▲Toyota Safety Sense Cはレーザー+カメラの組み合わせ。主にセンサーはレーザー/ミリ波/カメラの3種類があり、それぞれメリットとデメリットがある。レーザーはミリ波より遠くの対象物の検知に優れ、低コスト。ミリ波はレーザーほど遠くの対象物を捉えにくいが、近くなら対象物の認知力に優れる。カメラは他の2つより対象物をはっきりと捉えられるが、単眼では距離を測りにくい ▲Toyota Safety Sense Cはレーザー+カメラの組み合わせ。主にセンサーはレーザー/ミリ波/カメラの3種類があり、それぞれメリットとデメリットがある。レーザーはミリ波より遠くの対象物の検知に優れ、低コスト。ミリ波はレーザーほど遠くの対象物を捉えにくいが、近くなら対象物の認知力に優れる。カメラは他の2つより対象物をはっきりと捉えられるが、単眼では距離を測りにくい

誤発進抑制機能を選ばなかった理由とは!?

編集部員山田(以下、Y):後出しジャンケンじゃないですか~
ぴえいる(以下、ぴ):フフフ、勝てばいいんだよ、勝てば(キラッ!)

そう言って後席にふんぞり返った私を乗せ、しぶしぶハンドルを握った山田くんが向かったのは、トヨタ カローラフィルダー/カローラアクシオのプレス向け試乗会だ。

衝突被害軽減ブレーキ、いわゆる自動ブレーキは今や軽自動車にも備わるなど百花繚乱の様相を呈している。一見、2014年暦年(1~12月で世界販売台数No.1に輝いたトヨタが“いよいよ”このトヨタカローラフィルダー/カローラアクシオから本格的参入を始めるように見えるが、実はトヨタ“こそ”が自動ブレーキの先駆者だったという。今回は、トヨタの性能実験部の宇高さんに伺った話をお伝えしたい。

Y:衝突被害軽減ブレーキを含む予防安全パッケージ「Toyota Safety Sense C」ですが、これはレーザーとカメラを使ったシステムですよね。これで5万円+消費税はお買い得な感じがします。
ぴ:機能としては衝突回避支援型プリクラッシュセーフティシステム(PCS/衝突被害軽減ブレーキ)+レーンデパーチャーアラート(LDA/車線逸脱警報機能)、オートマチックハイビーム(AHB/ハイビームで走行中に対向車などを検知すると自動でロービームに切り替わる機能)ですが、この3つを選んだ理由は何ですか?
宇高さん:もともとトヨタには昔から「自動車による死亡事故を減らしたい」という思いと「いかにドライバーに“過信をさせない”か」という考えがありました。例えばPCSはシステムの作動域を約80km/hまでにしています。これは死傷者を減らす目的からすれば、低速域だけではなく一般的な走行時までをカバーしたかったからです。

▲衝突回避支援型プリクラッシュセーフティシステム(PCS/衝突被害軽減ブレーキ)の警報のタイミングは、対象物からの距離をもとに3段階から選べる。これは警報が早く鳴りすぎるのを嫌う人もいるだろう、という考えからだ(写真はカローラフィルダーの設定画面。表示は車によって異なる) ▲衝突回避支援型プリクラッシュセーフティシステム(PCS/衝突被害軽減ブレーキ)の警報のタイミングは、対象物からの距離をもとに3段階から選べる。これは警報が早く鳴りすぎるのを嫌う人もいるだろう、という考えからだ(写真はカローラフィルダーの設定画面。表示は車によって異なる)
▲警報を中間のタイミングにして30km/h走行で体験。自動ブレーキは相対速度(自車と対象物の速度差)が30km/h以内ならば衝突を回避・軽減する

