ジャガー▲電気自動車レースのトップカテゴリー、FIAフォーミュラE世界選手権で世界チャンピオンを獲得したジャガー。2018年にはいち早く100%電気自動車の市販車I-PACEを登場させるなど電動化へは積極的。ラグジュアリーブランドという印象が強いが、その歴史をひもとくと、ジャガーの市販モデルの多くはモータースポーツと深い関係にあることがわかる

BEVブランドへの転換は自然の流れ! モータースポーツともに歩むジャガー

2024年7月、ロンドンでフォーミュラE世界選手権シーズン10の最終戦が行われ、ジャガーTCSレーシングがチームランキングで世界チャンピオンになった。ジャガーにとっては1991年にシルクカット・ジャガー(XJR-14)でスポーツカー世界選手権のチームタイトルを獲得して以来の出来事となった。

そんなジャガーは、2025年から一気にBEVブランドへの転換を図る。2030年には販売するすべてのモデルをBEVとする目標を掲げており、すでに内燃エンジン車のモデルラインの整理が始まっている。スポーツカーの「Fタイプ」やセダン系の「XE」と「XF」、「XFスポーツブレーク」は生産終了。現在はジャガー・ランドローバー初の量産BEV「I-PACE」と、PHEVの設定がある「F-PACE 」「E-PACE」というSUVのみのラインナップとなっている。
 

ジャガー▲ジャガーはすでに内燃エンジン車の生産を終えており、現在生産しているのはBEVのI-PACEと、PHEVを設定するF-PACE、E-PACEの3モデル。いずれもSUVだが、2025年には新たなBEVを導入するといわれている

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レースの世界で王者として君臨していたジャガー

ここで少しジャガーの歴史を振り返ってみよう。ウィリアム・ライオンズと、ウィリアム・ウォームズレイによって1922年に設立されたサイドカーの製造を手がける「スワロー・サイドカー・カンパニー」に端を発する。

その後、完成車を手がける自動車メーカーへと転身し、1933年には「SSカーズ」へ社名変更。1935年よりモデル名に「ジャガー」の名称を付与するようになり「SSジャガー」と呼ばれるようになった。戦後の1945年に社名を「ジャガー・カーズ」へ、ブランド名を「ジャガー」とし、1948年に2座のスポーツカー「XK120」を発表する。
 

ジャガー▲1948年に発表、翌1949年から販売された2シーターのロードスターモデルであるXK120。創業者であるウィリアム・ライオンズがデザインした美しいプロポーション、そしてライバル車と遜色ない優れたパフォーマンスで世界的にヒットした。車名にある「120」は、公称最高速度120マイルを意味している

1950年代にはXK120をベースに、レーシングカーの「Cタイプ」を開発。1951年、ル・マン24時間レースで初優勝を遂げ、1953年には2度目の勝利をあげた。ちなみにこのマシンはレーシングカーとして初めてディスクブレーキを備えたモデルといわれる。

1954年には「Cタイプ」の発展型となる「Dタイプ」を発表。空力を重視したモデルで、運転席後方に特徴的な大型のフィンが備わる。このDタイプは、1955年から1957年までル・マンで3連覇を果たし、伝説のマシンとなった。そしてこのDタイプをベースにロードゴーイングバージョンの「XKSS」が作られた。

ちなみに近年は、ジャガーのクラシックカー部門であるジャガー・クラシックが「XKSS」「Dタイプ」「Cタイプ」「Eタイプ・ライトウェイト」といった伝説のスポーツモデルを復刻。これは現存車両をレストアするのではなく、シャシーやボディなど当時のままを再現した新車として生産したもので、コレクター垂ぜんのモデルとなっている。

1960年頃には、サルーンの「マーク2」やスポーツカーの「Eタイプ」などを発売し大成功を収めた。しかし、後のオイルショックの影響などもあり販売が低迷。一時は国有化されていた。
 

ジャガー▲フェラーリやメルセデス・ベンツといった強豪を抑え、ル・マン24時間レース3連覇を成し遂げたDタイプ。アルミモノコックボディを採用し、空力を追求した特徴的なテールフィンをもつ
ジャガー▲DタイプをベースとしたロードゴーイングカーがXKSS。1954年からの2年間で16台だけ生産された幻のスーパーカーといわれる。なお、2016年にはこのXKSSをはじめとした名車たちを復刻すると発表。わずかな台数だが新車として生産された

1980年代はトム・ウォーキンショー率いるTWR(トム・ウォーキンショー・レーシング)チームが「XJS」でETCC(欧州ツーリングカー選手権)などに参戦。その後、ジャガーのV12エンジンを使った耐久レース用のプロトタイプレーシングカー「XJR-6」を開発。1985年から世界耐久選手権(現在のWEC)に参戦し、1987年シーズンは「XJR-8」に進化。1988年のル・マン24時間レースには「XJR-9」で挑み、ポルシェとの激闘の末、31年ぶりに優勝を遂げた。

さらに、1990年のル・マン24時間レースでは進化版の「XJR-12」がワンツーフィニッシュを果たす。そして1991年にスポーツカー世界選手権へと名称変更された初のシーズンでチームタイトルを獲得した。

1989年、ジャガーはフォード傘下となる。1999年にフォードはF1チームのスチュワート・グランプリを買収。傘下のジャガーブランドで2000年からF1参戦を開始するも、業績不振により2004年シーズンをもってF1から撤退。ちなみに、このチームを購入したのが現在のレッドブル・レーシングだ。

2008年よりインドのタタ・モーターズ傘下となる。競合よりもひと足早く2018年にはBEVの「I-PACE」を発売しており、レース活動においても電気自動車に集中。2016/2017シーズンよりFIAフォーミュラE 世界選手権に参戦を開始。今年、8シーズン目にして念願のチームタイトルを獲得した。

フォーミュラE世界選手権は、2026/2027年のシーズン13からGen4(第4世代)のマシンの導入が予定されている。そのマシンの最高出力は800ps超と大幅にパワーアップすると目される。ジャガーはすでに2030 年までメーカーとしてフォーミュラEに参加することを表明しており、ここで得たテクノロジーを市販車にフィードバックしていくという。

スポーツカーブランドとしてモータースポーツとともに歩んできたジャガーが、今後どんなBEVのスポーツカーを作るのか期待したい。
 

ジャガー▲ジャガーは2016/2017シーズンからフォーミュラE 世界選手権に参戦しており、このまま2030年までメーカーとして参加するとも発表している
ジャガー▲ジャガーの今シーズンの戦績は通算4勝、14回の表彰台を獲得。その結果、チームランキングで世界チャンピオンに輝いた
ジャガー▲2018年に登場して昨年初のマイナーチェンジを実施したI-PACE。電動化ブランドへと転換するジャガーの象徴的なモデルといえる
文/藤野太一 写真/JAGUAR LAND ROVER Newspress