▲高速道路上で「炭火の焼魚定食」が食べられる激レアPA、それが中央道境川PA(上り)だ! ▲高速道路上で「炭火の焼魚定食」が食べられる激レアPA、それが中央道境川PA(上り)だ!

ちょっと地味な山梨県中央部に突如現れる「男のパラダイス」

山梨県のほぼド真ん中を横断している中央自動車道。そこを行く際、ドライバーは北西端の八ヶ岳PAと東端の談合坂SAでそれなりのエンジョイメントを味わうことができるが、途中の県中央部は正直、これといったわかりやすい華はない。ドライバーの視野に入ってくるのは茫漠とした山間の風景か、甲府盆地に散らばる住宅街のみ。霊峰富士も、残念ながらはるか南の彼方だ。

「仕方ないからここはサクッと通り過ぎるだけにして、お楽しみは次の県に期待するか……」

そう考える長距離運転者も多いかと思うが、ちょっと待っていただきたい。一見茫漠としている甲府盆地の中央南側、まさに山梨県の“へそ”ともいえる笛吹市境川町に、非常にプロスペックでナイスなPAが2つあるのだ。そこをスルーしてしまうのはドライバーとして、そして飯っ食いとして非常にもったいないことである。

まず最初にご紹介したいのは、中央道上り線の甲府南ICを過ぎてすぐの場所に現れる「境川PA(上り線)」。こちらは、高速道路上のSAPAとしては全国的にも非常にレアな「焼魚定食が食べられるPA」である。しかもガスではなく炭火焼きの、だ。

▲建物自体はそう新しいわけではないが、小ぎれいな感じに整えられている境川PA(上り線) ▲建物自体はそう新しいわけではないが、小ぎれいな感じに整えられている境川PA(上り線)

建物の基本骨格はけっこうな年代物とお見受けするが、その外壁や各所のディテールはモダンテイストへと美しくリファインされている境川PA上り。入口を抜けて右手にある「境川食堂」と古風な書体で書かれたのれんをくぐれば、そこはある意味男のパラダイス。サラリーマンの聖地・新橋駅前もかくやの勢いで、炭火の焼台でこんがり焼かれたサンマの良い香りが漂ってくる。

取材日の「日替り焼魚定食」(750円)はサンマまたはサバで、より大きなサイズの魚が供される「焼き魚定食(大)」(880円)はアジ。日によってはホッケが登場することもある。まあ細かい説明は後にして、さっそくいただこうじゃないか。券売機でチケットを購入し、待つこと約5分。熱々の日替り焼魚定食が出てきた。サバも捨てがたかったが、筆者が注文したのはサンマだ。

▲なんと、PAの調理場に焼鳥屋さんか居酒屋のような炭火の焼台が! ▲なんと、PAの調理場に焼鳥屋さんか居酒屋のような炭火の焼台が!
▲自分が高速道路上にいることを軽く忘れそうになる「日替り焼魚定食」(750円) ▲自分が高速道路上にいることを軽く忘れそうになる「日替り焼魚定食」(750円)

週に何度も通う常連が多いからこそ「肉ばっかり」では支持されない

パリッと焼けた皮とともに身の部分少々を箸でつまみ、醤油をちょいとかけた大根おろしとともにいただく。……うむ、うまし! 「しょせんは高速道路のPA」ということでワタは抜いてあるサンマかもしれないとナメていたが、さわやかな苦味が効いたワタ付きの本格派である。うむ、やはりサンマはこうでなくては!

味噌汁も、近年の主流である「マシンにお椀をセットして、ボタンを押すと出来合いの味噌汁がチューッと出てくるタイプ」ではなく、完全手作りの具だくさん系だ。これがまた腹が減った男の胃袋と心にしみ、そして単純にうまい。十分な量の銀シャリも炊き具合は上々で、野沢菜と思しき香の物もうまい。ついでに、無料でガンガン飲める熱いほうじ茶もうまい。すべてにおいて大満足である。

▲味噌汁はベンダー式ではなく手作りの具だくさん系。最後に載せる白ネギのシャキッとした食感もステキ ▲味噌汁はベンダー式ではなく手作りの具だくさん系。最後に載せる白ネギのシャキッとした食感もステキ

しかしアレだ、ここ境川PA(上り線)は「ドライバーサポートエリア」というコンセプトだけあって、大型トラックなどの職業ドライバーさんが多数立ち寄る場所だ。なんとなくのイメージとして、ハードボイルドなドライバーさんたちにはがっつり系肉メニューの方が人気が高そうなものだが、なぜあえて「炭火の焼魚」なのか?

