▲2014年に登場した現行型デミオのグレードにひっそりとラインナップされている15MBは、車両本体価格156.06万円。デミオの価格帯が139万3200~226万2600円と考えると「安い!」 ▲2014年に登場した現行型デミオのグレードにひっそりとラインナップされている15MBは、車両本体価格156.06万円。デミオの価格帯が139万3200~226万2600円と考えると「安い!」

すっぴんグレードを用意するマツダの思いに熱くなる

「松本さん、デミオ15MBって乗ったことあります? デミオの中で一番売れてないグレードなんですって……。興味深くないっすか? 自分、登場時から気になってたんすよねぇ」

という、編集デスクの大脇さんからの連絡をきっかけに、彼と一緒に希少グレードである15MBに乗ってみることになった。

国産モデルはほとんど乗っているが、15MBと言われてもどんなモデルだったかすぐに思い出せないほど、良くも悪くもマニアックな位置づけにあるモデルだ。

▲15MBはモータースポーツ向けのグレードで、デミオ唯一となる1.5Lガソリンエンジン+6MTのみというモデル ▲15MBはモータースポーツ向けのグレードで、デミオ唯一となる1.5Lガソリンエンジン+6MTのみというモデル
▲各種装備は通常グレードに比べ簡素化してあり、チューニングのベース車といった位置づけだろうか ▲各種装備は通常グレードに比べ簡素化してあり、チューニングのベース車といった位置づけだろうか

「15MB見ていると、S13型のシルビアJ’sや素の初代インテグラタイプRを思い出しますねぇ。ん~、このスパルタンぶりがたまらん! やるな、マツダ……」

確かに、彼の言うとおり、昔のスポーツモデルには各社このような極端に簡素なグレードがラインナップされているモデルがあった。この時代にこういったグレードを用意していることからも、マツダという自動車メーカーの車とそれを運転するドライバーへの熱い想いを感じる。

デミオは初代からシャシー性能が良かった

「そういえば、松本さん昔デミオに乗っていたって言ってましたよね? 自分も営業時代、最初にあてがわれた社用車は初代デミオなんすよ。いやぁ、ATだったけどあれはグイグイでゴキゲンでしたねぇ……」

実は私が初めて新車で購入した国産車が初代デミオなのだ。もろもろの事情で購入しただけで、好きで買ったわけでも、じっくり吟味して買ったわけでもない。

購入したのはエントリーグレードだったが、サスペンションやハンドリングに少しも手を抜いた印象がなく、マツダの印象が良い意味で変わったことを思い出す。

初代デミオは1.3L、1.5Lと2台続けて購入した。特にデミオを気に入った理由はシャシー性能である。彼の「グイグイでゴキゲン」という表現の真意は、恐らくこの性能のことだろうと思う。

そして今、妙なテンションにある彼を横に乗せ、現行型デミオ15MBのステアリングを握っているのだ。

普通に売れているグレードと15MBの違い

4代目となる現行型デミオは、2014年に発売された。1.5Lディーゼルターボの6MTはパワーバンドに入れておけばとても速い。立ち上がりのトルクの変動でトラクションがおぼつかない点もあったが、とにかく楽しいモデルだ。

1.3Lガソリンは軽さとパワーのバランスの取れたモデルで、こちらも運転していて好印象な1台。

加えて、ユーザー目線で特筆すべきはどちらも国産コンパクトカーとして内装の質感がすこぶる高いという点だろう。

対して15MBは外装を見ただけでは他グレードと見分けがつかない。さらに言うと商用車よりも少々グレードが高い感じはするが、派手なエアロパーツなども装着されておらず「すっぴん」の感じが否めない。

▲オプションの16インチアルミホイールだけが付加価値を高めている感じだ ▲オプションの16インチアルミホイールだけが付加価値を高めている感じだ
▲もちろんナビも未装着で辛うじてラジオが付いている ▲もちろんナビも未装着で辛うじてラジオが付いている
▲空調はすべてマニュアル操作。外気と内気はレバーによって切り替える。温度調節も数字ではなく曖昧な赤と青のつまみでコントロールする。ただ、このタイプの方が自分にドンピシャな室温設定ができるのは年のせいなのか? ▲空調はすべてマニュアル操作。外気と内気はレバーによって切り替える。温度調節も数字ではなく曖昧な赤と青のつまみでコントロールする。ただ、このタイプの方が自分にドンピシャな室温設定ができるのは年のせいなのか?

