▲自動車部品に活用すれば、将来的にはマイナス25%の軽量化につながるともいわれている(写真はイメージ)▲自動車部品に活用すれば、将来的にはマイナス25%の軽量化につながるともいわれている(写真はイメージ)

軽くて強度も高いセルロースナノファイバー

未来の車といえば、自動運転が最大の注目を集めている。それに続くのが、水素自動車や電気自動車といったところだろう。しかし、一般ユーザーには注目されないところでも、大きな進化が見込まれているものがある。それは、車体の軽量化だ。

いうまでもなく、軽量化は燃費性能に直結する重要な部分。新型スポーツカーやスーパーカーでは、従来比における軽量化の割合は大きなトピックスとなる。 軽量化の大きなポイントは素材選び。高級車のエンジンにアルミが使われたり、車体にカーボーンが使われたりするのは、軽くて強度が高いからである。そんな中、新素材として注目されているのが、植物を由来とした素材「セルロースナノファイバー」だ。

セルロースとは木や草から抽出された繊維由来物質。直径が数ナノメートル(1/10億m)なので、「セルロース“ナノ”ファイバー」、略して「CNF」と呼ばれる。

強度は鋼鉄の5倍ながら密度は1/5。それは、強くて軽いということだ。例えるなら、炭素繊維に近い軽さと強度を誇る。また、熱を加えても伸び縮みしないので、自動車部品などにも適している。木材が豊富な日本ならCNFの資源も豊富なので、将来的な活用に大きな期待が持たれている注目の素材なのだ。

軽量樹脂とセルロースナノファイバーを組み合わせる

「日本再興戦略改訂2014」では、「セルロースナノファイバー(超微細植物結晶繊維)の研究開発等によるマテリアル利用の促進に向けた取組を推進する」と位置づけられた。NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)では「セルロースナノファイバー強化による自動車用高機能化グリーン部材の研究開発」というプロジェクトが進行している。

そのプロジェクトによると、現在、燃費向上のために車に多用されている素材「ポリプロピレン(PP)」や「ポリエチレン(PE)」といった軽量樹脂に「CNF」を複合化させることで、より軽量化を実現。さらに、10~15%添加することで、樹脂の強さが3~4倍にまで向上し、強度も増すという。

そんな夢のような素材が、なぜ今まで活用されなかったのか。実は「CNF」の表面は親水性なのだが、これは、相溶性である自動車用樹脂とは馴染みが悪く、複合化が難しかったのだ。しかし、近年、自動車用樹脂中に「CNF」を均一に分散できる表面修飾技術が開発されたことで、実用化に弾みがついているという。

セルロースナノファイバーを手掛ける製紙各社

植物を由来の繊維なので、製紙各社も「CNF」に大きな期待を寄せて、量産体制を整えている。一部報道によると、日本製紙は現在の年間生産能力30トン以上を10倍に、中越パルプ工業も10倍に高めてるという。量産が実現すれば、製造コストも引き下がる。

▲日本の国土のおよそ7割は森林なので、CNFが実用化すれば資源を有効活用できる。自動車分野のみならず、家電や建材、包装・容器など、幅広い産業分野での実用化が期待されている▲日本の国土のおよそ7割は森林なので、CNFが実用化すれば資源を有効活用できる。自動車分野のみならず、家電や建材、包装・容器など、幅広い産業分野での実用化が期待されている

あくまで予測だが、2030年のCNFの価格は500円/kg、CNF強化PPの価格は430円/kgまで下がるともいわれている。ちなみに、近い軽さと強度である炭素繊維は、2025年頃には 2000~3000円/kgといった予測もある。もし、内装材・外装材の30~50%のセルロースナノファイバー強化樹脂で代替できれば、市場規模は、年間3600億~6000億円になると想定されている。

自動車部品に活用すれば、将来的にはマイナス25%の軽量化を可能にするかもしれない「CNF」。燃費性能の向上は、CO2排出量の削減につながり、環境にも貢献できる。折しも、昨年末に国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)でパリ協定が採択されたばかり。温暖化に対して自動車メーカーが負う責任も大きくなっていくだろう。そんな状況だけに、「CNF」の今後の展開に注目が集まっている。

text/笹林司
photo/PIXTA