▲1987年に限定生産されたポルシェのレーシングモデル。当初は200台と発表されたが、オーダーが殺到。最終的には283台が作られたと言われている ▲1987年に限定生産されたポルシェのレーシングモデル。当初は200台と発表されたが、オーダーが殺到。最終的には283台が作られたと言われている

ポルシェの様々な面が959を通して見えてくる

フルタイム4WD、水冷ヘッド、6速MT、可変ダンパー、複合素材ボディパネル、ダブルウィッシュボーンサスペンションなど、959で初めて採用された技術は数多く、そのトライアルモデルとしての役割を担っていた。その後、多くの技術が生産車にフィードバックしていることを考えれば、959の存在がポルシェにとっていかに重要だったかが分かるはず。

徳大寺 さて、今日はポルシェ959を見に行くんだろう?
松本 はい。今月から過去に注目を浴びたモデルもピックアップしようということで、前から狙いをつけていたんですよ。特集もポルシェなので、ならばこれしかないかなと。
徳大寺 959と言ったら、当時はバブル絶頂期だったから欲しい人は億単位のお金を払ったんじゃないか? これ以上ないぐらい最新のメカニズムを詰め込んだクルマだったよ
松本 スタイルはとにかく未来的でしたね。1983年のフランクフルトショーで“グループBとアナウンスされたときにスペックを見て、こんな凄いの本当に発売するのか!? と思いましたね。ショーカーは冷却のためにディスク型のセンタ-ロック式のホイールを装着してあって、当時の常勝のグループCカー、ロスマンズポルシェ956のようだと思いましたね。
徳大寺 それはそうだろう。959は956のレーシングエンジンをディチューンして搭載しているんだ。そんなイメージがあるのも当然だよ。
松本 だから200台以上生産して認可を得ようとしたわけですよね。しかしグループBは消滅して行き場がなくなった感じがありましたけど、適合するカテゴリーを見つけては積極的にレースに参戦して活躍していましたね。結局280台以上販売しても開発費も高額になっていたので到底採算はとれなかったでしょう。
徳大寺 ポルシェはあの当時、959で次世代の911を試していたんじゃないかな。例えば959で採用したフルタイム4WDシステム。これは最も理想的な前後のトルク配分をコンピュータで可変できるんだ。
松本 エンジンもヘッドだけ水冷なんてすごいです。おそらく4バルブ化して熱がこもるとノッキングなど燃焼状態も苦しいでしょうからね。
徳大寺 959のシリンダーが空冷のままだったのは、最後まで空冷の可能性を模索してたからなんだな。もっとも水平対向6気筒で空冷が長かっただけにリスクが少ないこともあったんだろう。レースに使っていたわけだしさ。
松本 ところで巨匠は当時乗ったんですよね? 巨匠の著書で『ニューヨークを楽しんだあと、私はポルシェ959の試乗に向かった』という本があるぐらいですからね。
徳大寺 あの本は確か1991年に出したんだ。それだけポルシェ959というクルマが注目されたということだけど、試乗会は意外と少人数で行われたんだ。
松本 どこで、開かれたのですか?
徳大寺 たしかニュルブルクリンクだったと思うよ。グランプリコース。
松本 ニュルブルクリンクといったら世界一過酷なサーキットですけど、グランプリコースというのは全長5.1㎞の南コースですね。
徳大寺 その日は12人ぐらいのジャーナリストを乗せる予定で、まずちゃんとポルシェを走らすことができるかどうかテストされて、ポルシェ側からOKが出たら試乗が許されたんだ。僕は最後から2人目で、試乗するドライバーがコースを一周するごとにメカニックが修理や調整を行って、それが理由で順番が回ってこなかったんだ。プロトタイプのようなモデルだから仕方ないけどな。
松本 話は959の中身に戻しますけど、内装は当時の930のカレラと変わらないそうですよね。
徳大寺 そうなんだよ。外観は特別なスタイルだけど内装はカレラなんだな。個人的にはすごくいいと思うよ。
松本 しかし959は4WDだからプロペラシャフトをリアからフロントに伝えるためにセンタ-トンネルを大きくしてるそうですよ。巨匠、乗ってみて足元がタイトな感じはしませんでしたか?
徳大寺 そういった印象はなかったな。それほど完成度が高かったということだろう。
松本 959を作っていたころには4WDが可能な次世代のプラットフォームは完成していたと言ってよいのでしょうね。リアからフロントに行くトンネルにトルクチューブを設けて静粛性と剛性を向上させたのはポルシェらしいですし。91年に発表されたカレラ4では同様な方式のプラットフォームでしたから、レーシングカーから量産車にフィードバックがあることが分かります。
徳大寺 959に乗って思ったのはこれがレーシングカーのディチューン版のエンジンかということだな。2.85Lのターボチャージャーで450馬力だからさ。現在でも凄いチューニングだと思うんだ。しかも乗るのに特に難しいことはない。これがバイザッハの姿だろう。あれから20年経っても超現実的なスタイルは健在だった。それと現在のポルシェよりも小柄に見えるところもいいね。
 

▲ポルシェ 959 インパネ
▲ポルシェ 959 フロント
▲ポルシェ 959 リア
▲ポルシェ 959 エンジン
text/松本英雄
photo/岡村昌宏