「クゥー!! このダイヤル式のエアコンつまみがたまらんですな! 我々にはナビなどいらん! ガハハハ(笑)」

つまみをいじってニヤニヤしている彼を無視して、この簡素なコックピットに身体を納めると、余計なデジタルインフォメーションがないため自然と運転に向けて集中力が高まる。

モータースポーツ仕様でエンジンマウントが硬い傾向にあるためか、静粛性の高さや振動を抑えようとする素振りは一切ない。

ドライブするとその魅力に一気に引き込まれてしまう

軽くブリッピングしてレスポンスを調べる。他のグレードとは違い、吸気と排気の音に重みがある。といってもマフラーも専用品ではない。

軽量をモットーに考えていることは伝わるが……。ビンビン踊るタコメーターをのぞき込む大脇さんも「これ、マフラー替えただけでも最高にたまらん仕様になりますな」と、チューニングメニューを考え始めたようだ。

それにしても、この人は“たまらん”が好きらしい。

1速から素早く2速へ。2500回転から徐々に興奮も高まってくる。そして4000回転を超えたあたりから15MBの最も美味しいゾーンに突入する。

エンジンサウンドもすこぶる良い。ギアを3速へ放り込む。サスペンションがとても細かく、ストレスなく動く。驚くほど良い乗り味だ。ハードではないが路面に足をしっかりと付けて最小舵角で高速コーナーを直線のように走れる感覚はさすが。

樹脂製のステアリングはちょっと頼りないが、マニアにはたまらないアイテムなのかもしれない。

ブレーキは立ち上がりが速いタイプなので、ヒール&トーでのコントロールを思いどおりにしにくい。感覚をつかむまで、少々時間を要した。

しかし制動力は抜群に高い。ボディ剛性が高いからこそ、このセッティングが可能となるのだ。

15MBはそのまま乗っても良し、チューニングで変化を楽しむも良し

「いや~、これは笑いが止まらんですな! もう、たまらなくクククッですよ!(笑)」

とても編集者とは思えぬ、意味不明発言を繰り返す大脇さん。

とはいえ、コンパクトな軽量ボディに簡素な装備、元気よく回るエンジンと思ったとおりに向きを変える素性をバランス良く持っている車は、運転していて言葉では説明しきれない楽しさがあることも事実。

このままサーキットに持ち込んでもかなり楽しめるに違いない。そして、パーツを選び取り付けていくことで、少しずつ進化していく経過を楽しむこともできる、そんな車だ。

今後、デミオ15MBに乗っている人を見かけたら、ひとこと声をかけたい。

「わかってますね~」と。

純粋に走りを楽しむ人にもっと売れてもいいのになぁ。

【SPECIFICATIONS】
■グレード:15MB ■乗車定員:5名
■エンジン種類:直列4気筒DOHC ■総排気量:1496cc
■最高出力:85(116)/6000 [kW(PS)/rpm]
■最大トルク:148(15.1)/4000 [N・m(kgf・m)/rpm]
■駆動方式:FF ■トランスミッション:6MT
■全長×全幅×全高:4060×1695×1500(mm) ■ホイールベース:2570mm
■ガソリン種類/容量:無鉛プレミアム/44(L)
■JC08モード燃費:19.2(㎞/L)
■車両価格:156.06万円(税込)
 

text/松本英雄
photo/篠原晃一