▲茨城県内で2012年に発生した夜間の死亡事故では、その半分はヘッドライトがハイビームならば回避されていた可能性が指摘されている ▲茨城県内で2012年に発生した夜間の死亡事故では、その半分はヘッドライトがハイビームならば回避されていた可能性が指摘されている

夜間の基本はハイビームだって知ってましたか

最近では結構有名になってきた「夜間はハイビームが基本」という事実。道路交通法では、対向車とすれ違うときや前方に車がいるときにロービームへと切り替えるのが、ヘッドライトの正しい使い方なのだ。

なぜ、ハイビームでの運転が必要なのか。それは、照射距離が大きく関わっている。ロービームの照射距離は約40m。一方、ハイビームは約100m。時速60kmでの停止距離は約40mなので、下向きの場合、歩行者がライトに照らされた時点では事故回避が困難な場合が多いという。

しかし、正直、運転中に頻繁にヘッドライトを切り替えるのは面倒……。なんて不謹慎なことを思っていたら、最近の車ではテクノロジーの進化によって、ヘッドライト切り替え問題が解決されているのだとか。

照らしたいところだけハイビーム。最新技術が凄い

一般的なのは、自動的にロービームとハイビームを切り替えるシステムで、トヨタ、日産、ホンダ、スバル、三菱などが採用。どのメーカーも、基本的には前方や周囲の明るさから対向車や先行車をカメラが検知して、ハイビームとロービームを自動で切り替えてくれる。

さらに進化したヘッドライトは、対向車を照らす部分だけをロービームにするというもの。有名なのはAudiの「マトリックスLEDテクノロジー」だ。多数の独立したLEDで構成された「LEDハイビーム」を用いることで、対向車や前方を走る車に直接当たる部分はロービームに切り替え、それ以外のゾーンはハイビームでフルに照らし続けるということが可能になった。

▲ライトは個別に制御できる発光ダイオードとクリスタルのような光沢を有し、高精度な明かりを提供。写真はS6のヘッドライト ▲ライトは個別に制御できる発光ダイオードとクリスタルのような光沢を有し、高精度な明かりを提供。写真はS6のヘッドライト

日本の自動車メーカーでは、マツダの「ALH(アクプティブ・LED・ヘッドライト)」がほぼアウディと同じ考え方を採用している。ハイビームは、4ブロックに分かれたLEDを個別に点灯・消灯可能で、フロントガラスに設置したカメラで対向車のヘッドランプや先行車のテールランプなどを検知すると、その部分を含むブロックのLEDを消灯して照射範囲をコントロールしてくれる。

▲ALHは、対向車に対する防眩だけでなく、約40km/h以下での走行時に、従来のロービームでは光が届かなかった左右方向をヘッドライトの外側に備えたワイド配光ロービームで照らし、夜間の交差点などでの視認性を高める機能なども備える ▲ALHは、対向車に対する防眩だけでなく、約40km/h以下での走行時に、従来のロービームでは光が届かなかった左右方向をヘッドライトの外側に備えたワイド配光ロービームで照らし、夜間の交差点などでの視認性を高める機能なども備える

トヨタがレクサス車やクラウンに採用している「AHS(アダプティブ・ハイビーム・システム)」は、それらとが仕組みは異なる。AHSはインナーミラーに搭載した前方カメラで、先行車のテールランプや対向車のヘッドライトを判別。前方車両や対向車両に光が当たる部分のハイビームだけ遮光板で自動的に遮ることができる。

さらに、BMWは、今までのライトと比較して照射距離で2倍、明るさで5倍の性能を持つ、i8や新型7シリーズに採用された「レーザーライト」の進化形「M4 Concept Iconic Lights」を発表。ナビと連動してカーブ前方の照射や歩行者への選択的なスポットライト照射、最大で100m先に存在する人や動物を検知しドライバーへの警告などを可能にした。

▲写真はBMW「M4 Concept Iconic Lights」 ▲写真はBMW「M4 Concept Iconic Lights」

暗闇を照らすという超基本的な性能であるライト。ハロゲン、ディスチャージ、LEDと光源は進化し続けたが、センサー技術の進化によって、その光をしっかりと制御し、見るべき場所を見やすく、他の車や歩行者の邪魔にならないように照らすことができるようになってきた。安全装備では自動ブレーキなどが注目されがちだが、ライトの進化も重要だ。

text/笹林司