「もちろん肉系メニューも人気がありますが、週に3~4回は必ずお立ち寄りいただいている複数の常連ドライバー様から『肉ばっかだと正直飽きちゃうんだよね、やっぱ魚も食べたいよね』という声を多数いただき、わたくしどもも『なるほど、確かに!』と思ったわけです。で、どうせやるからには半端なことはしたくないということで炭火の焼台を導入し、味の面でも視覚の面でもご満足いただけるよう鋭意努力している次第です」

そう教えてくれたのは、境川PA(上り線)店長の大石寛之さん。大石店長によれば魚系と肉系の人気はおよそ50対50のイーブン。筆者の滞在中はほとんどすべてのお客さんが焼魚定食を注文していたが、店長いわく「市販のタレは一切使っていない手仕込みの生姜焼き定食も、焼魚に並んで人気が高いんですよ」とのこと。いずれにせよ中央道境川PA(上り線)は、うまいモノが静かに食えるステキな「じみP」(地味だけど滋味たっぷりなPA)として、かなりの上位に位置づけたいと思う。

そして斜向かいの境川PA(下り)は「知られざるラーメンの名店」

もう一つご紹介したいプロスペック系PAが、こちらの斜向かいにある境川PA(下り線)だ。東京から名古屋方面に向かうと甲府南ICの手前約1kmに現れるそこは、山梨県内の中央道を走行中にうまいラーメンが食いたくなったとき、あるいはなぜか突然「自衛隊グッズ」が欲しくなったとき、ぜひ立ち寄りたいポイントである。

▲おっさんドライバーとしてはひたすら落ち着く昭和なたたずまいとなる境川PA(下り)。ちなみにこちらのイチ推しはラーメンではあるが、のぼりに書かれている「焼肉定食」もかなりの人気 ▲おっさんドライバーとしてはひたすら落ち着く昭和なたたずまいとなる境川PA(下り)。ちなみにこちらのイチ推しはラーメンではあるが、のぼりに書かれている「焼肉定食」もかなりの人気

まずはラーメンの話から。この界隈では、東京方面から見て一つ手前の釈迦堂PA(下り線)のラーメンを大食い女王のギャル曽根さんがテレビ番組で紹介したことで有名になった。もちろん釈迦堂のラーメンも大変おいしいのだが、あちらが「隠れたラーメンの名店」だとすれば、こちら境川PA(下り線)は「知られざるラーメンの名店」だ。通常、PAのラーメンは冷凍麺を使うことが多いが、こちらはしっかり生麺を使用している。そのため麺自体の好ましい風味と食感がパンチの利いたスープと絶妙に絡み合い、得も言われぬテイスティワールドがドンブリの中に出現するのである。

イベントとして開催されている各種ラーメンバトルでの受賞歴も豊富で、取材日に筆者がいただいた「牛肉焦がし味噌ラーメン」(840円)も昨年の受賞作。パンチのあるマー油入り味噌スープと香ばしくも適切な甘さのすき焼き風牛肉の相性は抜群で、中太のやや縮れ生麺にからみつく濃い目のスープがひたすらうまい、クセになる味わいだ。

▲すき焼き風牛肉とマー油入りのスープ、そして中太生麺との組み合わせがクセになる「牛肉焦がし味噌ラーメン」(840円)。定番商品では「野菜塩ラーメン」(710円)もかなりの人気 ▲すき焼き風牛肉とマー油入りのスープ、そして中太生麺との組み合わせがクセになる「牛肉焦がし味噌ラーメン」(840円)。定番商品では「野菜塩ラーメン」(710円)もかなりの人気

そしてうまいラーメンを食べたあとはショッピングコーナーまでぶらりと歩き、ぜひ「自衛隊グッズコーナー」ものぞいていただきたい。

「陸上自衛隊の駐屯地に近いから」という理由で始まったこのコーナーでは、コップ一杯の水があればすぐに熱々のご飯が食べられる「ミリメシ」や、災害備蓄用の缶入りパン、なぜか陸自/海自/航自のウエアを着ている自衛隊オリジナルキューピー人形など、見ているだけでもちょっと楽しくなるグッズが豊富に揃っている。店長の宮下弘明さんによれば立ち寄るたびに1個ずつグッズを購入し、「コンプリート」を目指しているトラックドライバーさんも多いのだとか。

▲ショッピングコーナーになぜか突然現れる自衛隊グッズコーナー。シブい ▲ショッピングコーナーになぜか突然現れる自衛隊グッズコーナー。シブい
▲ウイングマーク付きの航空自衛隊制服を着たキューピー人形。他に陸自戦車隊員キューピーや海自キューピー、さらには「ヒゲの隊長キューピー」など様々な種類が展示販売されている ▲ウイングマーク付きの航空自衛隊制服を着たキューピー人形。他に陸自戦車隊員キューピーや海自キューピー、さらには「ヒゲの隊長キューピー」など様々な種類が展示販売されている

いずれにせよ茫漠とスルーするにはあまりにも惜しい、地味だけど滋味あふれる上下線のすばらしき境川PA。騙されたと思ってぜひ一度、メシ時に付近を通る際はお立ち寄りいただきたい。


【中央自動車道 境川PA(上り線)スナックコーナー】
営業時間:午前7時~午後10時
定休日:なし

【中央自動車道 境川PA(下り線)スナックコーナー】
営業時間:午前7時~午後8時(※ショッピングコーナーは24時間)
定休日:なし

※2016年3月24日時点の情報です。上記は変更される可能性があります。ご了承ください

text&photo/伊達軍曹