house ▲エントランスから眺めると、そこには3台分の駐車スペースが用意されている。手前にはBMW ミニがあり、その隣はメルセデス・ベンツ GLA。一番奥にはランドクルーザー(300系)が止められている


ダイニングルームから外を眺めていると、雪ですら演出のための装飾のように思える。車好きの施主のために愛車の気配を至るところで感じられるだけでなく、刻々と変わる景色が施主を癒やす邸宅は、愛車をはじめ、好きなモノだけに囲まれたオアシスのような空間だった。
 

起きてすぐ、そして寝る前に愛車を眺められる暮らし

玄関ドアを開けると、ラグジュアリーホテルのようなエントランスが出迎えてくれる。その雰囲気は階段を上がった先のダイニングやリビングでも変わらない。
 

house ▲エントランスからリビングへと続く階段。愛車が見えるだけでなく、中庭の落葉樹などが愛車を彩り、季節が移り変わったことを施主や訪れた人々に教えてくれる

目にする家具や調度品は趣味が良く、余計なモノは何ひとつない。それでいてブランドが統一されているわけではなく、イタリアの有名ブランド品もあれば、イケア製もある。あるべきところに厳選された家具類が置かれている。スタイリストを入れたのか? と聞いたほどだが、もちろんそんなはずはなく、建ててから約5年間、常にこんな状態だという。

モノへのこだわりが強い施主だけに、高校生の頃から車に興味をもったのは当然かもしれない。起業を考えた30代の時にポルシェ マカンを購入した。本来は資金集めなど苦しい時期だったにも関わらず、あえて少し背伸びをしたそうだ。

「ふと、人生は一度きりだと思って。買える年で考えたら10年は待たないといけないけれど、それよりも時間の方が大切じゃないか」と。やりたいことをやって、ダメなら諦めがつく。

その強い気持ちが人生を好転させ、車好きに拍車がかかった。そんな施主だから、家を建てる時の要望に「車が2~3台は止められること」、そして「金属や木、石、ガラスなどマテリアルをバランスよく用いてほしい」という2点を挙げた。

この2つだけをハウスメーカー数社に投げたのだが、ピンとくる案が出てこない。そんな時に訪れたのが星野建築事務所だ。
 

house ▲ガレージにシャッターを設けることもできたが、星野さんは施主との会話の積み重ねの中から、外(街)に閉じるより、開放的なピロティとしての役割を持たせた

「ショールームを見て、最初は自分の感覚より、少しカジュアルかなと思ったんですが……」ダメもとで、と依頼してみることに。

建築家の星野貴行さんは、何度も施主との打ち合わせを繰り返した。

「車も同じだと思いますが、好きな車はいろいろあっても、いざ一生付き合う1台を選ぶのは、とても難しいんです」

だから星野さんは施主との会話を重ねながら、施主が言葉に表せないような、あるいは本人が気づいていないような本当の好みを探っていった。

こうして最初に提案したのが、現在のスキップフロアのあるガレージハウスだ。中庭を挟んで一方を上げた。外からの視線はすべて遮断しつつも、中庭から光が家中に降り注ぎ、外とゆるやかにつながる邸宅。
 

house ▲寝室やゲストルームにつながる廊下から見たガレージ側の景色。朝起きたら、そして就寝前にも愛車に一瞥をくれることができる。空を見上げればその日の天候も知れる
house ▲玄関ドアを挟んでその両側と、浮遊感のある階段の横がガラス張りのエントランス。最低限の調度品しか置かれていないこともあり、明るく開放的な空間になっている

施主は「段差の多い家は好みじゃないと思っていたんですが、CGを見せてもらったら、すごく魅了されたんです」。この家に入り込んだような感覚になれるCGには、サンプルを見ながら決めていった天井や壁、床材までもリアルに表現されていた。

「私がデザインするのは、図面では伝わりにくい“空間”。ですからCGは何度も検証しながら緻密に作ります」

暮らして5年経っても先述のように室内が整っているのは、施主のセンスもさることながら、施主ならきっとここにこんな家具を置きたいだろうな、という部分まで星野さんがデザインしたことが大きいだろう。

夜はダイニングから見る月がきれいだという。「もちろんテラスに上がれば見られるんですが、家の中にいても外にいるような感覚になれる。この家から見えるどの景色も好きです」と施主。
 

house ▲2階のダイニングから南側を眺めると、寝室などがある1.5階と、テラスのある2.5階が見える。1.5階のガラスには、ダイニングの下に佇む愛車がおぼろげに映り込む
house ▲スキップフロアと3台分のガレージの間口は、本来構造的には不利だが、木造SE構法で高い耐震性能を確保。またガラスを多用するが、雪国ゆえ高い断熱性能も備える

そのひとつに、愛車がふと目に入る景色もある。四季折々、天候や時間でも表情が移り変わる。

そんな景色が施主を癒やすだけでなく、一流のテーラーによって見事に採寸されたスーツのような家だから、施主の好みのものであれば、置けば何でもサマになる。

「次はどんな車にしようか。それを考えるのが楽しい家です」
 

house ▲リビングの壁には隣のテラスと同じレンガが用いられ、数値以上の広さを感じる。テラスは外部から一切見られないため、夏になると風呂上がりにここで寛ぐという
house ▲施主の選んだキッチンとダイニングテーブルの色柄に合うように造作された収納。床は無機質になりすぎないよう一枚ごとに微妙に異なる模様のタイルが用いられている

■主要用途:専用住宅
■構造:木造SE 構法
■敷地面積:203.03㎡
■延床面積:224.83㎡
■設計・監理/星野建築事務所
■TEL:025-281-1599

※カーセンサーEDGE 2023年3月号(2023年1月27日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています
 

文/籠島康弘、写真/尾形和美