WRC

現在販売中のカーセンサー2023年1月号特集ページでは「いま欲しい! ラリーカー血統の4WD」をテーマに、グループA時代からWRCをさかのぼり4WDを鍛え上げられた車たちを紹介しています。ここでは、12年ぶりに開催となったWRC(世界ラリー選手権)の日本ラウンド「ラリージャパン」の様子をレポート。
 

WRC(ワールド・ラリー・チャンピオンシップ)とは?

イベントリポートの前にWRCとは何ぞや? とお思いの読者の方々へ簡単な紹介をしたいと思います。

WRCとはFIA(国際自動車連盟)が定めた世界選手権のひとつでして、格式的にはF1やWEC(世界耐久選手権)と並ぶ、プライオリティレベルが最高ランクのスプリントラリー競技です。

文字どおり、世界選手権なので人気も高く「観客の数が多すぎ」という理由でステージがキャンセルされることもしばしばあるほど。
 

WRC▲競技車両と観客との距離が近いのもWRCの特徴! リエゾン(SS以外の移動区間)でも多くの観客が出迎えています

そんな大人気のWRCでは、走るラリーカーも世界一。現在のトップカテゴリーは、パイプフレーム構造のボディにプラグインハイブリッドシステムを搭載した、「ラリー1」というカテゴリー。システム出力が500馬力以上という、モンスターマシンたちがタイムアタックで競い合います。

実質メーカーワークスの戦いとなるトップカテゴリーのラリー1には、現在3チームがエントリー。韓国のヒョンデ、アメリカのフォード、そして日本のトヨタです。そのトヨタは今季、チャンピオンシップのマニュファクチャラーズ/ドライバーズ/コ・ドライバーズの3タイトルすべてを獲得。今季の最終戦であるラリー・ジャパンは、凱旋ラリーとなりました。
 

地元開催となる勝田選手がラリージャパン3位入賞

実は日本開催自体は2020年から決まっていたのですが、例のパンデミックの影響で2年間お預けがあり、3度目の正直での開催となったラリージャパン。拠点は12年前に開催された北海道から愛知・岐阜の中京地区へと移動するとともに、路面もグラベル(未舗装路)からターマック(舗装路)へと変わりました。

そんな中、始まったラリージャパンはDAY1のオープニングSSからアクシデントが続出する波乱の展開。SS1では日本で唯一FIA世界チャンピオンを獲得したドライバー新井敏弘が、スタート直後500mほどの地点でクラッシュ。コ・ドライバーの田中直哉とともに救急搬送されるほどの負傷で、後にスタートする全エントラント(競技参加チーム)は走行ができずステージキャンセルされました。
 

そして、DAY2にもヒョンデワークスのラリー1カーがSS走行中に炎上。下位カテゴリーWRC2クラスのチャンピオン争いをしていた一人がクラッシュしたりとアクシデントが続出する展開に。さらに、一般車両がコース内に侵入するという信じられないハプニングまで起こり、2日間の全7ステージ中まともに全クルーが走行できたのは1本のみという状況になってしまいました。
 

WRC▲炎上してしまったヒョンデ、ダニ・ソルド選手のマシン。幸いにもクルーは無事だった

ラリーのエントラントは、ラリー1のワークスチームだけではありません。下位カテゴリーのWRC2クラスや、今回は普段日本のラリーに参戦しているチームも出場しています。ラリーのスタートは、基本的に車が速い順(ラリー1の後にラリー2)のため、今回のようにトラブルがひとつ発生すると、SSの走行に影響が出やすくなってしまうのもWRCの特徴です。

今回のラリージャパンでは、レッキ(ラリー前のコース試走)の段階で「トラブルは起きるだろうと予測できた」というクルーからの声もちらほら。
 

WRC▲走行時の砂煙が滞留して視界不良となった旧伊勢神トンネル

幸いにも、その後のステージで大きなアクシデントもなく、キャンセルSSも1本のみでほぼ予定どおりに進行。しかし、ラリー1勢ではトヨタのクルーが3車パンクに見舞われ大きくタイムロスとなりました。

