マセラティ▲本誌2025年3月号に特集したフェラーリ製エンジンを搭載するマセラティ。その泣きどころともいわれるセミAT「カンビオコルサ」について、マセラティのスペシャルショップ「ミラコラーレ」に話を聞いた

マセラティは壊れやすいって本当? 専門店に聞いてみた

ちょっと古いマセラティには、フェラーリ製エンジンを搭載しているモデルが存在する。2002年に登場した「マセラティ クーペ」を皮切りに、その進化版である「グランスポーツ」、2004年デビューした4ドアセダンの「クアトロポルテ」、そして先代の「グラントゥーリズモ」まで、すべてその心臓部はフェラーリユニットなのだ。

フェラーリが開発したF136型4.2L(後期型は4.7L)のV8自然吸気エンジンは、鳥肌もののエグゾーストノートを奏でる。その音を聞くだけでこの車を所有していることへの満足感が得られるというオーナーもいるほどだ。

しかし、泣きどころがないわけではない。フェラーリでいうところの「F1マチック」、マセラティでは「カンビオコルサ」と呼ぶ6速セミAT。いわゆるトルコンATとも現在主流のDCT(デュアルクラッチトランスミッション)とも異なる、マニュアルトランスミッションの構造のままクラッチ操作を自動化した、F1マシンのトランスミッションをルーツとするものだ。ダイレクトなシフトフィールが魅力である一方で、あまり寿命が長くはないという欠点がある。それゆえ、壊れやすいというイメージをもたれがちだ。
 

ミラコラーレ▲フェラーリエンジンを搭載するマセラティのスペシャルショップ「ミラコラーレ」。今回は代表の野田憲隆さんにお話しをお聞きした

実際のところはどうなのだろうか。神奈川県横浜市にあるフェラーリエンジンを搭載するマセラティのスペシャルショップ「ミラコラーレ」の野田社長に話を聞いてみた。

「さすがに国産大衆車のように乗りっぱなしというわけにはいきませんが、どういった周期でどこをメンテナンスする必要があるのか、我々にはそのノウハウがあるのでしっかりと整備すれば壊れることはありません。整備履歴の曖昧な個体に関しては、我々は“リセットする”という言い方をしますが、まず重点箇所を整えます。1度リセットしてしまえば、フェラーリエンジン本体は耐久性も高いですし、定期的にメンテナンスをしていけば安心して乗ることができます」
 

安心に乗るため「カンビオコルサ」の定期的交換がマスト

クラッチの寿命は、具体的にどれくらいなのか。

「カンビオコルサは、クラッチとクラッチを制御するためのポンプの定期的な交換が必要になります。交換サイクルは乗り方にもよりますが、クーペやクアトロポルテの初期モデルの場合で1万5000kmから3万kmくらい。グランスポーツやクアトロポルテの中期からはクラッチ板が対策品になっており4万~5万kmくらいまでもつようになっています」

ミラコラーレが販売する車両はクラッチの残量を%表示している。これはテスターで診断することが可能という。また、同店では車両を下からのぞき込み、わずか2cmほどの隙間から目視でクラッチ板の状態を判断することもあるというが、それは経験豊富なメカニックだからこそなせる技だ。そして、残量20%で実質的にはゼロと判断するという。残量はメーターなどに表示されるわけではないので、オーナーが目視できるわけではない。クラッチが摩耗すると、具体的にどのような症状がでるのだろうか。

「症状としては何種類かあります。1つの目安となるのが、例えば5速で走っていて前方の信号が赤になったとします。ブレーキを踏んでいくと、4、3、2、1と自動的にシフトダウンをして停止するわけですが、3から2や、2から1に落ちるときに、いきなりエンストすることがあります。ガクンとしたショックはなくて、エンストしたことがわからないくらいすっとエンジンが止まる。それが兆候の1つです。それから、これはマニュアル車と同様ですが、発進の際にクラッチが滑っている感触が出たら、ほぼ末期症状です。また、アクセルを全開にしてレッドゾーンでシフトアップさせてみたときに、正常であればガツンガツンとダイレクトにつながりますが、そこでにゅるっと滑る感触が出始めたときも同様ですね」