安全装備がドライバーに過信させてはいけないという考え

ぴ:過信をさせない、というのは?
宇高さん:自動ブレーキ、いわゆる強制ブレーキも大切ですが、その前にきちんと警報が鳴れば、多くのドライバーはハンドルを切るなり、ブレーキを踏むなり何らかの回避行動を行います。それだけで結構な割合で事故を減らすことができるのです
Y:自動ブレーキにすべてを委ねるのではなく、ドライバー主体で事故を防ぐと。最近話題の自動運転とは違うわけですね
宇高さん:LDAは50km/h以上で走行中に車線を逸脱すると警報ブザーを鳴らします。AHBもより遠くが見えるようにすれば、ドライバーも危険を察知しやすくなるという考えからです
ぴ:危険な速度域で、ドライバーに早く気づかせることが重要だと
宇高さん:衝突被害軽減ブレーキで言えば、まず気づかせて、次にサポート、最後の手段で自動ブレーキ、という順番です
Y:だから衝突被害軽減ブレーキは、警報の後にドライバーがブレーキを踏むとブレーキアシスト機能が働くわけですね
宇高さん:実は以前調査した際に、私たち技術者からするとビックリするくらい多くの人がブレーキを強く踏めないことがわかったんです
ぴ:そういえばYくんは今までABSが効くほどブレーキを踏んだことがないだろ?
Y:言われてみれば確かに……(汗)
宇高さん:我々としては最終手段を必要とするほどの危険まで近づかせないことが目標です。そう考えると、今回の3つの機能は優先順位が高かったのです
ぴ:なるほど。それで駐車場などでアクセルの踏み間違えによる事故を防ぐ誤発進抑制機能より、今回の3つの方を優先したというわけですね
宇高さん:加えて、価格とのベストバランスを考えると今回の3機能となり、それを叶えるレーザー+カメラという組み合わせになったというわけです。ちなみに、より多機能なミリ波+カメラの組み合わせとなる「Toyota Safety Sense P」を搭載する車も今後登場しますが、トヨタでは2017年末までに日本、北米、欧州のほぼすべての車にCかPのToyota Safety Senseを設定していく予定です

▲裏に見えるバックミラーと比べるとわかるように、レーザー+カメラのセットがコンパクト。「車以外の対象物を間違えて検知するなどの誤作動をいかになくすかが大変でした」と宇高さん ▲裏に見えるバックミラーと比べるとわかるように、レーザー+カメラのセットがコンパクト。「車以外の対象物を間違えて検知するなどの誤作動をいかになくすかが大変でした」と宇高さん

世界初の自動ブレーキは、トヨタだったかもしれない!?

宇高さん:実は今回のPCS、衝突被害軽減ブレーキの原型は、トヨタが2003年に世界で初めて発表した技術なんですよ
Y:あ! 2代目ハリアーに用意されたプリクラッシュセーフティシステムは、ミリ波レーダーを使って衝突物の位置、距離、速度を検知し、衝突を防ごうとドライバーがブレーキを踏んだ際にブレーキアシストが働いたりする機能ですよね!
ぴ:え、でもそれ自動ブレーキじゃ……
Y:(被せるように)トヨタはABSも約20年前に全車装備が完了していて、VSC(横滑り防止装置)は国土交通省が2010年に義務化する旨を発表したけれど、それより前の2007年にトヨタは全車種に設定していくと宣言しているんです。ハイブリッドや燃料電池車だけでなく、トヨタは安全“も”先進的なんです
宇高さん:(苦笑)

――取材が終わり、現場を後にしてから、やっぱり気になったのでYくんに聞いてみた。

ぴ:そうは言っても2003年の世界初のシステムって、自動で止まらないんでしょ?
Y:いや、衝突を防ぐためにブレーキアシストを使うことができれば、技術的には自動ブレーキだっておそらくできたか、少なくとも考えてはいたはずです。でも、当時は先進的すぎて国土交通省も「車が止めるべきか、それともあくまでドライバーの裁量下に置くべきか」と喧々諤々だったとも、噂されていて……
ぴ:あ! そういえば以前スバルのアイサイトを取材した際も、国の認可を得る際の話になると若干言葉を濁していたような? 国としては当然、許可に慎重にならざると得ないから時間がかかったのかな
Y:そうこうしているうちに海外からボルボがきて……という感じかもしれませんね。ともかく、トヨタの安全に対する先進性はわかりました! ぴえいるさんと違って後出しジャンケンじゃないんですから……
ぴ:え? まだ根に持ってたの?

text/ぴえいる