人生を彩るホンダ S2000と夢のガレージハウス
2024/12/11

【連載:どんなクルマと、どんな時間を。】
車の数だけ存在する「車を囲むオーナーのドラマ」を紹介するインタビュー連載。あなたは、どんなクルマと、どんな時間を?
大切なS2000を守ってくれるガレージハウス
まだ引き渡しされて数ヵ月という新築の一軒家。ガレージの中に止められていたのは、白いS2000。ホンダが創立50周年を記念して開発したFRスポーツだ。1998年に発売された前期型は最高出力250psを9000回転で発揮する2L 直4 DOHC VTECが、2005年のマイナーチェンジ以降は最高出力242psを8000回転で発揮する2.2L 直4 DOHC VTECが搭載された。

オーナーである次社勇貴さんは生粋のホンダファン。しかし、最初からS2000に乗りたいと思っていたわけではなかったという。
「ホンダを好きになったきっかけは初代NSXでした。子供の頃に街中でNSXを見かけて、リトラクタブルヘッドライトに衝撃を受けたんです。そのときはホンダ車だとは知らず、フェラーリなどと同じ海外のスーパーカーだと思っていました」
NSXがホンダの車だとわかり、そこから車好きの少年として街を走る車を夢中になって目で追っていたそうだ。ただ周りには車好きの友達がいなくて、東京モーターショーなどには1人で足を運んでいた。
自分の車を手に入れようと考えたとき、一番はNSXだったがすでに相場が高騰していてとてもじゃないが買える状況ではない。そこでもうひとつの憧れであるシビックタイプRを物色。一方で、子供の頃からオープンカーにも憧れを持っていたこともあり、マツダ ロードスターもチェックしていた。ただ、ホンダファンがマツダ車を探すのは、葛藤もあったはずだ。そのとき、ふと「そういえばホンダにもオープンカーがあったよな」と思い出す。
「実はS2000が出たときに僕はまったく興味を持てなくて、車を探す時も完全に存在を忘れていました。でもふと思い出して車のことを調べてみると、ホンダ渾身の1台であることがわかり、がぜん乗りたくなりました」

現在はS2000もNSXと同じように相場が高騰しているが、興味を持ったときはまだギリギリ手に入れることができる価格帯だった。次社さんは自宅からほど近くにあったホンダ車専門店に足を運ぶ。そして店頭にあったS2000を気に入り、迷わず購入した。
憧れのホンダ車。そして憧れのオープンカー。2つの憧れを満たしてくれる車を“初めての1台”として選んだことで、次社さんのカーライフは最高に充実したものになったそうだ。
「例えばワインディグを走ったときの爽快感。風を感じ、フロントから響く甲高いエンジン音を聞きながら走るのは最高に気持ちいいです。高回転まで回るエンジンのダイレクト感も楽しいですよ」

以前勤めていた会社には車好きの上司がいた。その人の愛車は30年間乗り続けている初代スバル インプレッサ WRX STI。自分もスポーツカーが好きでS2000を手に入れたことを報告したら、ジムカーナに誘われた。まだS2000のポテンシャルをフルに引き出す技術はないが、自分の車でスポーツ走行にチャレンジするのも面白いという。
「自分の技術でジムカーナを楽しもうとすると、S2000はまだオーバースペックであることを思い知らされるのは悔しいですね。でも、これ以上アクセルを踏むとスピンするなど、車の挙動がわかったので公道で無茶をしなくなりました。車と自分の限界を知れたのは大きいですね」
次社さんのS2000は2007年式の後期型。製造から18年経過していることもあり、楽しいだけでなく不具合が発生して困ることもある。
「いちばんキツかったのは妻と2人で、結婚式の数日前に最終打ち合わせに行く道中でエンジンが止まっちゃったこと。都心のど真ん中で周りにはたくさんの人がいるし、打ち合わせには遅刻するし、かなりの修羅場でした(笑)」
たしかにそれは最悪の状況だったに違いない。でも奥さまは次社さんのS2000に対する思いも理解してくれていた。それを感じさせてくれるのが、このガレージだ。

次社さんの仕事は、海外から原油を運ぶ大型タンカーの機関士。一度海に出ると変則的な勤務体系のため、家に戻るタイミングはわからない。久しぶりに自宅に戻るといつもS2000はほこりを被っていて、その姿を見るのが忍びなかったという。
「ほこりまみれのS2000のワイパーに『乗らない車、買い取ります』というチラシが挟まっていたときは泣きそうになりましたよ」
だからいつかマイホームを持ったらガレージを作ってS2000を大切に保管するのが夢だった。だが、会社員でガレージ付きの家なんて無理だと思っていたし、いざ家を建てることが決まった際もガレージを作ることで居住スペースが狭くなることがわかったので、ガレージは諦めようとした。
そんな次社さんを見て奥さまはこう言った。
「大切な車なんでしょ? ガレージがずっと夢だったんでしょ? それを諦めるなんて、家を建てる意味がないでしょうと。結婚式の前は散々だったけれど、自分のことを考えてくれていたんだと思って、すごく嬉しかったですね」
ガレージに止めた車は書斎から眺めることができる。車高の低いS2000の全景が見えるようにガラスを特注で作ってもらい、地面ギリギリまでガラスになるよう設計されている。まだ引き渡しされたばかりでガランとしているが、今後はガレージにテーブルなどを設置して、S2000の横でお酒を飲めるようにするつもりだという。

「ガレージを作ったら仲間を呼んでバーベキューをしたいと思っていましたが、それは無理ですね。ここで炭火を使ったら天井や壁がススだらけになるし、車が油まみれになってしまう。バーベキューは外でやります(笑)」
生涯乗り続けたい車と出合い、その車を大切に保管する場所もできた。そして家と車を守ってくれる、理解ある家族がいる。機関士は長期間家を空けなければいけない大変な仕事だが、心配事がひとつ減り、次の航海は、より仕事に集中できるはずだ。そして自宅に戻ったときの楽しみができたことで、陸で過ごす時間がこれまで以上に有意義になるに違いない。

▼検索条件
ホンダ S2000(初代)×全国
次社勇貴さんのマイカーレビュー
ホンダ S2000(初代)
●購入金額/350万円
●マイカーの好きなところ/薄いフェンダーとワイドトレッドなシルエット
●マイカーの愛すべきダメなところ/ドリンクホルダーに飲み物を置くとシフト操作がしづらい
●マイカーはどんな人にオススメしたい?/エンジン音を感じなら走ってホンダ魂を感じたい人

自動車ライター
高橋満(BRIDGE MAN)
求人誌編集部、カーセンサー編集部を経てエディター/ライターとして1999年に独立。独立後は自動車の他、音楽、アウトドアなどをテーマに執筆。得意としているのは人物インタビュー。著名人から一般の方まで、心の中に深く潜り込んでその人自身も気づいていなかった本音を引き出すことを心がけている。愛車はフィアット500C by DIESELとスズキ ジムニー