最終日のDAY4では、降雨の影響でクルーを悩ませたのがタイヤ選択。そんな中、トラブルなく走行できたヒョンデのティエリー・ヌービルが見事にラリー・ジャパンを制しました。2位も同メーカーのオィット・タナックが入り、ヒョンデは1-2フィニッシュ。そして、地元の期待を一身に背負って4日間を戦い抜いた勝田貴元が、3位表彰台を獲得しました。
 

WRC▲ラリージャパンを制したヒョンデのティエリー・ヌービル選手(右)
WRC▲勝田選手も3位入賞を果たす

トヨタ GRヤリス ラリー2がお披露目

90年代のWRCを知っている人なら「市販車ベースの日本車がいっぱい出場している」イメージの方も多いと思います。しかしながら、現在のWRCではトップカテゴリーの日本車はGRヤリス ラリー1くらいしか参戦していないのが現状。

しかも、ラリー1はパイプフレーム構造のプロトタイプであり、市販車とはちょっとかけ離れた存在。グループAやNの頃とはだいぶ背景が変わっていることもあり、世界レベルで見ても日本車をラリーの一線で走らせているチームはほぼありません。

それはWRCのみラリー1の車両がトップカテゴリーとなり、その他のヨーロッパ選手権(ERC)などのリージョナルシリーズや、各国で開催される国内選手権ではラリー2がメインとなっているという背景があり、多くの参加台数を集めています。

しかし、現在ラリー2カーを製造するメーカーは、シュコダ、ヒョンデ、フォード、シトロエンで、国産メーカーはまだ参入していません。
 

WRC▲WRCを走るシトロエンC3ラリー2

ですが、これからはヨーロッパメーカー主体のラリー2も変わっていくかもしれません。

というのも今回のラリー・ジャパンで、トヨタがついにラリー2カーをお披露目されたのです。GRヤリスをベースとした、正真正銘のラリーカーです。

ラリー2規定にのっとり、トヨタGAZOOレーシング(TGR)が主体となって製作していた「トヨタ GRヤリス ラリー2」はボディはGRヤリスをそのまま使いラリー2カテゴリー共通のメカニズム(センターデフレスの4WD、前後の機械式デフなど)を搭載しています。

ラリー・ジャパンではお披露目だけでなく岡崎のSSでデモランも実施。往年のレジェンドドライバーであるユハ・カンクネンがドライブしました。動きもスムーズで速さもあり、開発がかなり進んでいるものと思われます。
 

WRC▲こちらがお披露目されたトヨタ GRヤリス ラリー2

TGR World Rally Teamプロジェクトディレクターの春名さんにお話を伺ったところ、「リリース時期は決まっていませんが早くできるように、現在開発を進めています。カスタマー向けのラリーカーですから、広い意味では誰でも購入できるラリーカーです。このGRヤリス ラリー2でラリーの楽しさを知ってもらえればうれしいですね。期待していてください!」とコメントしてくれました。元々コンパクトなボディのGRヤリスなので、回頭性の良さなどのメリットが生きれば現在のラリー2市場を覆すポテンシャルを秘めているオーラをもったラリーカーでした。

これからどんどん盛り上がっていくことが予想されるラリーシーン、そしてWRC。ラリー・ジャパンももちろんですが、全日本ラリー選手権などの国内ラリーも多彩なエントラントが見られて、観戦は以前に比べてもかなり楽しくなっています。競技者との距離が近いラリーならではの迫力と魅力は、一度味わうと病みつきになるかもしれません。ぜひ生の迫力を、音を、匂いを、観戦して味わってみてください。きっと観戦し終わった頃には、あなたもラリーのとりこになっているはずです(笑)。

WRC

現在販売中のカーセンサー2023年1月号の特集「いま欲しい! ラリーカー血統の4WD」ではTGR World Rally Teamプロジェクトディレクター春名さんのインタビューやWRCに参戦していたインプレッサ、ランエボの開発者にお話を伺い、開発ウラ話を掲載中!

文/青山朋弘、写真/トヨタ、Rally Japan、Red Bull