブかな?」と感じるかもしれない。

だが実際はそういったケースなどほとんどない。たいていの人は「2019年に普通に流通している何か」から、このNCに乗り替えることになるはずだ。

すると感じるのは「デブ感」ではなく、その真逆の印象である。

それすなわち「今どきなんて小ぶりな、なんて俊敏な、そしてなんて可憐な車なんだ!」ということだ。

そしてそれは、硬派なソフトトップではなく「若旦那仕様」と言える重たいパワーリトラクタブルハードトップを備えたRHTであっても、まったく同様なのだ。

この車の試乗中、筆者はひとりで「うおおおおおお!」とか「くううううう!」などと喚いていた。2013年式RHTの動きがあまりにも軽快で、あまりにも気持ちよかったからである。

「それはお前がロードスターのことを知らないからじゃないか? 初代とかと比べればNCは(特にRHTは)間違いなくデブだぜ?」という意見もあるかもしれない。

もちろん筆者は自分のことを「ロードスターの達人である!」などとはいっさい思っていないため、その指摘に一理ある可能性を否定はしない。

だが「筆者はこう見えて約1年前まで初代ロードスターのオーナーでした」ということは、いちおう指摘しておきたい。そしてもちろん、初代と同等の寸法に戻った現行ND型の試乗経験もある。

そのうえで言っているのだ。「皆さん、NCのRHTは今やぜんぜんデブじゃないと思いますよ」と。

▲抽象度の高い言葉になるが、何もかもが非常に“ちょうどいい”と感じた。撮影時に同車両を動かした編集者も「確かに、ちょうどいい」と連呼していた ▲抽象度の高い言葉になるが、何もかもが非常に“ちょうどいい”と感じた。撮影時に同車両を動かした編集者も「確かに、ちょうどいい」と連呼していた

中古ロードスターとしては稀有な「モテそうな1台」

さて。ここまで主に「マツダ ロードスター RHT」という車種自体についての話を述べてきたが、中古車としてのコンディションについても述べておこう。

正規ディーラーが販売している低走行物件だけあって、さすがに内外装は非常に美しい。内装の樹脂部分には年式相応の浅いスリ傷が散見されるが、気になるレベルとは言い難い。

試乗車両は「Rパッケージ」ではないのだが、メーカーオプションとしてRパッケージとまったく同じレカロ製シートとBBSホイール、そしてビルシュタイン製ショックアブソーバーが装着されている。

レカロ製シートは、運転席側には少々の使用感があるのだが、これも内装樹脂部分の小キズと同じく「ぜんぜん許容範囲」と筆者には感じられた。そして助手席側レカロシートはきわめて使用感が少ない。

試乗前、販売店の担当者氏からは「ビルシュタインのサスはちょっと硬く感じられるかもしれません」と聞いたが、個人的には「ぜんぜんそんなことないじゃん」と感じるレベルであった。しなやかであり、20歳ぐらいのギャルを助手席に乗せても苦情は絶対に出ないはずの乗り心地だ。残念ながら20歳のギャルの知り合いがいないため、確かめたわけではないのだが。

BBSホイールの美観も非常に優秀で、小姑のように細かく調べたわけではないが、目立ったガリ傷はない。またどことなく純正ライクなそのデザインも、フルノーマル志向な筆者には好ましいものだった。

Photo:稲葉真
Photo:稲葉真

まぁこのあたりは個人的な価値観に基づく話でしかないわけだが、この個体、筆者には「モテそうな中古ロードスター」に感じられた。言ってはなんだがロードスターの中古車でしばしば感じられる「車オタクっぽい感じ」が希薄なのだ。そこも、この個体の素晴らしいポイントである。

車両価格は前述のとおり195万円。支払総額で考えると220万円とか、だいたいそのぐらいになるだろうか?

そのぐらいのプライスになると「いっそ現行ND型を新車で……」という考えもちらりと湧くわけだが、「今や希少なRHTの6MTで、なおかつ低走行!」という部分から考えれば、買おうと思えばいつでも買えるNDの新車はとりあえず後回しにして、まずはこのレア物ユーズドカーに乗る……という考え方は悪くないはず。

ご興味がある方には強くオススメしたい、なかなかの1台であった。

▲この感動を記録しようと、興奮気味で写真を撮る私。やはり、車というものは乗ってみないと分からないものですね! ▲この感動を記録しようと、興奮気味で写真を撮る私。やはり、車というものは乗ってみないと分からないものですね!
文/伊達軍曹、写真/稲葉真

伊達軍曹(だてぐんそう)

自動車ライター

伊達軍曹

外資系消費財メーカー日本法人本社勤務を経て、出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。現在は「手頃なプライスの輸入中古車ネタ」を得意としながらも、ジャンルや車種を問わず、様々な自動車メディアに記事を寄稿している。愛車はスバル XV。