東京オートサロン2025▲1月に幕張メッセで開催された“カスタムカーの祭典”東京オートサロン2025を訪れ、世界的流れにも通じるカスタムカーの現状やトレンドなどを考察した

大規模イベントのトレンドは趣味性の高い“ミーティング”へ

1月10~12日に幕張メッセにて「TOKYO AUTO SALON 2025(東京オートサロン2025)」が開催された。主催者発表によれば総入場者数が25万8406名であったという。訪れた初日の午前中は、メディアおよび関係者を対象としたサイレントタイム。チケット販売はないが、会場はゲートオープンから人の山であった。

会場に足を踏み入れると、オートサロンらしい熱気にテンションが高まるのを感じた。しかし、コロナ禍以前の2019年あたりの入場者数は軽く30万人を超えていたことを考えると、今回の混雑具合はまだまだという感じかなのもしれない。だが実際、筆者が2024年10月に訪問したイベント人口密度ではトップを争うイタリアのオートデエポカなどと比べても、東京オートサロンの混雑具合は相当なものだ。プレスカンファレンスが開催されるときの密度も高く、特に愛知県のカスタムショップ「リバティウォーク」のそれには驚くほどの人垣ができていた。ちなみに、彼らが出展したランボルギーニ ミウラのスペシャルバージョンは、出展車両から一般投票を元にグランプリを選ぶ『東京国際カスタムカーコンテスト2025』インポートカー部門の最優秀賞に選ばれた。
 

東京オートサロン2025▲『東京国際カスタムカーコンテスト2025』インポートカー部門の最優秀賞に選ばれた、リバティウォークの「LB シルエット WORKS GT ミウラ」

目についたのはアジア系を中心とした外国人の来場がとても多いことだ。今年はバンコク、クアラルンプールにて「TOKYO AUTO SALON KUALA LUMPUR 2025(東京オートサロン・クアラルンプール2025)」、そして「BANGKOK AUTO SALON(バンコクオートサロン)」、さらに中国・北京の『オールインチューニング(AIT)』を特別後援サポートすることを主催者が発表しているように、アジア圏の顧客開拓にも長年力を入れているという背景もそこにある。

いわゆる国際モーターショーがその存在感を弱め、趣味性の高い自動車ミーティングへと大規模イベントが移行しているのが現在のトレンドだ。パリやフランクフルトショーがローカルなイメージを強め、カロッツエリアを中心とした少量生産メーカーがその存在をアピールしていた独特なジュネーブモーターショーですら、終焉となってしまった。

ヨーロッパにおいてはパリのレトロモビルや、エッセンのテクノクラシカ、ボローニャ オートデエポカ(2022までパドヴァで開催)などのクラシックカーショー、北米ではペブルビーチ コンクール デレガンスといったクラシックカーイベントが大きな存在感を見せており、自動車メーカーもそういったイベントにおいてブランドイメージを発信する傾向が強まっているし、一般客の動員数もうなぎ上りだ。
 

メーカー系チューンはレース活動をアピール

会場を巡回していると、たくさんの韓国人ジャーナリストの知り合いに遭遇した。聞いてみると毎年必ず東京オートサロンへは取材にやって来るという。「韓国は改造車への関心がそれほど高くはないですが、日本のスポーツカーへの関心はとても高いです。このイベントはたくさんの見どころがあり、とても気に入っています」とH氏。加えて東京オートサロンの、凝縮された各ブースのディスプレイが面白いとのこと。韓国は車全体に関しての関心は高いが、改造車やモータースポーツへの関心が一般論として思いのほか低いため、東京オートサロンを日本の自動車文化の典型とみなしているのだ。

各スタンドの高い凝縮感とは言いえて妙なりだ。海外のイベントと比べると、スペースに無駄がないようにノウハウを生かしたディスプレイが圧倒する。極小ブースでも、恐ろしいほどの情報量があり、真剣に見て回ると疲れてしまうほどである。お祭り騒ぎのような海外のイベントと比べると例年の改善が生かされた完成度の高い展示が見られる。
 

東京オートサロン2025▲小さいブースでも、無駄なスペースのない展示で情報量が多い
東京オートサロン2025a▲屋外ではデモランなどが行われ、ここでもメーカーはレース活動への関与をアピールした

東京オートサロンがいわゆる改造車の祭典というコンセプトから誕生したことは言うまでもない。しかし、現行モデルでチューニングを楽しむことはそう簡単ではない。エンジン制御に手を加えたり、ホイールをサードパーティ製に変えたとなれば、メーカーのサービスを受けることはできなくなってしまうからだ。日本は比較的、これらのチューニングに対する許容度が高い時期を経験したことで、“プチ改造”ビジネスの大きなマーケットを作ることができた。しかし、ヨーロッパの例をとってみると、そういったチューニングへの制約が激しくなり、その結果としてネオクラシックのブームが大きくなっている。DIYで手を加えた車をマニュアルシフトで楽しみたいとなると、必然的にネオクラシックがフィーチャーされるという訳だ。

今回のオートサロンにおいて、メーカーはこぞってレース活動への関与をアピールした。チューニングするなら、サーキットや公式なラリーフィールドで楽しんでほしいという方向性は間違っていない。そして独立系のショップやパーツサプライヤーはネオクラシックに力を入れていくという流れも一つのトレンドとなる。東京オートサロンという素晴らしい日本の自動車文化がより広く知られ、次世代の車好き誕生の原動力となることを願うばかりだ。
 

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文=越湖信一、写真=越湖信一、東京オートサロン事務局、トヨタ
越湖信一

自動車ジャーナリスト

越湖信一

年間の大半をイタリアで過ごす自動車ジャーナリスト。モデナ、トリノの多くの自動車関係者と深いつながりを持つ。マセラティ・クラブ・オブ・ジャパンの代表を務め、現在は会長職に。著書に「フェラーリ・ランボルギーニ・マセラティ 伝説を生み出すブランディング」「Maserati Complete Guide Ⅱ」などがある。