2008年に新型キューブが発表されたとき、四角い車が好きな私は「何でキューブまで丸くなっちゃったんだろう・・・」とすごくさびしい気持ちになったのですが、そもそも車のデザインは誰がどのように決めているのか気になったことはありませんか?
そんな中、2009年2月27日。日産デザインセンターにて「インタラクション デザイン ワークショップ」が開催されました。 これは車のデザインの秘密に迫るチャンス! と思い、日産デザインセンターへ行ってきましたので、リポートしたいと思います。

日産のデザインがギュッと詰まった研究車両を大公開!

日産が提唱するインタラクション デザインとは「人の感じ方をデザインすること」で、わかりやすく言えば「人が車とかかわる時に、すべての要素がスムーズで魅力的に感じられるデザイン」のこと。例えば、乗り慣れていない車に乗ったときのシートの位置調整やウインドウ開閉スイッチに戸惑ったことはありませんか?
そんな困り事を解決し新しいデザインとして提案しているのがインタラクションデザインなのです。と、言葉で説明されてもピンとこないですよね。 百聞は一見にしかず。実際にインタラクション デザインから生まれた車両を見てみましょう。

写真は今回初公開となる研究車両BUI-2(Best Usability Interior-2)。
ザ・ワールド・オブ・ゴールデンエッグスのキャラクターのCMでお馴染み、ノートをベースに、ユーザーの観察・調査から発想したデザインがたくさん詰め込まれている車両です。写真をよく見てみてください。これまでの車のインテリアと明らかな違いがわかりますか?
インテリアデザイン研究車両BUI-2|日産インタラクティブデザインワークショップ
↑日産のデザインのすべてが詰まった研究車両BUI-2(Best Usability Interior-2)のインテリア

インタラクティブデザインを体験!

このBUI-2をはじめ、新型キューブ、新型フェアレディZ、ティアナなど計4台を使って、それぞれのインテリアを実際に見て、触って、感じて、体験することができました。
インタラクション デザインとはどういうものなのかを、部分を絞ってさらに詳しく見ていきましょう。

・オープンフォント~見やすいフォントってなに?~

メーターがデジタルか、それとも針なのかといった違いは私でも気にしますが、その中に組み込まれているフォント(文字の形)のことまではあまり気に留めている人は少ないのではないでしょうか?

日産ではこれまで使用していた文字の端部をより開いた形にし、これまで区別がつきにくかった「6」と「8」などがハッキリわかるようにデザインし直しました。これを「オープンフォント」と呼んでいます。
普段視力には自信がある人も、この季節の花粉や、長時間の運転では見え方にも多少影響が出てくる。こういったことに対応してオープンフォントが採用されているのです。
オープンフォント|説明 オープンフォント|体験
↑日産がより見やすいフォントとしてデザインした「オープンフォント」(写真左)/視界が悪くなるテスト用のメガネをかけて「オープンフォント」を体験中。
 

・気持ちいい触り心地ってなに?

感性品質のデザインとは「見て、触って、使って実際に感じる良さ」をデザインすることです。しかし、オープンフォントのような視覚的な要素とは違って他人と共有するのは少し難しいもの。
そこで、素材を選ぶのに「品質のOK基準」なるものをパネルにしてデザインチーム全体で共有してるそうです。

例えば車のインテリアで触れる割合が多いシート。普段デザイナーたちがなんとなく感じる「このソファ良いね」とか「これはちょっと頂けないな」という感想を、言葉ではなく実際に触れてわかるようにしたものが「品質OK基準」のパネルです(下写真左)。
また、触り心地だけでなくクッションの弾力性も硬さの違うそれぞれの見本を作り、ヒジを置く部分はこの硬さ、手首に近いほうはこの硬さなど、体が触れる部分に応じて硬さを選ぶなど細かい配慮が施されています。
デザイナー同士で「感覚」を共有し合うことで、より「気持ちいい」を作り出しているんですね。

感性品質|説明 感性品質|体験
↑「品質のOK基準」のパネル(写真左)/シートの弾力性を比較する見本(写真右)

・誰にでもやさしい車ってなに?

高齢化社会に適応する乗降性や操作性を評価するためには「エイジングスーツ」を使用するそうです。エイジングスーツとは、わかりやすく言えば「おとしより体験用具」といったところでしょうか。

スーツ着用時の想定は70~80歳ですが、高齢者に限らず体に不具合が生じたときの乗降性や操作性も視野に入れて評価しているのだとか。
すべての器具を着用すると、視界はぼやけ、手足は重くうまく上がらず、手の感覚は非常に鈍くなる。こうした厳しい条件下でも使いやすい車が真の優しい車なのかもしれませんね。
エイジングスーツ|全容 エイジングスーツ|体験 
↑エイジングスーツの全装備(写真左)/エイジングスーツを着用し車の操作性を体験。「おじいちゃん・・・だいじょうぶ???」(写真右)

・すでに実用化されている新しいデザインのインサイド ドアハンドル!

以前、取材で新型キューブに試乗した際にすごく興味をもった新しい形のインサイド ドアハンドル(車内から開ける際に使用するドアノブ)。
試乗したときは、キューブのコンセプトや内装に合わせてデザインされたものだろうとばかり思っていたのですが、実は日産の社内で行った調査で、 例えば、助手席に座った人がドアを開けるとき、右手を使う人もいれば左手をを使う人もいることに気づき、開発されたものだったのです。

そんな無意識の動作にも対応し、どちらの手でも開けやすい形状を研究した結果、生まれたアイデアがこの形。すでに新型キューブや新型フェアレディZにも採用されています。
今までのデザインとガラリと変わっているけれど、従来の車のイメージを壊さずしっくり収まっているところがすごいですね。
くフェアレディゼット|インサイドドアハンドルCube|インサイドドアハンドル
↑すでに実用化されているインサイド ドアハンドル。新型フェアレディZ(写真左)/新型キューブ(写真右)
 

インタラクションデザインで車はもっと変わっていく!

見やすいフォントも、気持ちのよい素材も、乗り降りしやすい設計も、使いやすいドアハンドルも、全ては人の為。
パッと見は斬新なデザインに見えても、蓋を開けてみたら常にユーザー目線であるインタラクション デザイン。車はただ走ればよいという時代から、より人と生活に密着した乗り物に変化したんだなという印象を強く受けました。今は目新しいデザインに見えても、これからこの形がスタンダードになっていくのだと思うと、なんだかワクワクしてきませんか?

そういえば、顔が丸くなってしまった新型キューブは車体が受ける空気の抵抗を計算してあの丸い形になったのだそう。空力性能の向上は、結果的に燃費向上の要因の一つになったとか。私は四角い車の方が好きだけど、このほうが燃費が良いといわれるとあんまり反論できなくなってしまいますね。
ちなみに新型キューブの顔は、ブルドッグにサングラスをかけたイメージでデザインされたそうですが、そう言われてみると確かに先代よりもヒューマニックな顔立ちをしていて、なんだか愛着が沸いてきました。
奇抜なデザインよりも、人の感覚に訴えかけるデザインの方が受け入れられる、そういう時代の流れなのかもしれません。

<Report/カーセンサーnet編集部>