※徳大寺有恒氏は2014年11月7日に他界されました。日本の自動車業界へ多大な貢献をされた氏の功績を記録し、その知見を後世に伝えるべく、この記事は、約5年にわたり氏に監修いただいた連載「VINTAGE EDGE」をWEB用に再構成し掲載したものです。

▲1967年に330GT 2+2の後を受けて登場し、僅か3年間だけ製造された2ドア4シーターのGT。クイーンメリーと呼ばれる美しいデザインだけでなくフェラーリ初の独立懸架リアサスペンション、4.4LのV12エンジンなど、当時のフェラーリのプレステージモデルに相応しい、多くの最新技術が採用されていた。またリアシートも大人が十分乗れるだけのスペースが確保され、GTらしい作りとなっている。今回の撮影車両はボディカラーがバーカンディで、美しくレストアされているため車両のコンディションも非常に良い状態 1967年に330GT 2+2の後を受けて登場し、僅か3年間だけ製造された2ドア4シーターのGT。クイーンメリーと呼ばれる美しいデザインだけでなくフェラーリ初の独立懸架リアサスペンション、4.4LのV12エンジンなど、当時のフェラーリのプレステージモデルに相応しい、多くの最新技術が採用されていた。またリアシートも大人が十分乗れるだけのスペースが確保され、GTらしい作りとなっている。今回の撮影車両はボディカラーがバーカンディで、美しくレストアされているため車両のコンディションも非常に良い状態

今の時代では考えられない上品で美しいGT

松本 巨匠、今回のエッジの特集は「GT」だそうです。この企画も本格的なGTを提案しようと、マセラティ ギブリ、ランボルギーニ エスパーダなど、色々候補はあったんですが、実際に走らせて頂ける車がなかなかなくて。それでディーノやミウラなどで何回かお世話になった横浜のキャステルオートサービスさんのフェラーリ 365GT 2+2になりました。
徳大寺 なるほど。あそこの社長とは古くからの知り合いで、昔からスーパーカー一筋だからね。今回は365GTか。フェラーリの2+2はエレガントなんだな。フェラーリの造るGTはとにかく格好いい。
松本 確か巨匠も乗ってらっしゃいましたよね?
徳大寺 僕が乗っていたのはフェラーリ365GT4 2+2だよ。実に良い車だったな。ただ、多分に漏れずやはりクラッチはとても重かった。確かキミも2+2に乗っていたんじゃなかったかな?
松本 僕が乗っていたのは330GT 2+2です。でも、巨匠の365GT4 2+2は、今回見に行く365GT 2+2に名前はそっくりですが全く違ったスタイルですよね?
徳大寺 そうだな。365GT4 2+2が登場したのは72年かな?
松本 はい。そうですね。1972年に発表後、エンジンの排気量とキャブレーションを変更しながら89年までほとんどスタイリングに変更のないまま作り続けていました。
徳大寺 ピニンファリーナのデザイナー“レオナルド・フィオラバンティ”が20年は先を読んでデザインしたモデルだね、これは。フィオラバンティさんは60年代後半から70年代のフェラーリ黄金期を作った立役者でもある。今回見に行くフェラーリ365GT 2+2はフィオラバンティの師匠“アルド・ブロバローネ”がまとめたモデルじゃないかな。君が乗っていた330GT 2+2も今日見に行くモデルに似てるよな。
松本 そうですね。僕のモデルは1966年式で、少々古典的な要素がありますね。テールのランプがボディと一体化していて今回の365GT 2+2とはクォーターパネルが特に異なるんですよ。1961年からブロバローネの片腕として活躍した“トム・チャーダ”の色が強いように思います。
徳大寺 そうか。それにしてもピニンファリーナというところは優秀なデザイナーを育てるカロッツェリアだよな。ブロバローネはディーノ206GTをまとめたデザイナーで、その片腕にチャーダ、フィオラバンティがいた。彼らはその後の自動車のスタイリングに大きな影響を与えた訳だからね。
松本 最後のクラシックフェラーリとして有名な「デイトナ」も、泣く子も黙るスーパーカー「354GT/4BB」も、フィオラバンティさんの作品でしたね。
徳大寺 実は2、3ヵ月前にフィオラバンティさんにお会いしたよ。実にジェントルマンでセンスの良いサマースーツを着ていたな~。それと人がイイ! 才能がある人はああいうものだよ。
松本 話は尽きませんが、どうやら今日のお目当ての365GT 2+2はあの車のようですよ。今見ても無駄に大きくなく、伸びやかでエレガントですね。
徳大寺 色がまた素晴らしいじゃないか。エレガントなフェラーリらしいバーガンディだな。テールランプが3つ並んでいるのが僕が乗っていた365GT4 2+2に似てるだろう。いい雰囲気だ。フロントのデザインも60年代のピニンファリーナらしくて素敵じゃないか。君のとも似ているな。
松本 僕のは4つ目からブロバローネらしいデザインに変わったモデルなので似てますね。この締まった優雅なプロポーションにV型12気筒4.3Lが搭載されているわけですから、GTの貫禄を感じずにいられませんね。
徳大寺 フェラーリはエンジンの熟成が上手なんだ。このモデルだってかなり昔からのエンジンをスープアップして、よりラグジュアリーに作っているだろう。大本は1959年に作られた4Lのスーパーアメリカをベースにしたモデルだと思う。有名なコロンボユニットの発展型と言っていいんじゃないだろうか。
松本 巨匠が乗っていたモデルは365GT4というだけあって4カムシャフトのDOHCユニットだった訳ですが、これはいわばシングルカムシャフト(SOHC)の最後の2+2なわけですね。後にSOHCユニットをフェラーリは作っていないんですから、ヴィンテージフェラーリの息がかかったモデルという点が心惹かれますね。
徳大寺 とかく大きな排気量の車は品が悪いイメージが強いが、この当時のフェラーリは全く別物なんだよ。座ってステアリングを握っただけでジェントルになれる車なんだ。大排気量のクルマは余裕を持って運転することができる。それが本来の2+2のGTなんじゃないかな。日本はもちろんのこと世界的にも今じゃこの当時のような上品なGTを求めるのは難しいだろうね。

フェラーリ 365GT 2+2 リア
フェラーリ 365GT 2+2 インストルメントパネル
フェラーリ 365GT 2+2 シート
フェラーリ 365GT 2+2 エンジン
フェラーリ 365GT 2+2 運転席周り

【SPECIFICATIONS】
■全長×全幅×全高:4980×1790×1345(mm)
■車両重量:1480kg
■ホイールベース:2650mm
■エンジン:V12 SOHC
■総排気量:4390cc
■最高出力:320ps/6600rpm
■最高トルク:37.0kg-m/5000rpm


tefxt/松本英雄
photo/岡村昌宏


※カーセンサーEDGE 2010年11月号(2010年10月9日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています