▲「最初の車は国産の安い中古車で」という世の中の意見にも一理ないわけではない。だが例えばいきなりこの車、イタリアの「アルファロメオ アルファ147」で車生活を始めたって、特に大きな問題はないはずなのだ ▲「最初の車は国産の安い中古車で」という世の中の意見にも一理ないわけではない。だが例えばいきなりこの車、イタリアの「アルファロメオ アルファ147」で車生活を始めたって、特に大きな問題はないはずなのだ

「イタ車の中古は絶対にやめといた方がいい」は本当か?

見たところ22歳ぐらいの青年が、アルファロメオディーラーの前で踊っていた。

「……なぜここで?」と思ったが、見ていると、彼の踊りはなかなかのハイレベルであることに気づいた。わたしは思わず見入ってしまった。

そんな踊りを見せられたからにはタダで帰るわけにはいかない。彼が脱ぎ捨てていた帽子の中に100円硬貨2枚を入れ、わたしはその場を立ち去ろうとした。

だが彼は踊りを止め、わたしに言う。

「そういうんじゃないんで、困ります」

そういうんじゃなければどういうんだ? と尋ねると、事態はおおむね以下のとおりだった。

彼は22歳の新社会人で、社会人としての給料を元手に何らかの中古車を買うつもりでいたそうだ。

だが実際に販売店を訪ねる前の段階で、周囲から猛反対を受けた。なぜならば、会社で「最初の車はアルファロメオの147にしようと思ってます」と口走ってしまったからだ。

その後、会社の先輩から「これはキミのためと思って言うのだがね、絶対にやめときなさい」という意味の説教を3時間、居酒屋でされたそうだ。

「……ということでアルファ147を買うのはやめたんです。でもアルファは相変わらず大好きなので、お別れの印にせめて僕が得意とするダンスを捧げたいと思い、今日ここで踊っていたのです」

▲意中の車を買うことができない悲しみを、華麗な「舞」にぶつけていた青年(のイメージ)▲意中の車を買うことができない悲しみを、華麗な「舞」にぶつけていた青年(のイメージ)

どこか放心したような表情でそう語る彼に、わたしは中古車評論家として言った。

「147の購入をやめる必要はない。今すぐそこのファミレスに行き、スマホでカーセンサーnetを見たまえ。そして良さげなアルファ147を何台がピックアップし、現車を見に行きたまえ」

「しかし人生初の車が中古の輸入車、特にイタリア車というのはかなりマズいと、先輩が……」

そう言う彼にわたしは断言した。

「何もわかってない先輩など放っておけ。そもそも人生初の車が輸入車で、イタリア車で、何が悪いのだ? 悪いことなどひとつもない」

以下は、この後わたくしが彼に詳述した内容のダイジェスト版である。

アルファ147=痛快すぎるほど痛快な実用ハッチバック

「彼」が当初買うつもりでいたアルファロメオ アルファ147という車。それは2001年から2011年までの長きにわたり販売された、イタリアの名門「アルファロメオ」製のハッチバック車である。

ボディタイプは3ドアまたは5ドアだが、現在流通している物件の約7割は5ドア。そしてエンジンは1.6Lまたは2Lの直列4気筒「ツインスパーク」なのだが、これまた流通の約7割が2Lだ。

1.6Lと2L直4の他に3.2LのV6エンジンを搭載する「GTA」というやや特殊なグレードもあるのだが、話がややこしくなるため、今回はGTAは除外して話を進める。

▲こちらがアルファロメオ アルファ147。写真は2001年登場の前期型(通称フェイズ1)▲こちらがアルファロメオ アルファ147。写真は2001年登場の前期型(通称フェイズ1)
▲こちらはそのリアビューだが、写真は2004年に設定された革内装や17インチホイールなどを装備する「TI」という上級ライン▲こちらはそのリアビューだが、写真は2004年に設定された革内装や17インチホイールなどを装備する「TI」という上級ライン
▲こちらは2005年途中にマイナーチェンジを受けた後期型(通称フェイズ2)▲こちらは2005年途中にマイナーチェンジを受けた後期型(通称フェイズ2)

で、トランスミッションは5MTを基本としつつ、2ペダルMT(セミAT)の「セレスピード」というやつもラインナップされている。いやむしろ流通の中心はセレスピードで、5MTの数は全体の25%程度にとどまる。

