▲運転車が粗暴だと、正直、一緒にドライブしているこちらも嫌な気分になる ▲運転車が粗暴だと、正直、一緒にドライブしているこちらも嫌な気分になる

車に乗ると発生する「ドレス効果」とは?

普段は温厚でとっても良い奴なのに、なぜか車を運転するときは言動が粗暴に……。前の車を煽ったり、歩行者に舌打ちをして暴言を吐いたり、そんな友人やパートナーに覚えがある人は意外に多いのではないだろうか。もしかしたら、気づいていないけど、あなた自身もそういった側面があるかもしれない。

実際、「ハンドルを握ると性格が変わる」というのは良く耳にする表現。一体なぜ、このような変化が起こるのか。

「それは“ドレス効果”が理由のひとつです」と教えてくれたのは、心理学者の内藤誼人。ドレス効果とは、エレガントさをなんとなく感じさせるが、どのような効果なのだろう?

「簡単にいえば、制服を着ることで別人格が生まれる、という効果です。例えば、警察官や消防士が勇敢なのもドレス効果のひとつだと言われています。また、スーツを着ると仕事のスイッチが入る、というのも同じ理由でしょう」

▲警察官や消防士が勇敢なのは、日々の絶え間ない訓練に加えて、制服によるドレス効果があるという ▲警察官や消防士が勇敢なのは、日々の絶え間ない訓練に加えて、制服によるドレス効果があるという

内藤先生によると、パワーがあって速い車や車体が大きい車などに乗った場合、その車の強さを無意識のうちに自分と重ね合わせてしまうことがあるのでハンドルを握って性格が変わる、ということが起きやすいのだとか。

「これらのドレス効果に加えて、周囲の車が目に入ることで競争心を煽られ元々の性格がより強く表れることも、ハンドルを握って性格がかわる理由だと思います」

▲エアロパーツを付けたりしてカスタムを施すのも、“ドレス効果”につながるという ▲エアロパーツを付けたりしてカスタムを施すのも、“ドレス効果”につながるという

しかし、ハンドルを握って強気になる話はよく聞くが、弱気になるとはあまり耳にしないような気が……。

「逆に、普段はスポーツカーや大きな車に乗っている人が代車などで軽自動車に乗ると、“逆ドレス効果”が生まれることがあります。映画にもなった有名な心理実験であるスタンフォード監獄実験では、囚人の衣装を着せられた被験者は弱気になったという結果もあります」

逆に、看守の制服を着て権力を行使する側の被験者は、その行動がエスカレートして、囚人役を躊躇なく虐げていったとのこと。ドレス効果、恐るべし。

▲サービス業においては、肌を露出する半袖シャツの方が長袖よりも店員が弱気になるという実験結果もあるのだとか ▲サービス業においては、肌を露出する半袖シャツの方が長袖よりも店員が弱気になるという実験結果もあるのだとか

「ハンドルを握っても性格が変わらないためには、違反して切符を切られる、事故を起こしてしまうなど、リスクを鮮明にイメージすることが大事。事故や違反の経験者や仕事で車を使っている人は、万が一のリスクをイメージできるので、あまり無謀な運転にはならないと思いますよ」

高速道路のトイレに貼ってある事故現場の写真や自動車教習所や免許更新の講習で見せられる事故のビデオは、意外に(←失礼)効果があるのかもな~。なにはともあれ、普段も運転中も、穏やかにいきたいものだ。

【取材協力(敬称略)】
内藤誼人(ないとう・よしひと):心理学者、アンギルド代表、立正大学客員教授。心理学を応用した実践的なノウハウに着目した著書多数。近著に『同性にモテる技術』(中公新書ラクレ)、『人はなぜ、「そっち」を選んでしまうのか』(青春出版社)など

text/コージー林田 photo/pixta