クラッチの交換費用は、部品価格の高騰や為替の問題などもあり、現在はおよそ100万円が目安になるという。ここからは実際の交換作業をみせてもらうことにする。

クラッチセンサーが故障するとエンジンがかからない、エンジンがストールするといったトラブルが発生する。クラッチ交換の際にこの部品を交換していないケースもあるようで、ミラコラーレでは同時交換を行っている。写真下段の中央に見えるシルバーのF1ポンプは5年に1度の交換を推奨しており、基本的にクラッチ交換のタイミングで同時に作業を行う。この部品が故障するとギアが入らなくなり、不動になってしまう。
 

マセラティ クアトロポルテ&グラントゥーリズモ▲交換するための新品のクラッチ部品一式。ミラコラーレでは、クラッチ板だけでなくフライホイールやスラストベアリング、クラッチセンサーなど付随するパーツの交換を推奨している
マセラティ クアトロポルテ&グラントゥーリズモ▲まずは車両をリフトアップする。このフェラーリエンジン時代のマセラティは、重量配分を最適化するためトランスアクスル方式(トランスミッションとディファレンシャルギアを一体化した構造)を採用しており、それゆえ作業は複雑になる
カンビオコルサ▲クラッチ交換を行うにはマフラー、トランスミッション、トルクチューブ、ベルハウジングと様々なパーツを取り外す必要がある
カンビオコルサ▲トルクチューブの重量は70~80kgにも及ぶため作業にはジャッキが欠かせない。ミラコラーレのメカニックはこれを“大砲”と呼んでいるとか
カンビオコルサ▲先に外側のパーツを外し、最後にベルハウジングを外せばいよいよクラッチが姿を現す。この段階に到達するまでには、多くの時間と作業工程を要する。画像はクラッチ交換前の状態
カンビオコルサ▲右が新品、左がこれまで使用していたクラッチ板。溝の深さが明らかに違うのがわかる。クラッチ板は4層構造になっており、層ごとに摩耗の仕方が異なることも。4層の総和によって残量を測定する。ミラコラーレではテスターでの診断と目視のダブルチェックを行っている
カンビオコルサ▲摩耗してスリットがなくなっている状態を拡大したもの
カンビオコルサ▲このベルハウジング内にフライホイールやクラッチなどが収まる。中央にあるシャフトに収まっているのがスラストベアリング。これが押し引きすることでクラッチが切れたりつながったりする。野田社長によると、ここの取り付け作業はノウハウが必要でスラストベアリングをいかに馴染ませて丁寧に装着するかが交換作業の肝になるという。ただ新品に交換しただけでは、クラッチがスムーズに作動しないことも
カンビオコルサ
カンビオコルサ▲エンジン回転数を拾うRPMセンサーもクラッチ交換時には同時交換がマスト。もしここに故障が発生するとエンジンが始動しなくなるといったトラブルが発生する。部品代は高くないが、このセンサーを交換するためにはこれまで紹介してきたクラッチ交換と同様の作業が発生するという

中古車を選ぶ際のポイントは?

“予防整備”という言葉があるが、積み重ねたノウハウをもとにあらかじめ想定しうるトラブルのもとに対して壊れる前に対処しておくというものだ。

「できるだけ整備費用を安く抑えたい」というのは多くのユーザーに共通する思いだが、“損して得取れ”ということわざにもあるように、予防整備こそが大トラブルを防ぎ、最終的に大きな出費を避ける対策となるはずだ。

そして、こうしたちょっと古いマセラティの購入を検討する際には、整備記録を確認することが重要だ。クラッチ板の交換歴や残量のチェックはマストといえるだろう。ミラコラーレのような豊富な知識と経験をもったスペシャルショップであればその点もしっかりと提示してくれている。そしてのちには主治医として重要な意味をもつ。これからも安心して不世出のフェラーリ時代のマセラティをご堪能あれ。
 

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文/藤野太一、写真/デレック槇島、編集部、ミラコラーレ

ライター&エディター

藤野太一

カーセンサー、カーセンサーネットの編集デスクを経て、カーセンサーエッジの創刊デスクを務める。現在はフリーランスのライター&エディターとして、自動車誌をはじめビジネス誌、ライフスタイル誌などにも寄稿する。