カルマンギア▲軽自動車からスーパーカーまでジャンルを問わず大好物だと公言する演出家のテリー伊藤さんが、輸入中古車ショップをめぐり気になる車について語りつくすカーセンサーエッジの人気企画「実車見聞録」。誌面では語りつくせなかった濃い話をお届けします!

アメリカのカルチャーに育てられたフォルクスワーゲン

今回は、「高輪自動車」で出合ったフォルクスワーゲン カルマンギアについて、テリー伊藤さんに語りつくしてもらいました。

~語り:テリー伊藤~

1938年に登場し、2150万台以上生産されたフォルクスワーゲン ビートル(タイプⅠ)。ビートルはなぜこんなに長い間、人々から愛されたのでしょうか。

もちろん機構的に優れた車だったというのもありますが、僕はアメリカに輸出されて西海岸の人々が独自のカルチャーを生み出したことも理由の一端だと思っています。これにより独特のイメージが浸透し、世界中の人たちがビートルに憧れて今でも選んでいる。

サーフカルチャーやフラワームーブメントにより、ビートルはドイツの国民車からあか抜けたイメージのある明るい車になったのです。例えるなら、クラスで目立つ存在ではなかった子が親の仕事の都合でアメリカに引っ越し、西海岸カルチャーの洗礼を受けたことであか抜けて帰国したようなイメージです。

ファッション、音楽、そして車。アメリカ人はドレスダウンの天才だとつくづく感じます。例えば、車をドレスアップするためにインテリアに木目を張ったりするのはイギリス人が得意とすること。

でも、地味なイメージだったものを派手な色にして車高を落として太いタイヤを履いたり、ルーフをカットしてチョップトップという独自のスタイルを作り上げるのはアメリカならでは。

カルマンギア▲取材車のインテリアはブルーとホワイトがアクセント

さらにFRPが生まれたことで、シャシーだけ残してビートルをバギーにしたりするのですから。こんな発想、ドイツやイギリスでは絶対に生まれません。

アメリカでこのようなカルチャーが生まれなかったら、もしかしたらビートルは今ほど愛されていなかったのではないかと思うことがあります。これはビートル以外のモデルー――今回紹介するカルマンギアにも言えることです。

カルマンギア
カルマンギア▲曲線が多用されたエクステリアのカルマンギア

カルマンギアは1960年代前半頃には「プアマンズポルシェ」とやゆされていたはず。それが1960年代後半からドイツの技術とアメリカの感性が融合し、ビートルやタイプ2とともに注目されるようになりました。

それでもカルマンギアを選ぶのは若者ではなかった。なぜなら当時の若者は後席にもきちんと人が座れないと興味を示さなかったからです。これは令和の時代も同じですね。

カルマンギア▲仲間とつるんで遊びたい若者にとって4人乗れない車は意味がないですからね

テリー伊藤ならこう乗る!

そんなカルマンギアも現在では中古車相場が上昇傾向にあるそうです。ちょっと前まで100万円台で売られていたと記憶しているので驚きました。カルマンギアの魅力はある程度名の知れたモデルなのに、めったに街ですれ違わないことでしょう

もし僕が今カルマンギアを選ぶとしたら、あえてサーフカルチャーのイメージがない黒いボディカラーにします。その方が歴史に逆行している感じがして渋いでしょう

今回取材した車両のホイールはスポーティなイメージのものでした。これは前オーナーが手に入れた頃の流行だったのでしょうね。ビンテージモデルと一口に言っても、時代により流行が異なります。今ならあえて普通の鉄ホイールを履くのがカッコいいですよ。

カルマンギア▲装着されているスポーティな見た目のホイール

ボディサイドのメッキモールが一部取れていますが、ここはしっかり直しましょう。きっちりとした雰囲気で乗ることで、カルマンギアの良さが引き立ちますから。

フォルクスワーゲンのフラット4は楽しいエンジンです。走りがすごくいいわけではありませんが、所有する歓びは大きいはずです。しかも日本のフォルクスワーゲン専門店が様々なパーツを扱っています。ビンテージカービギナーも安心して乗れるのではないでしょうか

カルマンギア▲タイプ1などにも搭載される水平対向4気筒エンジン

この時代のフォルクスワーゲンはどれも魅力的です。今後はますます手に入りづらくなるでしょうから、少しでも中古車が残っているうちに楽しんでほしいですね。

フォルクスワーゲンといえば、もう一つ大切な話が。カルマンギアと比べれば新しいモデルですが、最近ニュービートルとザ・ビートルが車好きの間で有名な中古車販売店で扱われるようになっています。とくにザ・ビートルは相場が徐々に上がっているという話を耳にします。

かつて100万円以下で買うことができたカルマンギアが高騰しているように、ニュービートルやザ・ビートルも10年後にはかなり高くなっていそうです。遊べるフォルクスワーゲンを探している人は今のうちに手に入れておいた方がいいかもしれないですよ。

カルマンギア▲パーツもまだ手に入るので、ビンテージカービギナーも安心して楽しめますよ!

フォルクスワーゲン カルマンギア

イタリアのカロッツェリアであるギア社のデザインをドイツのコーチビルダーであるカルマン社が1955年に製作した2+2クーペ。シャシーはタイプ1のものが使われた。また、クーペをベースにオープンモデルに仕上げられたカルマンギア カブリオレも存在する。初期のエンジンは1.2Lで、その後1.3L、1.5L、1.6Lと進化している。今回取材した車両は三日月テールと呼ばれる1967年式の中期型。
 

文/高橋満(BRIDGE MAN) 写真/師岡 学

テリー伊藤

演出家

テリー伊藤(演出家)

1949年、東京・築地生まれ。早稲田実業高等部を経て日本大学経済学部を卒業。「天才・たけしの元気が出るテレビ!!」「ねるとん紅鯨団」「浅草橋ヤング洋品店」など数々のテレビ番組の企画・総合演出を手掛ける。現在は演出業のほか、タレント、コメンテーターとしてマルチに活躍している。テリーさんの半生を綴った「出禁の男 テリー伊藤伝」(イーストプレス)が発売中。TOKYO MXでテリーさんと土屋圭市さんが車のあれこれを語る「テリー土屋の車の話」(隔週水曜日/21:25~21:54)が放送中。YouTube公式チャンネル『テリー伊藤のお笑いバックドロップ』も配信中。