そしてアルファロメオ147がどんな感じの車なのかと言えば、それは「痛快実用車!」あるいは「快感実用車!」と表現すれば、当たらずといえども遠からずであろう。

何の変哲もない5ドアまたは3ドアハッチバックの車台とボディに、これまた特に変わった点はない普通の直4ガソリンエンジンが搭載されている。

だがその「普通のエンジン」はやたらレスポンス鋭く高回転域までビュンビュン回り、その音質もセクシーというのか何というのか、とにかく人間の本能を刺激する音色だ。

さらに車の動きは「……この車、ステアリングを切る前から曲がり始めてるんじゃないか?」と勘違いしてしまうほどクイックというか俊敏というか軽快であるため、ちょっとした交差点を普通の速度で安全に曲がるだけでも、やたらと楽しい。

しかしセレスピードというセミAT(シングルクラッチ式2ペダルMT)が、残念ながら割と故障しやすい車ではある。

セレスピードは確かに信頼性にやや欠ける。だが「対策」はある

「そうなんですよ! 会社の先輩も決して何も知らない人ではなく、『セレスピードというのはどうやらヤバいらしいから、絶対にやめといた方がいい』という意味のことを言ってました。3時間も」

セレスピードについて3時間も語るとは、なかなか見上げた先輩ではある。とはいえ、そのすべてを鵜呑みにする必要はない。

まず第一に「じゃ、5MTを買う」というシンプルな解決策がある。

▲こちらが5MT仕様。MT車の運転に抵抗がないなら、そして少々高めとなる中古車価格が苦にならないなら、なんだかんだ言ってオススメはセミATよりもこちらの5MTだ▲こちらが5MT仕様。MT車の運転に抵抗がないなら、そして少々高めとなる中古車価格が苦にならないなら、なんだかんだ言ってオススメはセミATよりもこちらの5MTだ

前述のとおり、現在流通しているアルファロメオ147の約7割はセレスピードだが、逆に言えば3割は5MTである。

トランスミッション以外はほぼ同一条件であった場合、147の中古車価格は5MTの方がセレスピードより高めとなるのだが、それでも5MTを選ぶ価値はある。MTであっても(クラッチ板がすり減るなどして)壊れるときは壊れるが、AT車ほどのややこしい壊れ方はしないからだ。

もうひとつの解決策は「経験豊富な専門店でセレスピードの147を買う」という方法だ。

▲シフト部分が小さい写真で恐縮だが、こちらがセレスピード仕様。故障発生の可能性もそれなりにあるセレスピードだが、「新品部品に交換」以外の修理方法も昨今は確立されている▲シフト部分が小さい写真で恐縮だが、こちらがセレスピード仕様。故障発生の可能性もそれなりにあるセレスピードだが、「新品部品に交換」以外の修理方法も昨今は確立されている

大昔はセレスピードが故障すると、その中枢部分を「新品に交換する」という方策が取られていた。今でも正規ディーラーではその手法を取っているはずだ。そして新品部品の代金は、ぶっちゃけ高かった。

だがその後は中枢部品の価格が改定され、今現在は(昔と比べれば)そこそこ安くなっている。

さらには専門店各位や専門工場各位の創意工夫と尽力により、「中古部品を活用して直す」などの低コストで可能な修理法も、一部で確立されている。

そういった専門店で整備済みの個体を買うか、もしくは「セレが壊れたらそういった専門工場に修理を依頼する」という方針でいく限り、セレスピードのアルファロメオ147であっても割とフツーに維持できるものなのだ。

「楽勝、ということですか?」

と彼は言う。いや、楽勝っつーと語弊はあると思いますけどね。安く直せるようになったとはいえ、それなりに手がかかるのは事実だし、セレスピードだけじゃなくてタイミングベルトとかその他の部分も、国産の同クラスと比べたらナイーブだしさ。あと、そもそも古めの車だし。

「大変、ですか?」

大変と思うかどうかは貴君次第である。

すなわち愛と情熱と興味、そして毎月の「月給」があるならば、どうってことはない。だがもしもそれらが無いのだとしたら、会社の先輩じゃないが「やめといた方がいい」かもしれない。ま、そこのファミレスでじっくり考えてみたまえよ。

「わかりました、グラッツェ ディ クオーレ!」

そう言って、彼は道の向こうへ去って行った。イタリア語には詳しくないため詳細は不明だが、たぶん「ありがとう!」と彼は言ったのだろう。

その後、彼が中古のアルファ147を買ったかどうかは知らない。

だが少なくともファミレスへと向かう彼の踊るような足どりは、最初に見た悲しき舞のステップとは、ずいぶん違っていた。

文/伊達軍曹、写真/フィアット・クライスラー、photo AC

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伊達軍曹(だてぐんそう)

自動車ライター

伊達軍曹

外資系消費財メーカー日本法人本社勤務を経て、出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。現在は「手頃なプライスの輸入中古車ネタ」を得意としながらも、ジャンルや車種を問わず、様々な自動車メディアに記事を寄稿している。愛車はスバル XV。