▲なんとも言えない深海魚のような(?)ビジュアルのフィアット ムルティプラ前期型。しかしこれが実は乗って驚く超実力派なんです! ▲なんとも言えない深海魚のような(?)ビジュアルのフィアット ムルティプラ前期型。しかしこれが実は乗って驚く超実力派なんです!

ミニバン/MPVが苦手なあなたにこそオススメしたい孤高の1台

輸入中古車評論家を自称するわたしだが、自慢じゃないがカネはない。いや日々の食事に困窮するほど貧乏しているわけではないが、年齢的に中年力がみなぎってきたため(つまり中性脂肪などの数値が悪化してきたため)運動にいそしむ際も、高額なスポーツクラブに通うのではなく、そこらへんの公道を無料でテキトーに走るなどしながら、ニッポンの中流ど真ん中を生きている。

さて。そのように中年力がみなぎってきた昨今の筆者であるため、先述のランニングだけでなく草野球や各種フィールドでの釣り、折り畳み自転車でのサイクリングなど様々なスポーツに実は励んでいる。で、それらに励むようになると欲しくなるのがミニバンあるいはMPV(マルチ・パーパス・ヴィークル)などの、要するに「道具グルマ」だ。

完全インドア派だった若い頃は、正直に言うとミニバンに類する車を「唾棄すべき存在」ととらえていたが、いざ自分が各種スポーツを始めると「うむ、ミニバン(またはMPV)ってのはなかなか便利じゃないか」と、あっさり宗旨替えするに至った。それはそれでいいのだが、問題は買うべきミニバン(またはMPV)がなかなかない……ということだ。

世間ではオプション装備込みで500万円を軽く超える大柄かつ高級な国産フルサイズミニバンが流行っているようだが、そういったモノにはあまり食指が動かず、そもそも自慢じゃないがカネはないため、仮に食指が動いたとしても買うことはできない。できれば100万円とか、可能であれば100万円をちょい割るぐらいの価格で買えて、機能的で走りも良く、なおかつちょっとこじゃれたMPVはないものか……と思い悩んでいたときに思い出されたのが、コレだった。

フィアット ムルティプラである。

▲前3人+後ろ3人という変則的レイアウトの6人乗りMPVであるフィアット ムルティプラ。写真は2003年4月から2004年途中まで販売された前期型。後期型からはごく一般的な顔つきに変更された ▲前3人+後ろ3人という変則的レイアウトの6人乗りMPVであるフィアット ムルティプラ。写真は2003年4月から2004年途中まで販売された前期型。後期型からはごく一般的な顔つきに変更された

イタリアのフィアット社が日本では2003年4月からしばらくの間販売していた異端の小型MPVだ。シートレイアウトは前3人+後ろ3人の計6人乗りで、座席はすべて独立式。前期型の全長は4005mmとかなりコンパクトで、全幅は1875mmという、旧型メルセデス・ベンツ Sクラスとほとんど同じ数値。なんともアンバランスな、しかしそこが実は魅力な異色MPVである。

アンバランスで異色といえば、そもそもこの外観デザインだ。……なんといったらいいんでしょうか、ナマズ? 深海魚? ……わからないが、とにかく異色であることだけは確かだ。「世界でもっとも醜い車」と評されたこともあるらしいが、それを聞くと「ま、そうかもね」という同意と、「何言ってんだ! 個性的でステキじゃないか!」という反発を同時に覚えるのが、この車のデザインの面白いところである。ちなみに個人的には非常に美しいビジュアルだと思っている。

▲一度見たら絶対忘れないそのフォルム。ちなみにサイドウインドウがかなり巨大なため、車内からの見晴らしというか開放感は異様に良好 ▲一度見たら絶対忘れないそのフォルム。ちなみにサイドウインドウがかなり巨大なため、車内からの見晴らしというか開放感は異様に良好

特に美しいのが内装だ。イタリアンデザイン特有のステキすぎる色づかいに始まり、各部のちょっとした造形や、なんとなくガウディのサグラダ・ファミリアを思わせる(?)インパネ周りの盛り上がりなど、個人的には「ステキすぎる!」と評価するほかない。この個性と美しさであれば、ミニバンやMPVを忌み嫌っていた若い頃の筆者も納得しただろう。

▲6席ともやや小ぶりだが、大人6人がさほどの圧迫感を感じずに座れる。後席は取り外し可能 ▲6席ともやや小ぶりだが、大人6人がさほどの圧迫感を感じずに座れる。後席は取り外し可能
▲何ともいえない有機的造形となるメーター周り。ちょっとサグラダ・ファミリアみたい? ▲何ともいえない有機的造形となるメーター周り。ちょっとサグラダ・ファミリアみたい?

さらに最高すぎるのがその走りだ。搭載エンジンは最高出力103psの何の変哲もない1.6L直4DOHCエンジンなのだが、5MTというのが効いているのか、はたまたスーパーカー並みにワイドなトレッドが功を奏しているのか、その動的性能は実に秀逸だ。

例えばの話、曲率90度に近いほぼ直角のコーナーに遭遇したとする。最新のハイパーなMPV/ミニバンは別として、100万円以下で買えるような旧世代のMPV/ミニバンは大げさに減速し、そろりそろりとコーナーを抜けないと肝を冷やすことになるが、ムルティプラではその必要がない。いやもちろんそれなりの減速をする必要はあるが、2ドアのスポーティクーペとほとんど同じ感覚で減速および操舵すれば、ムルティプラはその90度コーナーを簡単に、涼しい顔して(というか妙な顔をして?)クリアしていく。

ムルティプラとは、そういうMPVなのだ。

▲MPVなのに、実はこういうシーンを大の得意とする「走れる車」でもある ▲MPVなのに、実はこういうシーンを大の得意とする「走れる車」でもある

それが今や、支払総額でも80万円から100万円ほどで買える時代に。当然ながらMPVとしての使い勝手もなかなか上々だ。まぁ至れり尽くせりの国産ミニバン/MPVほど上々なわけではないが、リアシートを畳むなり取り外すなりすれば荷室は最大1900Lの立方体となり、リアシートがそのままの使用状態であっても430Lというまあまあの容量を誇る。

2004年途中からの後期型はごくフツーのビジュアルになってしまったため、個人的にはあまり推したいとは思わないが、前期のヘン顔(←ホメてます)は筆者のような中年スポーツ愛好家ならびにアクティブなライフってやつを好むすべての好コスパ輸入車ファンにとって、最適すぎる1台だと確信しているのだが、どうだろうか。

text/伊達軍曹